第三十二話 ドラゴンスレイヤー
カストロさんと赤の連撃は、洞窟へ向かった。
その背中を見送ったあとも、シルヴィアはしばらく森の奥を見つめていた。
「……大丈夫かな」
「大丈夫だと思いますよ」
俺はそう答えた。
……たぶん。
カストロさんが大怪我をして戻ってきたばかりなのだ。
それなのに、また洞窟へ向かった。
しかも、そこにはドラゴンがいる。
「カストロさんも心配だけど……」
シルヴィアが小さく呟く。
「ソード……大丈夫かな」
「そうですね……」
俺たちは森の奥を見つめながら、帰りを待った。
そして――
一時間ほど経った頃。
「戻ってきた!」
誰かが叫んだ。
森の奥から、人影が見える。
シルヴィアが立ち上がった。
「ソード!」
俺たちも一斉にそちらを見る。
カストロさん。
ソード。
ブレンダ。
ウィルチ。
シード。
そしてギレンさん。
全員いる。
誰も欠けていない。
シルヴィアが駆け寄った。
「ソード! 大丈夫!?」
「ああ。大丈夫だ」
ソードが答える。
シルヴィアはホッとしたように息を吐いた。
「よかった……」
俺も安心した。
ギレンさんを見ると、少し怪我をしている。
「ギレンさん、少し怪我していますね」
「ああ。大したことはない」
「治しておきます」
俺はギレンさんに近づき、治癒魔法を使う。
傷はすぐに消えた。
「これで大丈夫です」
「助かる」
その様子を、カストロさんがじっと見ていた。
そして、小さく笑った。
「……まあ、いいだろ」
「?」
「危機は去ったんだ」
カストロさんは、それ以上何も言わなかった。
……何のことだ?
俺が首を傾げていると――
カストロさんが、何でもないことのように言った。
「それより、ドラゴンは倒したぞ」
「…………」
誰も反応しなかった。
「…………え?」
最初に声を出したのはシルヴィアだった。
「ドラゴン……?」
「ああ」
「倒したんですか?」
「そうだ」
「…………」
シルヴィアが完全に固まった。
周囲にいたC級冒険者たちも、顔を見合わせている。
「……ドラゴンを?」
「倒したって言ったのか?」
「聞き間違いじゃないよな?」
「いや、俺もそう聞こえた」
ざわざわと声が広がっていく。
一人の冒険者がカストロさんに詰め寄った。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「ん?」
「ドラゴンですよ!?」
「ああ」
「本当にドラゴンですか!?」
「そうだ」
「魔の森の奥にいた、あのドラゴンですよね!?」
「他に何がいるんだ?」
「いやいやいや!」
冒険者が頭を抱える。
「だってドラゴンですよ!?」
「分かっている」
「分かってて言ってます!?」
「もちろんだ」
「じゃあ、どうやって倒したんですか!?」
その質問に、全員が黙った。
俺も聞きたかった。
いくらカストロさんとギレンさんが元S級冒険者とはいえ、ドラゴンは別格だ。
さっきまでだって、
『二人でも厳しい』
そういう話だった。
だからこそ、何か特別な方法があったはずだ。
弱点を突いたのか。
特殊な技を使ったのか。
二人で連携して、一瞬の隙を狙ったのか。
カストロさんが答える。
「いや」
そして、腰の剣に手を添えた。
「剣でエイッとやったら」
「…………」
「スルッと真っ二つになった」
「…………」
静寂。
数秒間、誰も喋らなかった。
「…………は?」
シルヴィアの口から、呆然とした声が漏れる。
次の瞬間。
「はぁ?!」
「はぁ?!?!」
「いやいやいやいや!」
「そんなわけないでしょう!」
「ドラゴンですよ!?」
「エイッって何ですか!?」
「スルッとって何ですか!?」
一気に騒ぎになる。
「元S級二人でも厳しいって話だったじゃないですか!」
「それが何で剣一本で真っ二つなんですか!」
「ドラゴンってそんなに簡単に斬れるものじゃないでしょう!」
「俺、今までドラゴンの話を聞いてきましたけど、そんな話一度も聞いたことないですよ!」
C級冒険者たちが次々と叫ぶ。
シルヴィアも驚きを隠せない。
「カストロさん……本当に?」
「ああ。本当だ」
「ギレンさんも?」
「ああ」
ギレンさんが頷く。
「本当に、カストロが一撃で斬った」
「…………」
シルヴィアが絶句する。
俺も絶句した。
いや。
これ、本当に何なんだ?
カストロさんは困ったように頭を掻く。
「いや、俺もよく分からんのだ」
「分からないんですか!?」
「身体が妙に軽くてな」
「だからってドラゴンは斬れません!」
「そう言われてもな……」
カストロさんは本当に困っている。
……待て。
身体が妙に軽い?
俺は、ふと嫌な予感がした。
「……カストロさん」
「ん?」
「治療してから、どれくらい経ちました?」
「ん?」
カストロさんが少し考える。
「一時間くらいじゃないか?」
「…………」
俺の頭に、あのメッセージが浮かんだ。
『治った瞬間からしばらく盛れ期入って無双できるとかマジ神~☆』
「…………」
そういうことだったのか。
治った瞬間から、しばらく。
その間だけ、無双できる。
そして、その「しばらく」は――
約一時間。
ドラゴンを一撃で真っ二つにできるほどの、異常な強化。
……なるほど。
俺はようやく理解した。
あのクソみたいなメッセージ。
ふざけた言い方だったけど、内容だけは正しかったらしい。
「…………」
俺は頭を抱えた。
……なんでこんな重要な情報を、そんな言い方で伝えるんだよ。




