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煩悩だらけの異世界転移 ~裸が見たいだけなのに聖人扱いされています~  作者: kammy


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第三十一話 緊急事態

その日の夜。


俺たちは男女別にテントを張り、交代で見張りを立てながら夜を過ごした。


明日は早朝から洞窟の調査だ。


洞窟へ向かうメンバーは、朝早くに出発するらしい。


俺は治療担当なので、特に早起きする必要はない。


そう思って、俺は普通に眠った。


そして翌朝。


「……ん」


俺は目を覚ました。


テントの外は、すっかり明るくなっている。


「朝か……」


欠伸をしながら外へ出る。


洞窟へ向かう冒険者たちは、もう出発したらしい。


俺はそのまま治療室へ向かった。


「おはようございます」


中に入ると、シルヴィアがいた。


治療に使う道具や薬草、包帯などが、すでに綺麗に並べられている。


「おはようございます、ケンジさん」


「……もう準備してるんですね」


「はい。ソードを見送ってから、準備していました」


なるほど。


シルヴィアは朝早くから準備していたらしい。


俺は並べられた道具を見る。


魔法薬も、使いやすいようにまとめられている。


「ありがとうございます」


「いえ」


シルヴィアが笑う。


そして、ふと俺を見る。


「ケンジさんも、昨日は遅くまで準備されていたんですよね?」


「……え?」


思わず聞き返した。


「魔法薬のこととか、今日の治療の流れとか……色々考えていたんじゃないですか?」


「……」


してない。


俺は普通に寝た。


何なら、何も考えずに寝た。


「きっと昨日も、遅くまで色々考えていたんだろうなって」


シルヴィアは本当にそう思っているらしい。


「……まあ」


俺は曖昧に頷いた。


否定するのも、なんだか違う気がした。


「だから、今日はゆっくり来てもらって大丈夫ですよ」


「……」


なるほど。


どうやら俺が寝坊したとは思われていないらしい。


むしろ、昨日の夜遅くまで準備していたから、朝はゆっくりしていたと思われている。


……俺、ただ寝てただけなんだけどな。


まあ、いいか。


俺は治療室の準備を始めた。


それから、しばらくは何も起こらなかった。


森は静かだった。


洞窟へ向かった冒険者たちが戻ってくる様子もない。


「今日は静かですね」


シルヴィアが言う。


「そうですね」


俺も頷いた。


洞窟の調査は順調に進んでいるのだろうか。


そんなことを考えていた、その時だった。


「ケンジ!」


突然、外から声が聞こえた。


「治療頼む!!」


慌てた声だった。


俺とシルヴィアが顔を見合わせる。


「何かあったみたいですね」


「はい!」


俺たちが治療室から出る。


すると、赤の連撃がこちらへ走ってくるのが見えた。


息を切らし、顔には焦りが浮かんでいる。


その後ろから、何人かが誰かを運んでいた。


「カストロさんが!」


「大怪我です!」


「早く治療を!」


「カストロさん……?」


俺はすぐに駆け寄った。


運ばれてきたのは、間違いなくカストロだった。


だが、いつもの余裕のある姿とはまるで違う。


全身が傷だらけで、明らかに重傷だった。


「……これは」


俺はすぐに治療を始めた。


まずは傷の状態を確認するため、服を脱がせる。


シルヴィアにも手伝ってもらい、カストロの身体を確認していく。


かなり酷い。


「ケンジ、聞いてくれ!」


声をかけてきたのはソードだった。


「何があったんですか?」


俺は治療を続けながら聞く。


「洞窟の奥に、ドラゴンがいた」


「……ドラゴン?」


思わず聞き返す。


「そうだ。俺たちは洞窟の奥まで進んだ。そこでドラゴンを見つけた」


ソードの顔は真剣だった。


「俺たちが戦おうとした時、ドラゴンがブレスを吐いた」


赤の連撃の一人が続ける。


「その時、カストロさんが俺たちをかばったんだ」


俺はカストロを見る。


ブレスによる大怪我。


これだけの傷を負いながら、仲間をかばったのか。


「それで、ギレンさんは?」


俺が聞く。


「ギレンは今も洞窟に残ってる」


「一人で?」


「ああ。俺たちを逃がすために、ドラゴンの相手をしてる」


「……大丈夫なんですか?」


俺が聞くと、ソードは難しい顔をした。


「万全のギレンなら、時間を稼ぐくらいはできるかもしれない」


ソードは一度言葉を切った。


「でも、今のギレンは……義手だからな。ドラゴン相手に一人で時間を稼ぐのは、かなり厳しいと思う」


「……」


俺はカストロの治療を続けながら、その言葉を聞いていた。


そして――


「あ」


そうだった。


ギレンは今、義手ということになっている。


俺が腕を生やしたことを隠すために、そういうことにしていたんだった。


……危ない。


完全に忘れてた。


「……ケンジ?」


シルヴィアが不思議そうに俺を見る。


「いえ、なんでもありません」


俺は再びカストロの治療に集中した。


傷を一つずつ確認し、治癒魔法をかけていく。


かなりの大怪我だった。


だが――


「……これで」


最後の傷を治し終える。


その時だった。


「……う」


カストロの身体が動いた。


「カストロさん!」


ソードが声を上げる。


ゆっくりと、カストロが目を開けた。


「……ここは?」


「治療室です。ケンジさんが治してくれました」


「そうか……」


カストロは自分の身体を確認する。


そして、すぐに起き上がった。


「ギレンは?」


「まだ洞窟です」


ソードが答える。


「一人でドラゴンの足止めをしています」


「……そうか」


カストロは立ち上がった。


「なら、戻る」


「待ってください!」


ソードが声をかける。


「ギレンを連れて、戻ってきてください」


「……」


「ドラゴンなんて、俺たちがどうにかできる相手じゃありません」


ソードの表情は真剣だった。


「ギレンを連れて、逃げてください」


カストロはしばらく黙っていた。


そして、洞窟の方を見る。


「いや」


「え?」


「俺とギレンの二人でやる」


ソードが目を見開く。


「元S級の俺たち二人でも、ドラゴンは厳しい」


カストロはそれを認めた。


「だが、倒さなければならん」


「でも……」


「今回の魔物の異常な流出。その原因が、あのドラゴンである可能性がある」


カストロは続けた。


「それに、ドラゴンそのものが脅威だ」


誰も口を挟めなかった。


「このまま放っておくわけにはいかん」


カストロは拳を握った。


「俺とギレンの二人で、やる」


「カストロさん……」


ソードが心配そうに見る。


赤の連撃のメンバーも、険しい表情を浮かべている。


誰もが分かっている。


相手はドラゴンだ。


元S級が二人でも厳しい相手。


それでもカストロの表情に、迷いはなかった。


「……分かりました」


やがて、ソードが口を開いた。


「俺たちも行きます」


「ソード?」


「ギレンを助けるんでしょう?」


ソードはカストロを見る。


「なら、俺たちも行きます」


ブレンダも頷いた。


「私も行く」


「私も」


ウィルチが続く。


シードも黙って頷いた。


「俺も行きます」


「お前たちは……」


カストロが何か言おうとする。


だが、ソードが遮った。


「分かっています。ドラゴンと戦えるなんて思ってません」


ソードは真剣な顔で言った。


「でも、何かあった時にギレンを助けられるかもしれない」


カストロはしばらく黙っていた。


そして、小さく頷いた。


「……分かった」


こうして、五人が洞窟へ向かうことになった。


ソード。


ブレンダ。


ウィルチ。


シード。


そして、カストロ。


誰も笑っていなかった。


誰も軽口を叩かなかった。


ただ黙って、洞窟のある森の奥へ向かっていく。


その背中を、俺たちは見送った。


……。


なんだろう。


まるで、帰ってこられない場所へ向かっているように見えた。

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