咎の一角 エピローグ
アリスタの威圧的な城壁が背後で遠ざかり、見渡す限りの緑とどこまでも続く街道が視界を占めていた。吹き抜ける西風は心地よく、三人の新たな旅立ちを後押ししているようだった。
先頭を歩くデトの大きな背中を追いながら、リアの隣を歩くベルが腰の剣の位置を直しながら口を開いた。
「そういえば、聞きそびれてたんだけど」
ベルの声に、隣を歩いていたリアが顔を向ける。
「ジークって人を探すにあたって、次の目的地のアテはあるわけ?」
先頭のデトは振り返ることなく、淡々と答えた。
「まずは、サルファへ向かう」
「サルファ……アリスタ程じゃないけどそこそこ大きな街ね。サルファのジークに関する情報でもあった?」
デトは視線を前に向けたまま答える。
「サルファには〝勇者〟が来るという噂がある」
「勇者……」
「勇者が現れるとなれば、野次馬や商人、冒険者たちが嫌でもサルファに集まる。人が集まれば、それだけ情報も落ちる。元円卓の騎士の噂一つや二つ、転がっているかもしれないからな」
「なるほどね。効率重視ってわけか」
ベルは顎に手を当てて納得したように頷いた。そして「そういえば」と、ベルが続ける。
「今の第一勇者って、アリスタ出身じゃなかった?」
「そんな話もありましたね」
リアが頷いた。〝ただ運が良かっただけのガキ〟、〝お飾りの勇者サマ〟と言われた勇者は一体どんな顔をしているのか――とも思ったが、リアはどうでも良いかとすぐに忘れた。ただ、隣で首を傾げるベルを見て、ふと疑問を口にする。
「ベルは勇者の顔を知らないのですか?」
「あー、あたしは一年ぐらいしかアリスタにいなかったからなぁ。……それよりもさ、その……呼び捨てなの?」
隣を歩くリアは、悪びれる様子もなく真っ直ぐ前を見たまま答える。
「言ったはずです。私が姉弟子です」
「歳は?」
「十八です」
「あたしは二十よ! 年上には敬称を……」
ベルが年長者としての威厳を見せつけようと説教モードに入りかけた、その時だった。
「俺は二十二だ」
数歩先を歩いていたデトが、振り返りもせずにボソリと低い声で呟いた。
冷や水を浴びせるような、無機質で容赦のない最年長宣言。出鼻を完全に挫かれたベルは、顔を真っ赤にして前を歩く大きな背中に向かって叫んだ。
「あ、あんたとは会話してないわよ!」
ムキになって吠えるベルの横で、リアは堪えきれずにクスリと吹き出す。
賑やかな足音を響かせながら、三人の影は長く街道に伸びていく。
目指すは、勇者の降り立つ街・サルファ。
未知なる出会いと試練が待ち受ける次なる舞台へ、彼らは力強く歩みを進めていく。
***
第二章 咎の一角 完




