第二話 聖女的なアレ
俺は自分の手を見つめながら、ゆっくりと笑った。
「俺、本当に治癒魔法が使えるんだ……」
その瞬間、頭の中に文字が浮かんだ。
『治癒魔法 怪我、病気が治せます^_^』
「…………」
「なんだよ、その説明……^_^」
もう少しこう……。
「こういうのって普通、魔力消費とか、効果範囲とか、レベルとかあるんじゃないのか?」
頭の中を探してみる。
何もない。
「……怪我、病気が治せます^_^」
もう一度文字を見る。
「……まあ、分かりやすいからいいか」
俺はそう納得した。
異世界に来たばかりなのに、妙なところで納得が早かった。
そのとき、ふと気づいた。
「……腹減った」
そういえば、死んでから何も食べていない。
それどころか、何も飲んでいない。
「……喉も渇いたな」
俺は川を見る。
「川の水……飲めるかな?」
見た感じは普通の川だ。
濁ってもいない。
「……まあ、異世界だしな」
何が異世界だと関係あるのか、自分でもよく分からない。
だが、他に飲み物はない。
俺は川辺にしゃがみ込み、両手ですくって水を飲んだ。
「……普通だ」
思ったより普通の水だった。
何度か飲んでいるうちに、少し落ち着いてきた。
「ふぅ……」
俺は川辺に座り込む。
改めて周囲を見る。
草。
木。
川。
以上。
「……何もないな」
スマホを取り出そうとして、ポケットを探る。
「……あ」
ない。
財布もない。
コンビニ弁当もない。
「……マジか」
今さらながら、異世界に来たことを実感した。
さて。
「……これから、どうしよう」
しばらく考える。
川がある。
「川沿いなら、集落とかあるんじゃないか?」
水がある場所なら、人が住んでいる可能性は高い。
問題は、川上に行くか、川下に行くかだ。
「……川上って、どっちだ?」
俺は川を見る。
水が流れている方向を見る。
「こっちが川下か」
たぶん。
「海に出るなら川下だよな」
そういえば、俺の田舎も港町だった。
海に行けば、何かあるかもしれない。
人もいるかもしれない。
「……よし、川下に行こう」
特に根拠はない。
なんとなく決めた。
俺は立ち上がり、川の流れに沿って歩き始めた。
すると――。
「……ん?」
急に腹が痛くなった。
「いてて……」
俺は腹を押さえる。
「……川の水の即効性かー」
さっき飲んだ水しか思い当たらない。
「まさか、毒とか?」
そう考えて、少し焦る。
だが、すぐに思い出した。
「……俺、治癒魔法使えるじゃん」
こういうときこそ試してみればいい。
「これは……病気扱いかな?」
腹に手を当てる。
「治れー」
そう念じてみる。
「あ、治った」
腹痛が、嘘みたいに消えた。
「……」
俺は少し黙った。
「やっぱり、病気も治せるんだ」
頭の中に浮かんだ文字を思い出す。
『治癒魔法 怪我、病気が治せます^_^』
「……やはり、これは聖女的なアレだなぁ」
俺は妙に納得した。
そして、再び川沿いを歩き始める。
……しかし。
「死ぬ前に、パンツ見たかったなぁ」
少し考える。
「……あと、コンビニ弁当食べたかった」
俺はそんなことを考えながら、川下へと歩いていった。




