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ブルーエンペラー ―魔力なしの剣士と無双の青―  作者: カントウしょうゆ
第二章 咎の一角

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第八話 東西の門Ⅲ 水面下

 デトとベルの二人は淡々と森を進んで行った。

 足音を最小限に抑え、尚且つ俊敏に。

 迷いなく足を動かすベルに後ろからデトが声をかけた。


「ベル。そもそも統率者ロードの居場所に目星はついているのか」

「ええ」


 ベルは足早に木々の間を抜けながら答えた。


「調査段階でオークたちが時折集団を抜けていった時があったらしいわ。それで、そいつらが一点に向かう場所があった」


「なるほどな、そこにいる可能性が高いってわけか」

「そうよ」


 と、その時。周囲から爆発音や地鳴りが響き始めた。それも、各方向から聞こえてくる。


 それらの音にベルたちは一度足を止め、周囲を警戒した。


「始まったようね……」


 再び目的の方向へと目を向けた。


「行くわよ」


 森に響き渡る戦闘音を耳にしながら、しばらく進むと、辺りから生き物の気配がした。それも一体ではない。ベルたちを囲むように全方向から、近づいてくる。

 殺気が二人の周りでうごめいていた。


「デト……来るわよ」

「ああ、わかっている」


 ベルは自身の腰に手を伸ばす。剣の柄を握り、前傾姿勢でその時を待った。一方デトは、体勢は崩さず視線だけを辺りに散らした。


 徐々に濃くなる生臭さが鼻を通った。


 木々の隙間から見え始める褐色肌の大きな生物たち。その体躯はベルの倍ほどのものだった。筋肉の形が浮き出るほど鍛えられた肉体が、露出していた。


 上向きに伸びた二本の牙に、猪のような鼻——猪頭の魔物(オーク)だ。


 前方に三体、後方に四体のオークが配置されている。


「面倒ね。打ち漏らしかしら」

「それにしちゃあ、随分と小奇麗だな」


 二人を囲うオークたちの手には斧やこん棒が握られていた。

 奴らの狂気の焦点が一地点に重なる。

 ベルとデトは背に合わせ、取り巻くオークを睨みつけた。


「俺が後ろをやる」

「まかせたわ」


 鈍い咆哮が魔物たちから放たれた。


 ***

 


 東の門、衛兵の詰所。


 グレッグは新聞を手に、オゼロは書類に目を通して、各々の時間を過ごしていた。

 閑静な空間では時々、言葉が飛び交った。


「今頃、ベルさんが西の森に行ってる頃ですかね」

「あぁ、そうだな」


「大丈夫ですかね」

「なんだ、オゼロ。ベルの心配してんのか」


 グレッグは新聞に目を落としながら、疑問の声を出した。


「ベルは元々〝騎士〟だ。生意気な奴だが、相当な実力はある。それはお前もわかってんだろ」


「ええ、まあそれはそうなんですが……」


「なーんで崇高な騎士様が、こんなとこで衛兵やってるかは知らんがな」


 投げやりの言葉を最後に会話は終わった。


 それまでの作業を各々が再開する。

 時刻も昼を過ぎたころ、詰所の重厚な扉が叩かれた。金属の音が鳴る。それも、街の方ではなく、神秘の大森林に向かう側であった。


 グレッグが新聞をたたもうとするが、オゼロがスッと立ち上がった。


「僕が行きます」

「おう。朝行った冒険者がもう帰ってきたのか?」


 オゼロは扉のすぐ横にある窓口の前まで行き顔を覗かせた。


「はいはい、なんの御用……」


 オゼロが外にいる人物に声をかけようとした時、扉がクロス状に裂かれた。


 次の瞬間、衝撃音と共に鉄製の扉は詰所内で宙を舞った。


 砂ぼこりを纏いながら弾き飛ばされた金属片。


「んなっ!!」


 グレッグが勢いよく立ち上がると同時に、目を疑う光景が映った。


 オゼロの胸から飛び散る血潮。

 白い衛兵服が切り裂かれ、赤く染まった。


 白髪はくはつの青年は力無く、背中から鈍い音と共に倒れた。


「オゼロ!!」


 グレッグは戸があったはずの場所を見た。

 砂煙の中、刃渡りの長い剣を振り上げている人物がいる。

 長剣を持った人型の影の後ろからもう一人分の影が出てきた。


「おいおい、随分派手にやるなぁ」


 調子の乗った声が聞こえてきた。


「ダラダラやってても意味はないでしょう」


 優美な声を発した人物が長剣を下ろす。

 姿がはっきり見えてくる。

 手前には、背筋を綺麗に伸ばした長髪の男。

 後ろには、羽織一枚の隙間から鍛え上げられた肉体を見せている短髪の男。


「テメェら……何者なにもんだ!」


 グレッグは二人の襲撃者の服に正六角形の紋様が描かれているのを見た。六角形の各頂点と中央に小さな円、それらが直線で結ばれている。


「そのマーク……〝咎魔教きゅうまきょう〟……」

「失礼しますよ」


 長髪の男がそう言った時には彼はすでにグレッグに接近していた。

 長剣がグレッグの胸を切り裂き、血飛沫が舞う。

 グレッグは膝から崩れ落ち、床に伏してしまった。


 長髪の男は剣をしまい、グレッグを見下ろした。


「咎魔教と呼ばないでほしいですね。我々は〝原欲げんよく〟です」

「ハハッ。もう、聞こえてねぇんじゃねえか?」


 短髪の男が鼻で笑った。


「あーいや、まだ生きてんぞ」

「所詮老兵です。捨て置いても問題はないでしょう」


「こっちは」


 短髪の男が親指を突き出してオゼロを指した。

 長髪の男は血にまみれたオゼロを見つめた。


「……そういう命令です。放っておきましょう」


 短髪の男は伸びをしてニヤリと笑った。


「じゃあ、始めるか。計画通り、俺がシフルを殺すぜ」

「ええ、私が冒険者ギルドへ。例のものを確保しに行きます」


 詰所内に響く甲高い靴の音。

 それは実に不穏だった。


 ***


 第八話 東西の門 完

 


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