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煩悩だらけの異世界転移 ~裸が見たいだけなのに聖人扱いされています~  作者: kammy


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第二十八話 作戦開始

 治療用の小屋に入ると、俺は中を見回した。


 簡易的なベッドや治療用の台。


 薬草や包帯、それに水なども用意されている。


 これなら、ある程度の治療はできそうだ。


「さて、どうしましょうか?」


 シルヴィアさんが俺を見る。


「その前に、俺から一つ提案があるんです」


「提案ですか?」


「はい」


 俺は用意しておいた三色の紐を取り出した。


「赤、白、黄色です」


「これは?」


「患者さんの傷の程度を分けるために使います」


 俺は三本の紐を並べた。


「赤は重症。白は中くらいの傷。黄色は軽傷です」


「なるほど」


「まずシルヴィアさんに傷を見てもらって、どの色か決めてもらいます」


「私がですか?」


「はい。そうすれば、患者さんが増えても分かりやすいと思います」


 俺は続けた。


「黄色なら、ここにある薬草と包帯で対処する」


「はい」


「白は、戦闘に支障が出そうな傷なら、持ってきた魔法薬を使う」


 シルヴィアさんが頷く。


「そして赤は……」


 俺は治療用の台車を見る。


「服を脱がせる必要がある場合は、その台車に乗せて、俺が治療するスペースまで運びます」


「分かりました」


「二人で全部の患者さんを最初から治療するより、先に分けたほうがスムーズかなと思って」


「……すごいですね」


「え?」


「昨日、魔法薬を用意しただけじゃなくて、治療の流れまで考えていたんですね」


「ああ……まあ」


 実際には、そんなに大したことを考えたわけじゃない。


 昨日の夜、魔法薬を作り終わったあと、シルヴィアさんのことを考えていたら眠れなくなって。


 その間に、ふと思いついただけだ。


「ケンジさん、昨日あまり眠れていないって言ってましたよね?」


「はい」


「もしかして、このことを考えていたんですか?」


「え?」


 俺は一瞬、言葉に詰まった。


「……まあ、少しは」


 嘘ではない。


 少しは考えた。


 シルヴィアさんが近くにいると思ったら眠れなかっただけだけど。


「やっぱり……」


 シルヴィアさんが感心したように俺を見る。


「ケンジさんって、本当にすごいですね」


「いや、そんな……」


「私だったら、そこまで考えられません」


「まあ、現場で困らないようにと思っただけですよ」


 シルヴィアさんは小さく笑った。


「ありがとうございます。これなら、患者さんが増えても対応しやすそうです」


「そうですね」


 よし。


 尊敬された。


 シルヴィアさんに尊敬された。


 昨日、眠れなかった甲斐があったな。


 俺は密かに嬉しくなった。


     ◇


 作戦が始まってしばらく経った。


 しかし、まだ魔物はそれほど入口まで流れてきていないらしい。


 治療用の小屋も、今のところ暇だった。


 俺とシルヴィアさんは、患者が来るのを待ちながら話をしていた。


「それにしても、少し心配ですね」


「何がですか?」


「ソードです」


「ああ……」


 シルヴィアさんが森の奥を見る。


「ソードとは、昔からの幼馴染なんです」


「そうなんですか?」


「はい。昔から知っているので……」


 シルヴィアさんは少し不安そうな顔をしていた。


「ソードは昔から、ちょっと無茶をするところがあるんです」


「確かに、そんな感じはしますね」


「今回も大丈夫かなって」


「でも、カストロさんもギレンさんも一緒ですし、赤い連撃もいますから」


 俺はできるだけ安心させるように言った。


「きっと大丈夫ですよ」


「……そうですよね」


 シルヴィアさんが少し笑った。


 俺はその顔を見ながら、ふと思った。


「……もしかして」


「はい?」


「シルヴィアさんって、ソードのこと好きだったりして」


「えっ?」


 シルヴィアさんの顔が赤くなる。


「……もう、みんなには内緒ですよ」


「はい」


「実は……そうなんです」


「そうですか……」


 俺は普通に返事をした。


 でも――。


 心の中では。


 えー。


 なんだよ、それー。


 ソードかよー。


 幼馴染ってなんだよー。


 ずるくない?


 いや、ずるくない。


 ソードは何も悪くない。


 シルヴィアさんも何も悪くない。


 俺が勝手にちょっと期待していただけだ。


 ……でも、なんだよー。


 せっかく昨日、眠れないくらいドキドキしてたのに。


 今日だって、シルヴィアさんと二人で仕事できるって、めちゃくちゃ楽しみにしてたのに。


 ソードかよー。


 俺は心の中で何度も文句を言った。


 もちろん、そんなことを顔に出すわけにはいかない。


「ソードなら、きっと大丈夫ですよ」


「……そうですね」


 シルヴィアさんが安心したように笑う。


 ……その笑顔、俺にも向けてほしかったなぁ。


 俺は心の中で、もう一度だけため息をついた。


     ◇


 そうこうしているうちに、入口のほうが少し騒がしくなった。


「治療を頼む!」


 冒険者の声が聞こえる。


 見ると、C級冒険者らしき男が、仲間を抱えてこちらへ走ってきた。


「足を怪我したんだ!」


「こちらへ!」


 シルヴィアさんがすぐに声をかける。


 冒険者が仲間を治療用の台に寝かせた。


 怪我をしているのは右足だった。


 シルヴィアさんが傷を確認する。


「……これは」


 シルヴィアさんが、用意していた紐を見る。


「黄色ですね」


「黄色……」


 俺も傷を見る。


 確かに、それほど深くはない。


「薬草と包帯で大丈夫そうです」


「分かりました」


 シルヴィアさんがすぐに処置を始める。


 俺はその様子を見ながら、ぼんやりと思った。


 ……あれ?


 なんだろう。


 患者が来たら、もっとテンションが上がると思っていた。


 いよいよ治療が始まる。


 シルヴィアさんと一緒に仕事ができる。


 そう思っていたはずなのに。


 ……全然テンションが上がらない。


 俺は小さくため息をついた。


 ……ソードかよ。

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