表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブルーエンペラー ―魔力なしの剣士と無双の青―  作者: カントウしょうゆ
第二章 咎の一角

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/39

第十話 神速Ⅲ 単騎戦

 リアはアルバの宿の二階、自室で男と対峙していた。


「よお、シフル」


 男は幾何学的な紋様が記された羽織をしており、その隙間から細身であるが、鍛え上げられた筋肉を見せている。

 彼の両腕には鉤爪のような武器が取り付けられていた。


 開け放たれた窓から風が吹き込み、カーテンが揺れる。

 狭い室内には不釣り合いなほど、男の両腕に装着された鋼の鉤爪が、不気味に鈍い光を放っていた。


「誰、ですか?」


「俺は原欲の徒の ケイル 」


 ニッとケイルは笑う。


「お前を殺しにきた」


 リアは白銀の刀に手をかけた。目を細めてケイルを睨みつけた。


「いったいどこの誰だか知りませんが、帰っていただけますか」


「まー、そう言うなよ。少し楽しみにしてんだぜ? こぞって持ち上げるシフルって奴がどんなもんか」


 余裕の態度を見せるケイルと、顔を強張らせるリア。彼女だけが緊張を保っていた。


「何故……私が魔力なし(シフル)だと知っているんですか」


 ケイルは目線を上げて頭を掻く。


「あー、それは……うーん。まぁ内緒だ」


 歯切れが悪い。


「言っておきますが、簡単にやられるほど生半可には鍛えてませんよ」


 彼は鼻を鳴らした。


「よく言うぜ」


 ケイルは見下したような目つきでリアを見た。


「ボスの即席吸血鬼にボコされたくせによぉ」


 リアの頭で吸血鬼という単語がこだました。

 以前の戦いの記憶。月夜の中に立つ、赤い目と黒い飛膜を持つ艶めいた女性。


「スピカさん……」

「あー、そんな名前だったか」


 ニヤニヤしながらケイルは饒舌になる。


「滑稽だぜ? 強くなりたいだとか、誰かと並びたいだとかそんな理由で人間捨てちまってよ。人間辞めちまったら! 対等になれるわけねぇのによ!」


 声を上げて笑う男。

 リアの額に血管が浮き出る。


 リアが刀を抜こうとしたその時、背後から熱を感じた。その熱波はリアの横を通り過ぎた。

 白く輝く光の弾がケイルの脳天へと目掛けて飛んでいく。


 ケイルは笑いを止め、人間離れした軟体動物のような動きで首を横に折った。髪の毛数本を焼き焦がしながら弾丸が彼の側頭部とすれ違う。開いた窓から飛び出して、空へと光が消えていった。

 

「あなたも人間ではないでしょう? 魔人ってのは下品に笑うもんだね」


 柔らかく、それでも圧のある声がリアの後ろから聞こえた。

 リアが振り向けば、儚く白い婦人が大きな杖、ではなく箒を構えて立っていた。いつもみるアルバとは違い、目に覇気が籠っている。


「アルバさん……」


「スピカちゃんがあんなことすることないって思ってたけど、やっぱり誰かに唆されてたんだね」


 ケイルの表情が険しくなった。アルバを見る目は、リアへ向けるものよりも敵意が込められている。


 アルバは箒の柄の先をケイルに向けたまま、リアの横に並んだ。


「リアちゃん、下がってなさい」

「いや、でも」

「アイツはリアちゃんが狙い。あなたさえ守れればこっちの勝ちよ」


 ケイルが欠伸をする。

 だが、こちらを見る目は鋭い。警戒心は隠せていない。


「んま、俺()としては逃げられると、少しだけ……困るかもな」


 アルバの眉が下がる。


「ら?」

「俺一人で突っ込んでくるわけないだろ。それに、シフルの始末はついでだ」


「一体……何が狙いなの」

「そうだな、言ってしまえば」


 ケイルは不敵に片頬を上げニヤリとした。


「宝探しってやつか?」


 アルバが血相を変えた。箒を握る手に力が入り、先がブレる。


「冒険者ギルドが狙いってわけね……」


「御名答。戦力も十分削った後だ、簡単なお仕事だぜ。今頃俺の相棒と下っ端どもが暴れてるだろうなぁ」


 アルバは歯を強く噛んだ。眉頭に皺が寄っていく。


 二人の会話を聞くだけだったリアがアルバの一歩前へ出る。先ほどよりも冷静に、背筋を伸ばして刀を抜いた。


 白銀の刀が姿を現す。光を映し出した。


「アルバさん、ギルドへ向かってください」


 目を丸くしてアルバはリアを見た。リアの横顔はただのか弱い少女のそれではなかった。


「私なら……」


 かつての自分の言葉を思い出す。自身を過信した結果どうなったのかはいうまでもない。だが、あの時の傲慢な彼女とは違う。リアは敢えて言う。


「私なら、大丈夫です」


 リアの据えた目を見て、アルバは箒を下ろす。

 最後までリアの凛とした立ち姿を視界にいれたまま、アルバは部屋を出ていった。


 去り行く足音。

 部屋に残されたのは、窓から吹き込む風と両者の間で交差する冷たい視線。


 ケイルの顔から緊張感が消えたように見えた。


「おいおい、いいのかよ。今の奴、白狐びゃっこだろ」


「……びゃっこ……?」


 ケイルは頭をフルフルと揺らし、ため息をついた。


「お前、何も知らねぇんだな。西の白狐……昔相当名を上げた冒険者だぜ。単独で行動し、その魔術で幾千もの魔物を焼き払ってきた。隠遁生活してると聞いてたが、ここにいたとはな」


 あの朗らかなアルバからは想像もできない過去であった。しかし、リアの心には安堵が残った。


「そうですか。なら良かったです」

「あ?」


「貴方たちが冒険者ギルドを大勢で襲っているのなら、私が向かっても大した戦力にならないでしょう」


 逆の手で、腰に差したもう一振りの柄を握る。鞘から滑り出たのは、一切の光を反射しない異様なほど無機質な漆黒の刀。

 その重みと冷たい気配が、デトの背中をリアに思い出させる。


 漆黒の刀を構え、リアは静かに言い放った。


「それに、ドブネズミ一匹処理できないで、この先デトさんの隣に立てません」


「ハハハッ」


 ケイルは羽織を取り外し、鉤爪を互いにぶつけて金属音を打ち鳴らした。


「威勢のいいガキだ。殺し甲斐がある」


 心拍が上がる。

 それは恐怖心ではない。

 かつての自分を追い越すための動力であった。


 ***


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ