第一話 明けの明星Ⅰ 龍との出会い
リアは森を彷徨っていた。
――今日はもう休もう
出発をしてからすでに七日。体力はもう限界に近づいていた。
荷物から集めていた薪を取り出し、火を焚き始めた。
リュックの別口を開け、残りの食料を確認する。あとはパン一つだった。
「明日は獣にでも会えるといいな」
腰に帯びた一方の刀を触り、ため息をつく。
最後の食料を取り出そうとしたとき、空気が変わった。
静かだった木々が枝葉を鳴らし、カラスたちは飛びまわる。
森中が警告の合図を響かせていた。
リアは左右に差していた二つの刀を握りしめ、周囲を警戒する。
次第にざわめきが収まっていくと、その奥で地鳴りのような足音が聞こえ始めた。
――何かが来る
前方から一歩ずつ、一歩ずつ近づいてくる。
そして現れた。
月明かりが照らす先にいるのは、黒い鱗をまとった怪物。
巨大な体躯、背後でうねる尾、鋭い牙に爪。
岩のような両脚で大地を踏みしめ、怪物はリアを見下ろした。
――なに……コイツ
木々の闇に隠れ、予想以上に接近していた。
距離を、読み違えた。
リアが刀身を抜こうとしたその時、赤い目が光り、顎が漆黒の中で大きく開けられた。
重低音の咆哮が周囲に轟く。
頭が白く塗りつぶされた。
高まった恐怖心が思考を阻み、身体の自由を奪った。
ただ赤眼に見つめられたまま、震えることすらできない。
漆黒の尾がうねる。
怪物が前に踏み出した瞬間、黒い巨体が迫る。
リアは――
***
目を覚ました。
漠然とした意識の中、視界に映る天井、鼻をくすぐる古びた木の匂い。
――ここは……どこ?
全身に激痛が走る。歯を食いしばりながら体を起こすと、窓から差す光に目が眩んだ。
斜陽を遮ろうと左手をかざすと、金色の腕輪が輝いた。
窓の外を見れば壮観な緑が広がる。
まだ森の中だ。
部屋の中を見回す。
木造の空間は薄暗く、光源は陽光のみ。
ベッドの横にはチェストがあるが、この部屋にはそれ以外のものがない。
チェストの上にある鉢植えに彼女の目が留まった。白い花が俯くように咲いていた。
彼女はそれに目を奪われていた。
途端に視線はドアに移った。誰かが近づいてくる足音。それと同時に感じる不気味な気。
ギシギシと床を踏む音が聞こえてくる。その音は確実に近づき、止まった。
ドアノブが弧を描き、扉が奥へと開いていく。
向こう側で青髪の男がリアを睨んでいる。
その目に慈悲は映らない。
戦慄が彼女を襲った。
***




