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ブルーエンペラー ―魔力なしの剣士と無双の青―  作者: カントウしょうゆ
第一章 欠落した心臓

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第五話 遭遇Ⅱ 正しさ

 冒険者ギルドに入れば、先日と同じような騒がしさがリアを迎えた。

 リアは真っ直ぐ受付へと歩こうとするが何やら騒がしい。

 目をやると、昨日の対応をしてくれた黒髪の女性がガタイの良い男に言い寄られていた。


「なあ、スピカ 。今日はどうだ」

「業務がありますので」


「そんな毎日毎日仕事ばっかじゃつまんねえだろ。今日ぐらいさぼって飲みにいこうや」


 受付嬢は男の目も見ず、無表情で手元で何かをしている。

 男の胸で十字架のネックレスが光る。


 その様子を後方で見ていたリアにオゼロが声をかける。


「どうします?」

「どうもなにも。昨日、あの人に声をかけてくださいと言われたので」


 リアは迷いなくスピカの元へ歩いていく。

 不思議とためらいはなかった。リアは胸の奥でかすかに自身を認めていた。

 彼女は、スピカの前に居座る男の横へ堂々と並んだ。


「スピカさん」

「あっ、リアさん」


 遠慮もなく割って入ってきたリアに、男は不機嫌な態度になった。


「なんだ? 昨日のガキじゃねえか。邪魔すんなよ」

「邪魔はあなたですよ」


 自分でも驚くほど動じていなかった。


「おいおい、まだ冒険者じゃねえくせに生意気だな。礼儀がなってねえぞ」

「冒険者になっているくせに人の迷惑も考えられないんですね」

「ちょっと……リアさん」


 スピカはリアの強気な様子に焦るが、リアは構いもなしにその男と口論を続けた。


「俺はBランクだぞ」


「そうですか。ランクというものが何をもって決められるか知りませんが、あなたを見ていると、実力を正しく反映する制度とは思えないですね」


「あぁ? 実力がねえって言いてえのか?」


 男の額に青筋が浮かぶ。リアの言葉は、男の肥大した自尊心を逆撫でするものだった。


「ガキが知った風な口を利くんじゃねえぞ。俺はこの街で何年も身体張ってんだ。

ぽっと出の新人どころか、お飾りの勇者サマたちよりもよっぽどな」


「……勇者?」


 リアが眉をひそめる。

 男は鼻を鳴らし、さらに声のボリュームを上げた。


「ああそうだ」


 男は嘲るように口を歪めた。


「この街にいたわけえ冒険者が急に勇者だなんだってあがめられてよ。聖なる力を持ってるとか知らねえが、大した実力もないくせにちやほやされやがって。ただ運が良かっただけのガキじゃねえか。俺たちみたいな本物とは格が違うんだよ」


 男がリアを睨みつけて、口角を上げた。


「どうせあの青髪の野郎も」


 リアの指先に力がこもった。


「どこかのパーティに潜り込んで手柄を横取りして生きてきただけだろうよ」


 リアの手は刀に。ギラリと光る刀身が姿を見せた。

 ガタン、と乾いた音が響き、リアが刀を完全に引き抜く寸前で、その動きは止められた。


 スピカが手元にあったインク壺を倒したようだ。

 黒いインクが広がる。


「……あ、失礼しました」


 スピカはすぐに布を取り出し、こぼれたインクを拭き取り始める。


「そこまでにしましょう」


 パン、と軽い音が空気を変えた。

 いつの間にか、オゼロがリアと男の間に割って入っていた。


 「リアさん。とりあえずその物騒なものはしまってください。ここで面倒を起こしてしまえば、探したいものも探しにいけませんよ?」


 リアは荒ぶる気持ちを落ち着かせ、鞘へ刃を収めた。


「それと……あなたも」


 オゼロは視線を男に向け、笑顔は崩さずに言う。


「大の大人が子供相手にムキになって、見苦しいですよ」


 チッ、と舌を鳴らし、顔をゆがめて男はその場を去って行った。

 男の首にぶら下がる十字架が揺れた。


 スピカが広がるインクをふき取り終えると、リアに頭を下げた。


「すみません。ご迷惑をおかけして……」

「迷惑なのはあの男だけなので、スピカさんが謝ることではないですよ」

「ありがとうございます」


 リアは一息をつき、本題へと入る。


「それで、今日の指導についてなんですが」

「あぁっ、そうですよね。ではこちらへどうぞ」


 スピカはカウンターを出て、リアたちを手招く。

 オゼロはリアの後ろに付き、小声で言った。


「昨日とは違って、随分と威勢が良くなりましたね」

「……」


 オゼロの言葉に何も返すことなく、リアはギルドの奥へと歩を進めた。


 ***


「オゼロから聞いたわよ。あんた、喧嘩したんだってね」


 部屋で甲冑を外しながらベルがリアへと問いかけた。


「いや、喧嘩っていうほどでは……」


「いい? 犯人はあいつらの中にいる可能性が高いの。下手に刺激したら本当に狙われるわよ」


「でも、自分が間違っているとは思いません」


 リアは真っ直ぐベルの目を見て言った。

 その自信に満ちた瞳に、ベルはあっけにとられた。

 ベルが視線を外し、悲哀に満ちた声色で言う。


「正しいだけじゃ生きていけないわ」


 リアは返す言葉が見つからずに黙ってしまった。

 ベルがため息をつき、ベッドへと腰をかけた。


「正しいかどうかじゃない。うまく立ち回れって話よ」


 ベルはリアを一瞥し、空中に視線をやる。

 しばし沈黙が流れた。

 月光が差し込み、夜が更けていく。


 ***


 早朝。夜の冷たさが未だ残る。

 グレッグは目的の路地裏へとたどり着き、右手で額を押さえた。


「またか……」


 うつぶせに倒れ込んだその人物の瞳孔は開ききっていた。

 グレッグは死体のとある部分を見て、呟く。


「同じだな……心臓をやられてる」


 冷たくなったその体のそばで、血塗られていた十字架が転がっていた。


 ***

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