第三十四話 王都への道
そして、王都へ向かう日。
「ケンジさん、忘れ物はありませんか?」
「大丈夫です」
「お金はちゃんと持ちました?」
「はい」
「魔法薬は?」
「あります」
「身分証は?」
「あります」
「……本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫ですって」
シルヴィアが心配そうに俺を見る。
……なんだろう。
完全にお母さんだ。
でも、美人に心配してもらえるというのは、正直ちょっと嬉しい。
俺は思わずニコニコしてしまう。
「……ケンジさん?」
「はい?」
「本当に大丈夫ですか?」
「……はい」
どうやら、余計に心配されたらしい。
すると、シルヴィアが今度はソードのほうを向いた。
「ソードも、ちゃんと食事してくださいね」
「ああ」
「無理しちゃダメですよ」
「分かってる」
「怪我をしたら、ちゃんと治療してくださいね」
「分かったって」
「それから――」
「……シルヴィア」
ソードが苦笑する。
「大丈夫だ。子供じゃないんだから」
「でも……」
「ちゃんと気をつける」
「……分かりました」
シルヴィアはようやく頷いた。
……。
俺と同じだ。
ソードさんも完全にお母さんモードの洗礼を受けている。
いや、むしろこっちが本家なのか?
そんなことを考えながら、俺は王都へ向かった。
今回、俺の護衛をしてくれるのは赤の連撃のメンバーだ。
ソード、ブレンダ、ウィルチ、シード。
本来ならAランク冒険者が、わざわざ護衛の仕事をすることなんてない。
それでも、
「ケンジに何かあったら困るから」
と、みんながついてきてくれた。
ありがたいことだ。
……まあ、俺としても美人が二人いるので、悪い旅ではない。
王都へ向かう道中。
俺は馬車の中で、ふと疑問に思った。
「そういえば……なんで俺の治癒魔法の話が、王都の研究室にまで伝わってるんでしょう?」
すると、向かいに座っていたウィルチが、何でもないことのように答えた。
「私が色んなところで話したから」
「…………」
「ケンジの治癒魔法ってすごいでしょ?」
「……お前かぁ」
思わず呟いてしまった。
「何?」
「いえ……」
ウィルチが首を傾げる。
……言えない。
「余計なことを言わないでください」なんて。
こんな美人に。
俺には無理だった。
「まあ、いいですけど……」
そう言うしかなかった。
すると、隣にいたブレンダが口を開いた。
「私は今でも信じられないけどね」
「何がですか?」
「カストロがドラゴンを倒したこと」
ブレンダは少し考えるように言う。
「怪我をする前のカストロも知ってるけど、あのときのカストロは明らかに違った」
「そんなにですか?」
「うん。別人みたいだった」
ブレンダは真剣な顔で続ける。
「身体の動きも、力も、全部おかしかった。ドラゴンの攻撃を受けても平気な顔をしてたし……最後なんて、本当にスライムを斬るみたいに真っ二つにしたから」
「…………」
「今思い出しても、どう考えてもおかしい」
「そうですよね……」
俺は頷きながら、ブレンダさんを見る。
……ブレンダさん、やっぱり美人だなぁ。
すると、今まで黙っていたシードが口を開いた。
「俺でも、あのときのカストロは目で追えなかった」
「シードでも?」
「うん。斥候だから、動きには自信があるんだけど……あれは無理だった」
「そんなにですか?」
「うん。あの動き、すごく自然だった。力任せって感じでもなかったし」
そう言うと、シードはフードに手をかけた。
「……ちょっと暑いな」
フードを取る。
「…………」
そこにいたのは、超絶美少女だった。
「シードって、女の子だったの?!」
俺が思わず声を上げる。
「そうだけど?」
シードは不思議そうに首を傾げた。
「…………そうですか」
俺は冷静に答えた。
隣を見る。
ウィルチもブレンダも、特に驚いていない。
むしろ、
「久しぶりに顔見たけど、やっぱり可愛いね」
「うん。相変わらず可愛い」
なんて言っている。
ソードも特に反応していない。
……みんな知ってたのか。
俺だけ知らなかった。
シードはみんなに見られていることに気づくと、
「……やっぱり被っとこ」
そう言って、またフードを被った。
……まあ、分かる。
こんな美少女がずっと顔を出してたら、目立つよな。
俺は、ふと思い出した。
「そういえば、ソードさん」
「ん?」
「シルヴィアさんとは幼馴染なんですよね?」
「ああ」
「……もしかして、付き合ったりするんですか?」
少し探るように聞いてみる。
ソードは少し考えてから、
「いや。ただの幼馴染だ」
「……そうなんですか」
俺はもう一度聞いた。
「でも……あんなに綺麗なのに?」
するとソードは、当たり前のように答えた。
「ああ見えて、怒るととても怖いんだ」
「……」
「それに、食事はちゃんと食べろとか、無理するなとか、怪我したらすぐ治療しろとか……母親みたいなことを言われる」
「…………」
「だから、異性というより家族みたいな感じだな」
「…………」
男前かよ!!
……いや、ソードさんがいい人なのは分かってる。
分かってるんだけど。
シルヴィアさんみたいな美人と幼馴染で、しかもこんなに自然に一緒にいる。
……なんか、気に食わない。
さらにウィルチさんもいる。
そしてシードも超絶美少女だった。
……なんでこの人、こんなに美人に囲まれてるんだ。
俺はソードを見ながら、なんとも言えない気持ちになった。
そんなこんなで、俺たちの王都までの道のりは続くのであった。




