第三十話 盛れ期ってなに?
カストロに呼ばれ、俺たちは治療小屋の外へ出た。
集まった冒険者たちを前に、カストロが口を開く。
「まず、今まで全員が無事なのはケンジのおかげだ」
「……」
いきなり名前を出され、俺は少し戸惑った。
周囲からも視線が集まってくる。
「ケンジがいなければ、ここまで負傷者を抑えることはできなかっただろう」
カストロがそう言うと、何人かの冒険者が頷いた。
「本当に助かっている」
「何度も命を救われたからな」
「ありがとう、ケンジ」
次々と声をかけられる。
……なんだか、こういうのは慣れない。
大勢の前で感謝されると、どう反応していいのか分からない。
俺は少しだけ視線を逸らした。
でも――
感謝されるのは、悪くない。
素直に、そう思った。
「それで、これからの話だ」
カストロが続ける。
「俺たちが確認した限り、この先には木々が大量になぎ倒され、地面もかなり荒れている場所がある」
冒険者たちの表情が変わる。
「そして、その近くに洞窟がある」
洞窟。
俺も黙って話を聞く。
「これまで俺たちは、森の奥から流れてくる魔物を迎え撃ってきた。だが、明日からは少し変わる」
カストロが一度、全員を見渡した。
「明日の早朝から、その洞窟を調査する」
ざわっ、と空気が動いた。
「洞窟の周辺だけじゃない。これからは、さらに奥から魔物が流れてくる可能性もある」
その言葉に、C級冒険者たちの表情が引き締まる。
「なら、俺たちも気を引き締めないとな」
「いよいよ本番ってわけか」
「洞窟の中に何がいるか分からないぞ」
さっきまで疲れを見せていた冒険者たちも、次第に戦う顔になっていく。
俺もその様子を見ながら、明日のことを考えた。
魔の森のさらに奥。
そこにある洞窟。
いったい何があるんだろう。
そう思った、その時だった。
頭の中に、文字が浮かんだ。
『治った瞬間からしばらく盛れ期入って無双できるとかマジ神~☆』
…………。
俺は固まった。
何だこれ。
(いや、意味が分からねえよ!)
頭の中で叫ぶ。
(「盛れ期」って何だよ!)
(何がどうなったら盛れ期なんだよ!)
(「無双できる」とか、説明になってないだろ!)
俺は眉間に皺を寄せた。
(しかも最後の「マジ神~☆」って何だよ!)
なんでこんなテンションなんだ。
こっちは魔の森の深部に行こうとしてるんだぞ。
もっとこう……。
危険度とか。
能力の上昇とか。
そういう、ちゃんとした説明はできないのか。
俺はさらに眉間に皺を寄せる。
(いや、そもそも今までのメッセージもそうだろ!)
今まで何度も頭の中に現れてきたメッセージ。
そのたびに思っていた。
意味が分からない。
(何でいちいちそんな言い方なんだよ!)
(普通に説明しろ!)
(こっちは命懸けなんだから、もっと分かりやすくしろ!)
俺の顔は、どんどん険しくなっていった。
すると――
「……ケンジ?」
カストロの声が聞こえた。
俺は顔を上げる。
いつの間にか、みんなが俺を見ていた。
シルヴィアも。
ギレンも。
赤の連撃のみんなも。
どうやら、全員が心配そうな顔をしている。
……。
あ。
これ、俺が明日のことを真剣に考えていると思われてるな。
違う。
俺が考えていたのは、頭の中に出てきた謎のメッセージについてだ。
でも――
『頭の中に出てくるギャル語のメッセージに文句を言ってました』
なんて、言えるわけがない。
「……大丈夫か?」
カストロが声をかけてくる。
「ええ。大丈夫です」
俺はなんとか答えた。
「少し……考えていただけです」
カストロは、それ以上聞かなかった。
「そうか」
そして、どこか安心したように頷いた。
周囲の冒険者たちも、同じように頷いている。
……。
たぶん俺が、これからの戦いについて真剣に考えていると思っている。
違うんだけどな。
俺はもう一度、頭の中のメッセージを思い返した。
(……盛れ期って何なんだよ)
しばらく考える。
(いや、もういい)
(考えても分からん)
俺は小さく息を吐いた。
……なんかもう、訂正するのも面倒になってきた。
こんにちは
ここまで読んでくれている人がいたら、本当にありがとうございます。
四十話くらいで終わらそうとしてましたが、もう三十話まで来てしまい、終わる気がしないです。
まだまだ書きたいことがあるのでお付き合いいただければ幸いです。




