第二十一話 呪いの治療
キラー伯爵家の屋敷が見えてきた。
門に近づいたところで、ふと足が止まりそうになる。
……なんだ、この嫌な感じ。
最初に病気の村へ行った時にも感じた気配だ。
「ケンジさん?」
「あ、いえ。なんでもありません」
俺はそのまま屋敷へと向かった。
門の前には、すでに屋敷の使用人たちが並んでいる。
俺たちが近づくと、その中から一人の男性が前へ出てきた。
「お待ちしておりました」
男性は、俺たちに向かって深々と頭を下げる。
「私がシリル・キラー。キラー伯爵家の当主です」
カストロが一歩前に出る。
「この度は我々にご依頼いただき、ありがとうございます。必ずお嬢様のお力になれるよう、尽力いたします」
「こちらこそ、遠いところをありがとうございます」
ソードたちも、それぞれ頭を下げる。
俺も慌てて頭を下げた。
やっぱり貴族って、こういう感じなんだな。
シリルさんが俺たちを一人ずつ見ていく。
そして、俺のところで視線が止まった。
「……ところで、この者は?」
カストロが答える。
「彼はギルドの職員ですが、今回の件で、お手伝いできることがあるかもしれないとのことなので、同行させています」
「ほう」
シリルさんが俺を見る。
「治療ができるのか?」
「自分の治癒魔法でどうにかなるかわかりませんが、できることはしてみようと思っています」
「そうか。娘のためだ。頼む」
「はい」
俺はもう一度、頭を下げた。
こうして俺たちは、キラー伯爵家の屋敷へと入った。
そして、ソフィアの部屋へ案内される。
扉が開いた瞬間――
また、あの嫌な気配を感じた。
……さっきより、強い。
部屋の奥には、大きなベッドがあった。
そこに、一人の少女が横たわっている。
長い金髪。
白い肌。
整った顔立ち。
……可愛い。
しかも、かなり好みだ。
こんな子がベッドで寝ているところを見たら、そりゃドキドキする。
いや、待て。
俺は何を考えているんだ。
相手は伯爵令嬢。
しかも病気で寝込んでいる患者だ。
俺は治療をするために来たんだ。
……そうだ。
治療だ。
患者をしっかり診ないと。
そう自分に言い聞かせながら、俺はソフィアを見る。
その瞬間――
また、あの嫌な気配を感じた。
……さっきより、強い。
ウィルチが一歩前に出た。
「それでは、治療を始めたいと思います」
そう言って、部屋の中を見回す。
「治療には集中したいので、私とケンジさん以外は、一度部屋の外へお願いします」
ソードたちとカストロは、すぐに了承した。
「わかった」
次々と部屋の外へ出ていく。
執事だけが、少し怪訝そうな顔をしていた。
「しかし……お嬢様の治療を、お二人だけで?」
シリルさんが静かに口を開く。
「よい。ウィルチ殿に任せよう」
「……承知いたしました」
執事も一礼すると、部屋の外へ出ていった。
扉が閉まり、部屋の中が静かになる。
俺はソフィアを見る。
……どこだ?
体全体を意識して見る。
すると、太もものあたりから、あの嫌な気配がする。
「……右足ですか?」
「え?」
ソフィアが驚いたように俺を見る。
「どうして……?」
「いえ……なんとなく、右足のあたりに違和感がある気がして」
俺自身、なぜそう感じたのかは説明できない。
ただ、右の太ももあたりから、あの嫌な気配がする。
ウィルチもソフィアの右足へ視線を向けた。
「では、実際に患部を確認しましょう」
そしてソフィアに声をかける。
「申し訳ありませんが、治療のために服を脱いでいただけますか?」
「……はい」
話が、トントン拍子に進んでいく。
俺が事前に考えていた治療方法、そのままだ。
……おお。
なんという順調な展開。
俺は内心、少しだけ喜んでいた。
ウィルチがソフィアの服を脱がせていく。
俺は妙に静かな部屋の中で、じっとしていることに耐えられなくなった。
「あの……ソフィアさん」
「はい?」
「右足は、痛みますか?」
「……少しだけ。特に太もものあたりが」
やっぱりか。
「熱が出たり、寒気がしたりすることは?」
「あります。ここ最近は、ずっと身体が重くて……」
「なるほど……」
ウィルチは黙々と治療の準備を進めている。
そして――
あと、もう少し。
もう少しで、服が脱ぎ終わる。
……いや、落ち着け、俺。
これは治療だ。
治療のために必要なことなんだ。
そう、必要なこと。
でも――
もうすぐなんだよな。
俺は目のやり場に困りながらも、ちらちらとソフィアを見てしまう。
可愛い。
しかも、かなり好みだ。
こんな状況で平静でいろという方が無理じゃないか?
いや、待て。
俺は治療をする側だ。
しっかりしろ、ケンジ。
そう自分に言い聞かせた、その時だった。
服を脱ぎ終えた。
……ついに。
俺は思わず息を飲む。
その瞬間――
ボンッ!
「ぐはっ!」
ソフィアの太ももから、黒い塊が飛び出した。
それは一直線に俺の額へと直撃する。
「ケンジさん!」
ウィルチの声が聞こえる。
その瞬間、ソフィアが小さく息を吐いた。
「……あれ?」
「どうしました?」
「なんだか……身体が軽いです」
またそのセリフ?!
まだ見てないよー。
何かを返せー。
そう思ったところで、俺の意識は遠のいていった。
そして俺は、そのまま意識を失った。




