表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブルーエンペラー ―魔力なしの剣士と無双の青―  作者: カントウしょうゆ
第二章 咎の一角

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/44

第十三話 過去からⅢ それでは

 西の門。ベルは剣を携え、旅の荷物を背負ってそこへ赴いた。


「来たか」


 振り返ったデトの傍らにはリア。彼女の両腰には〝刀〟と呼ばれる二振りの武器が静かに添えられている。


「遅いですよ」


 咎めるように言ったのはデトではなく、リアだった。


「悪いわね。まさかオゼロよりも遅れるとは思わなかったわ。……なんだかこんな会話、前にもしなかったかしら」


 ベルが苦笑しながら視線を巡らせると、集まっていたのはデトたちだけではなかった。オゼロ、アルバ、そしてギルバルドさえもが、新たな旅立ちを見送るために足を運んでいた。


 オゼロが自慢げに胸を張る。


「我が友であるベルさんの門出ですからね。寝てなんかいられませんよ」


「全く、調子のいい奴ね」


 いつもなら鬱陶しさを隠さず毒づいていただろう。しかし、今は何故か自然と笑みがこぼれた。

 ベルの柔らかな表情に、オゼロもまた満足げに微笑みを返す。


 そんな中、ギルバルドが一歩前に進み出た。彼の手から差し出されたのは、小さな板――ベルの名が刻まれた冒険者証であった。


「ギルバルドさん、ありがとうございます。急に用意してもらって」


「問題ない。ベル殿には命を救われたのだ、これぐらいのことはさせてくれ。それと、その冒険者証にはすでに有戦免許コンバット・ライセンスを付与してある」


「え? いいんですか?」


「先の戦いを見れば、貴殿がその資格を持つに値することは明白だ。ここは私の権限で処理させてもらった。その方が今後も都合が良いだろう」


「……ありがとうございます」


「うむ」


 ギルバルドから受け取った冒険者証を、ベルは静かに見つめた。


――これでもう、後戻りはできないわね。


 最後のピースが、これで揃った。


 ギルバルドが一歩下がると、代わって目の前に現れたのはアルバであった。

 彼女は透き通るような白い両手で、ベルの手を優しく握り込む。そして、ベルの目を真っ直ぐに覗き込んだ。


「元気でね」


 その言葉と共に向けられた眼差しは、いつも宿で見せる柔らかな女将のものではなかった。燃え盛るギルドで敵を退けた歴戦の冒険者、白狐びゃっことしての、底知れぬ深みと据えた色を宿していた。


「それと、リアちゃんとデトくんも。体調には気を付けるのよぉ」


 背後にいたリアが「はい」と小さく返事をし、デトは無言のまま短く頷いた。

 アルバが名残惜しそうにベルから手を離す。


 そして、最後の別れの挨拶――オゼロが残った。

 彼は相も変わらず、どこか胡散臭い、薄気味の悪い笑みを浮かべてベルと向き合っている。だが、オゼロはベルを見つめるだけで何も言わない。


 奇妙な沈黙が落ちた。


 ベルは「フッ」と鼻を鳴らして笑う。


「何よ。あんたらしくないわね」


 それでもオゼロは声を発さなかった。

 ベルもまた、彼の糸のように細い目を見つめ返す。不思議と、この静寂を不快だとは思わなかった。


「そういえば。この街であたしと対等に接してくれたのは、あんただけだったわね」


 オゼロは、ゆっくりと目を瞑った。


「寂しくなりますね。あの詰所に残るのも僕だけです」


 その言葉に、ベルの胸が微かに締め付けられる。

 それでも、後ろ髪を引かれるまま立ち止まるわけにはいかなかった。

 ベルは拳を握り、オゼロの胸をコツンと軽く小突いた。


「後は、頼んだわよ」


 自分で発したその一言で、アリスタの衛兵としての糸が、完全に断ち切られた気がした。オゼロの薄気味悪い表情が、どこか優しく、そしてどこか哀しげなものに変わる。彼は黙ったまま、小さく頷いた。


 ベルはそっと彼の胸から拳を下ろし、サッと背を向けた。


「ベルさん」


 その声は、いつもの余裕のある彼には似つかわしくない、どこかすがるような、切実な焦燥を含んでいた。


 肩越しに振り返ると、オゼロはその細い目の奥から、真っ直ぐにベルを見据えていた。


「お元気で」


 ベルは、ただ首を小さく縦に振るだけだった。言葉は交わさずとも、それは確かな重みを持った返答であった。


 歩き出す。遠ざかっていく。

 もう、振り返らない。


 待っていたデトとリアの横に並ぶ。

 ベルは手を振るオゼロやアルバたちを背にして、西の門を抜けた。


 ***


 残されるオゼロ。


 ギルバルドとアルバが街へと戻っていく中、彼はただ一人、門の先に視線を向けていた。

 唯一の人間としての友の背中が、緑の奥へと吸い込まれ、完全に視界から消え去るその時まで。

 やがて、誰にも聞こえないほどの声で、小さく呟いた。


「それでは。また、どこかで」


 ***


 第十三話 過去から 完


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ