第八話 東西の門Ⅱ 進軍
西の門。荒々しい空気が渦巻いていた。
剣を携えた男、大斧を背負った巨漢、大きな杖を抱えた女性。様々な冒険者が一堂に会していた。彼らはいくつかの組に分かれ、時を待つ。
人混みの中、ベルは一人で佇んでいた。
ギルバルドとの会話を思い出す。
*
「西の森に猪頭の魔物の大群?」
グレッグが訝しげな声を出す。
ギルバルドは頷き、言葉を続けた。
「とある冒険者の報告を受け、先日調査を行った結果、100体ほどのオークが五つの集団に分かれて群をなしていることを確認した」
「一集団あたり20体のオーク……Aランクパーティで捌けるかどうかだな」
「ええ。現在この街に残っている冒険者で、これに対処できる者が足りない。先の事件で実力のある者も減ってしまった……。そこで、お二人の力を借りたい、というわけだ」
オゼロが納得したように首を縦に振った。
「なるほど。オーク討伐部隊に加わるわけですね」
「いや、貴殿らにしてほしいことはそれではない」
オゼロは眉を上げた。
「と……言うと?」
「オークの統率者を探してほしい」
ベルが前のめりになった。
統率者を探す。そのことがベルの心をくすぐった。
——チャンスだ。ここで証明するしかない
「これだけの数。ロードがいるはずなのだが、調査段階ではそれらしき姿を発見できなかった。身を潜めている可能性が高い。奴らの親玉を探し出し、あわよくば討伐してほしい」
「理解しました。それで作戦の決行日はいつなのでしょうか」
「明日だ」
*
「おい。ベル」
無機質な低い声に呼びかけられ、ベルは我に返った。
気づけば目の前にデトがいた。
「デト……。そう、あんたもこの作戦に参加するのね」
デトの周囲を見まわした。
「リアは?」
「Bランク以上のパーティとCランクの上澄みが召集されているらしい。リアは宿で待機だ」
ベルは目を細めた。
「らしい? 何よそれ」
「俺は正規に集められてないからな。俺はお前のサポートとして呼ばれた」
「あー」
再び詰所での会議が頭をよぎる。
*
「ベルさんが参加するなら、僕は協力できません。衛兵の規則上門番は二人必要なので」
オゼロはニコニコしながらギルバルドの打診を断った。
「そうか。無理強いするつもりはない」
「ですが、僕よりも適任がいます。よろしければ僕が説得しておきますよ」
*
——オゼロが言ってた適任ってデトのことなのね
見下ろすようにベルの正面に立つデトの腰には見慣れない黒い片刃の短剣がある。それはリアの刀よりも無機質で、一切の光を逃さないような闇の色であった。
ベルは黒いナイフを見たまま言った。
「あんた、そんなの持ってたっけ」
「まあな。戦闘がある時には持ち歩いている」
改めて見れば、デトの格好は以前、共に行動していた時と違う。黒い手袋に、革のベスト。軽装ではあるが、まさに冒険者という服装だ。
「ふーん。ま、足引っ張らないでよ」
デトと会話をしていると、周囲の冒険者たちが静かになっていった。
何事かと辺りを見れば、門の奥へと視線が集まっている。
その先にはギルバルドが手を背に回して立っていた。
彼の立ち姿は堂々たるものだった。
やがて渋い低音が辺りに響きわたる。
「諸君! これから! オーク討伐作戦を開始する!」
ギルバルドの覇気が周囲を包み込む。
「目標は100体以上! 野放しにしておけば、相当な被害が見込まれる!」
ギルバルドが事の詳細を述べていく。
神妙な面持ちの剣士、無表情のアサシン、自信を顔に浮かべる守護戦士、虚空を見つめているような魔術師。各々がギルバルドの話に注目していた。
「……先ほど、各班のリーダーとなる冒険者に地図を渡した! そこには討伐目標がいるはずの地点が示されている!」
ある程度まとまっていた組が、それぞれの地図を見るためにさらに小さくなった。
「容易な作戦ではない! 各自、十分な用意で事に当たってくれ! 以上だ! 健闘を祈る!」
ギルバルドの演説が終わるのと同時に広がるざわつき。冒険者らは門をくぐり、森へと進軍していった。
その流れに逆らい、こちらに向かってくるギルバルド。ベルとデトの前に立ち、交互に目を見た。
「頼むぞ」
そう言い、彼は悠々とその場を去った。
残された二人の間に流れる沈黙。
デトは真っ直ぐと森の奥を捉えていた。
ベルが足を踏み出す。
「デト。ロードの首は私がもらうわ」
デトは半目でベルを睨みつけた。
「何を言っている。遊びじゃないんだぞ」
「そんなことはわかってるわ。だけど、これはあたしにとって重要な作戦なの。協力しなさい」
デトは鼻を鳴らして、ベルの背中を追った。
ベルは腰の剣を強く握りながら、歩く。
——絶好の機会。もう二度と来ないかもしれない
生暖かい風が森を吹き抜けた。
それは不穏な気を混じらせている。
嫌な予感はする。だが、止まる理由にはならなかった。
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