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ブルーエンペラー ―魔力なしの剣士と無双の青―  作者: カントウしょうゆ
第一章 欠落した心臓

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第五話 遭遇Ⅰ 分断

 朝日が昇った。窓から差す光がその部屋に爽やかさを吹き込んでいた。


 リアが目を開け身体を起こすと、すでにベルはベッドからいなくなっており、正面の椅子に腰を掛けていた。

 剣を側に立てかけ、もう準備万端だというようにリアを見る。


「早いですね」


 寝起きで普段よりも声は小さく、掠れていた。


「早く支度しなさい。下で集合するわよ」


 ***


 ベルとリアが古びた床板を軋ませながら階段を降りていく。

 一階の広間が見えると、カウンターの正面奥にあるテーブルに一人の男が座っているのが見えた。

 瑠璃色の髪をしたその男は、カップを片手に静かに時を過ごしていた。


「あれ? あんただけ?」


 デトはこくりと頷く。


 相棒の姿がないことに、ベルが少しだけ眉をひそめるが、突然思い出したようにベルは頭を抱えた。


「……そうだったわ、アイツ。めちゃめちゃ朝に弱いんだった」


 顔を歪ませながらベルはデトの方へと足を運び、向かいの席にドカッと腰を下ろしてテーブルにもたれかかった。続いてリアも座る。


「参ったわね」

「別に起こせばいいんじゃないんですか」

「無理だな」


 まさかのデトからの返事であった。


「何度も揺すったが、反応がない」

「昼まで起きないわよ。何しても起きないからオゼロは万年遅番なの」


 デトがカップの飲み物を啜って言う。


「そんなに時間は無駄にしたくないぞ」

「あたしもよ……。でも一人で二人は見れないわ」


 うなだれるベル。しばしテーブルに突っ伏し、どうしようとつぶやいていたが、突然弾かれたように上半身を起こした。


「リア、あんた今日の指導は昼過ぎからだったわよね」


「は、はい。昨日そう言ってましたね……」


「じゃあ、オゼロが起きるまでここで待っててくれない? あたしがコイツについていくから」


「大丈夫なのか、監視は」


 ベルは「仕方ないわよ」と腰を上げ、椅子をしまう。


「全部オゼロが悪いわ。それに……」


 デトを睨みつけ、声を低くして言った。


「リアよりあんたの方に監視が必要そうだから」


 沈黙。リアは気まずい空気に居心地を悪くしたが、デトは気にしない様子でカップを飲み干す。空のカップを置き、彼もまた立ち上がった。


「それじゃあ。出発するとしよう」


 自然な流れにリアは追いつけていなかった。


「本当に行くんですか……?」


「昨日の動き見てればわかるわ。多少のことなら自分で対処できるでしょ」


 ベルは悪戯っぽく笑い、人差し指を立てた。


「それに……ここは外よりも安全よ」

「それってどういう……」

「アルバさーん」


 ベルがカウンターの奥へ声をかけると、ひょいっとアルバが顔を覗かせた。


「リアのこと少しの間見ておいてくれない?」

「もちろん」


「こう見えてアルバさんは凄腕の魔術師なのよ」

「まかせなさい。私が守ってあげるわ」


 リアは笑みを浮かべるアルバに会釈をした。


「一人で外には出ないようにね」


 デトとベルはリアを一瞥し、外へと出ていってしまい、閑散とした広間に一人、リアは取り残された。


 ***


 広間には古時計のカチ、コチ、という乾いた音だけが響き、時々アルバが何かしている音が聞こえた。

 リアは膝に手を置き、カウンターの方をぼーっと見つめていた。


――暇だ


 アルバに入れてもらったお茶に手を伸ばすが、すでに中身はなく、底をのぞかせるだけだった。冷たくなったカップを撫でながら、時が流れるのを待った。

 ここ最近、ここまでゆっくりしている時間はなかったため、彼女は久しぶりの余裕に戸惑っていた。


 時々アルバが話し相手となってくれたが、宿の仕事もあるため、付きっ切りというわけにもいかない。少ししたら、また一人になった。


 手入れでもしようかと、立てかけていた刀に手を伸ばした時だった。

 真上の天井から、ドン、と何かが倒れたような鈍い音が響いた。

 リアは咄嗟に柄を掴んだが、すぐに上に誰がいるのかを思い出し、刀を置く。


 数分後、誰かが階段を下りてくる気配がした。


 白い服を纏った人物が優雅な足取りで姿を見せ始める。

 整えられた白髪はくはつに、皺一つない制服……と思いきや、寝ぐせはしっかりついており、ボタンは掛け違えていた。

 それでも、さっきまで眠っていたとは思えないほどの爽やかな笑顔をつくっていた。


「おはようございます、リアさん」


 リアは呆気にとられながらも、半目で答える。


「……もうすぐ昼ですよ」

「いやぁ、ははは……」


 オゼロは頭を掻き、乾いた笑い声を出す。


「すみません。僕自身、朝に弱いことを忘れてました。ベルさんとデトさんはもう行ってしまいましたか」


「はい。私の予定は昼過ぎからでしたので、オゼロさんが起きてくるまで一人残されました。……おかげで退屈でしたよ」


「ははは……面目ない」


 リアは刀を持ち、立ち上がった。

「ギルドに行きましょう。もうすぐ時間です」


 リアは先ほどのベルと同じようにカウンターの奥へ声をかける。


「アルバさん、ありがとうございました。私たちもう出ます」

「あらー、もう行っちゃうの? 気をつけてねぇ」


 姿は見えないが、柔らかな声が聞こえた。

 リアは颯爽と外へ出る。オゼロがそれに続き、後ろについて歩き出した。


 昨日も通ったギルドへの長い道のり。

 もうすでに太陽は真上付近に位置していた。

 しばらくは会話がなかったが、にわかにオゼロが口を開いた。


「お二人は何故この街に来たのですか? 昨晩、デトさんに聞いたのですが、はぐらかされまして……」


 歩みを止めずにリアは答えた。


「人探しです」

「ほう……」


 背後から聞こえた声。声色は穏やかなはずなのに、なぜかリアの首筋が粟立った。

 振り返らなくてもオゼロの表情がリアには想像できた。

 リアは身に着けた漆黒の刀……ではない方――ジークから貰った刀をちらりと見た。


――衛兵なら知っているだろうか


 信用はできない。しかし、ジークへの思いが口を滑らした。


「ジーク、という男性に聞き覚えはありませんか」

「……いや、ないですね」

「そうですか」


 声色は変わらなかったが、リアは気を落とした。


「その方とはどのような関係なのでしょうか?」

「私の……」


 リアの歩幅が小さくなった。


「私の……師匠です」

「おや、師匠はデトさんではないのですか?」


「剣の師匠です。デトさんに出会う前、教えてもらっていました」

「その方を……探している?」


「はい」


 リアの声はいつのまにか小さくなっていた。


「なるほど。込み入った事情がありそうですね」


 彼女は刀の柄を力強く握りしめた。

 それから、二人の間に言葉が交わされることはなかった。


 ***


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