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煩悩だらけの異世界転移 ~裸が見たいだけなのに聖人扱いされています~  作者: kammy


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第十一話 いきなりチート?!!

馬車に揺られながら、俺は窓の外を眺めていた。


 村を出て、しばらく経つ。


 隣ではモローさんが、のんびりと前を向いている。


「ケンジさんは、あの村で神父さんにお世話になっていたそうですね」


「はい。いろいろとお世話になりました」


「そうですか。神父さんとは、昔からの知り合いなんですよ」


「そうだったんですか」


「ええ。商売でこの辺りを通ることも多いので」


 なるほど。


 モローさんがこの村に来ていたのは、神父さんと知り合いだったからなのか。


「村の方々も、ケンジさんには大変感謝していたようですよ」


「……そうですか」


 俺は少し照れながら笑った。


 それから、しばらくはたいした話もせずに馬車に揺られていた。


 ふと、御者台にいるギレンさんを見る。


 出発したときから気になっていた。


 ギレンさんには、片腕しかなかった。


 もう片方の腕は、肩から先がない。


 でも。


 初対面でそんなことを聞くのも失礼だろう。


 そう思って、今まで何も聞かなかった。


 しばらくして。


 ギレンさんのほうから声をかけてきた。


「……ケンジさん」


「はい?」


「俺の腕が気になるか?」


「……え?」


 ギレンさんは苦笑した。


「さっきから、時々こっちを見てただろ」


「あ……」


 バレていた。


「すみません。気になってしまって……」


「いや、いいさ」


 ギレンさんは前を向いたまま答えた。


「昔、冒険者をやってたんだ。その時に魔物にやられてな」


「そうだったんですか……」


「ああ。それで、今はモローさんのところで御者をやってる」


「なるほど」


 それ以上、俺は何も言わなかった。


 ギレンさんも、それ以上は話さなかった。


 馬車は、ゆっくりと街道を進んでいく。


 そして。


 また、しばらく無言になった。


「…………」


 俺は窓の外を眺めながら、村のことを思い出していた。


 神父さん。


 村の人たち。


 あの教会。


 そして――


 あの、可愛い女の人。


「…………」


 俺は真面目な顔をしたまま考える。


 ……可愛かったな。


 そして。


 ……裸、見たんだよな。


「…………」


 口元が少し緩む。


 ……へへ。


 いや。


 俺は紳士だ。


 別に変なことをしたわけじゃない。


 ちゃんと治療しただけだ。


 ……まあ、裸は見たけど。


「…………」


 俺はまた真面目な顔に戻った。


 そして、考え続けた。


 あの時のことを。


 村でのことを。


 あの子のことを。


「…………」


 気がつけば、かなりの時間が経っていた。


 俺はまだ真面目な顔をしていた。


「……ケンジさん?」


「はい?」


 モローさんに声をかけられ、俺は顔を上げる。


「何か、考え事でも?」


「ええ、まあ……」


「深刻なことですか?」


「いえ。いろいろと」


「……そうですか」


 モローさんは、それ以上聞かなかった。


 俺は再び窓の外を見る。


 ……良かったなぁ。


 そんなことを考えながら、さらに馬車に揺られていった。


 ――それから、二時間ほど経った。


 空が赤く染まり始めた頃。


 御者台からギレンさんの声が聞こえてきた。


「……いやぁ、腰が痛ぇな」


「大丈夫ですか?」


 モローさんが声をかける。


「御者の仕事ってのは、腰にくるなぁ。ずっと座ってるからかねぇ」


 ギレンさんは腰をさすりながら苦笑した。


 俺はその様子を見て、ふと思い出した。


 そういえば。


 薬があった。


 村を出るときに、何本か持たせてもらったやつだ。


「ギレンさん」


「ん?」


「それ、腰にも効く薬ですよ」


「おお、本当か?」


「はい。たぶん大丈夫です」


「たぶん?」


 俺は懐から一本取り出した。


「これ、飲んでみてください」


「ありがてぇ!」


 ギレンさんは受け取ると、ためらいもなく栓を抜いた。


 そして――


 ごくっ。


 その瞬間。


「アオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


 遠くから、オオカミのような鳴き声が響いた。


「うおっ!?」


「なんだ!?」


 馬車が少し揺れる。


 モローさんが立ち上がり、周囲を見回した。


「魔物か!?」


「どこだ!?」


 ギレンさんも御者台から身を乗り出す。


 俺たちは一斉に鳴き声のした方向を見る。


 どうやら、かなり遠い。


「……あそこか」


「ずいぶん離れてますね」


「この距離なら大丈夫そうだ」


「ですね」


 みんなが少し安心したところで――


 俺たちは、ギレンさんのほうへ向き直った。


「…………」


「…………」


「…………」


 誰も、声を出さなかった。


 いや。


 出せなかった。


 ギレンさんの右肩から。


 あるはずのなかったものが、生えていた。


 腕。


 肩から先まで、ちゃんとした腕が。


「…………」


「…………」


「…………」


 ギレンさん自身も、目を見開いたまま動かない。


 自分の肩から伸びている腕を見つめている。


 そして。


 ゆっくりと、その腕を動かした。


 ぐっ。


 指が動く。


「…………」


 誰かが、息を呑んだ。


「…………は?」


 モローさんの口から、かろうじて声が漏れる。


 ギレンさんも、自分の腕を見ながら呟いた。


「……俺の腕?」


「…………」


「……生えてる?」


「…………」


 全員が、もう一度ギレンさんの腕を見る。


 ある。


 どう見ても、ある。


「「「…………」」」


 声にならない叫びが、馬車の中に響いた。


 モローさんは頭を抱え、付き添いの男は口をパクパクさせている。


 ギレンさんは、生えたばかりの腕を何度も動かしていた。


 そして俺も。


「…………」


 呆然と、その腕を見ていた。


 いや。


 待て。


「……そんなに効くの?」


「…………」


 みんなが俺を見る。


 俺はギレンさんの腕を見る。


 もう一度、薬の瓶を見る。


 そして、また腕を見る。


「……腕、生えるとか……」


「…………」


「……ヤバス」


 俺の呟きに、三人の顔がさらに引きつった。


「ヤバスじゃねぇ!!」


「そういう問題じゃない!!」


「なんでケンジさんがそんな言い方なんだ!!」


「いや、俺も普通に驚いてますけど!?」


 馬車の中は、完全にパニックになっていた。

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