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ブルーエンペラー ―魔力なしの剣士と無双の青―  作者: カントウしょうゆ
第一章 欠落した心臓

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第四話 密談Ⅱ 一時の休息


「あら、いらっしゃい。衛兵さん」


 大きなほうきを持ったその婦人は、目尻に皺を寄せてにこやかに挨拶をした。

 透き通るような白い髪に、色素の薄い肌。今にも消えてしまいそうな儚い印象を受ける。


「お疲れ様です、アルバさん。繁盛してますか?」


「ここはギルドから遠いし、建物が古臭いからねぇ。あんまりお客さんこないのよ……って、この話何回目ぇ?」


 おっとりと笑うその婦人に、リアは目を奪われた。

 その理由は、オゼロ以上に際立つ白さだけではない。髪の間から覗く、長く尖った耳だった。


「……エルフ?」


 つぶやいた言葉にその耳がピクリと動き、アルバはオゼロの後ろにいるリアに視線を向けた。


「あら、お嬢さん。エルフを見るのは初めて?」

「あ……はい。実際に見るのは……」


 リアは縮こまり、だんだん声が小さくなってしまった。

「うふふ……可愛い子ね」


 瞳が見えなくなるほどの笑顔を向けるアルバに、ベルが割って入った。


「挨拶はそのくらいにして。部屋、空いてるんでしょ? 四人よ」

「ええ、もちろん構わないわよ。それじゃ、こちらにいらっしゃい」


 アルバはオゼロたちを手招きし、古びた木造の建物の中へと案内した。

 中は意外にも小綺麗で清潔感があり、ほのかに木の香りが漂っている。


「お部屋は……」

「二つでお願いします」


 オゼロはカウンターに銀貨を数枚置いた。アルバは慣れた手つきでそれを受け取り、壁に掛けられた鍵を二つ手に取る。


「はい、二〇一と二〇二ね」

「ありがとうございます。……ああ、部屋割りですが」


 オゼロは笑顔のまま、振り返ってデトたちを見た。


「僕とデトさん、ベルさんとリアさんで分けましょう」

「ま、それが妥当よね」


 ベルが一つ、オゼロが一つと鍵を受け取った。

 古い階段を軋ませながら二階へ上がると、二人は示し合わせたようにそれぞれの扉の前で足を止めた。


「それでは、今日はもう休みましょうか。明日の朝、下で集合しましょう」


 オゼロの言葉を背に、リアとベルは二〇二号室へと足を踏み入れた。


 通された部屋は、質素だが掃除が行き届いていた。

 ベッドが二つに、小さなテーブルと椅子。

 壁には古びた魔石灯ませきとうが備え付けられており、硝子ガラス越しに暖かな光を放っている。

 森で見た焚き火とは違う、揺らぎのない安定した文明の明かりだ。窓からは夜の帳が下り始めた街並みが見える。


 ドアを閉めると、ベルは大きく息を吐いた。


「ふう……なんだかんだ言って疲れたわ」


 ベルは自身の腰に着けていた剣を外し、ベッドの横に立てかけると、そのまま重たげに腰を下ろした。

 その無防備とも言える様子を、リアは訝しげに見つめる。


「ん? 何よ……そんな顔して」

「いや、あなたたちは私たちの監視なんですよね。武器を置いてもいいのですか」

「なーに、そんなこと」


 リアの純粋な質問に、ベルは少し気の抜けた顔をした。


「今日数時間あんたのこと見てたけど、何となく悪い人間には見えなかった。エルフを見て縮こまるような子が、寝首を掻くとは思えないしね」


 ベルはあくびをしながらベッドへと倒れ込む。


「まあ、仕事として頼まれてるから、監視をやめたりはしないけどね」


 街の中へ入ってからずっと張り付いていた緊張が、少しだけリアから離れた。

 リアも帯びていた刀を外し、もう一つのベッドへと腰を掛ける。


「それと。あんたには話しとかなきゃいけないことがあるわ」

「は、はい」

「デトとかいうやつにはオゼロからすでに話がいってると思うけど」


 ぐっ……と、ベルは再び上半身を起こした。


「この街では今、連続殺人事件が起きてるわ……」


 ベルは、実力のある冒険者の心臓が次々に狙われていることを淡々と話した。


「なるほど、そんなことが」


「犯人は明らかに高ランク帯の冒険者を狙ってるわ。動機はランクへの嫉妬か、依頼の独占か……わからないけど」


 ベルはリアの顔を指さして言う。


「だから、気をつけなさいよ。あんたは今日で()()のがバレたんだから」

「……」


――あまり実感がわかないな。私が〝強い〟なんて


「青髪のアイツもどうやら実力者っぽいし、二人して標的になりそうね」

「デトさんは大丈夫です」


 リアの声はこれまでにないくらい自信に満ちていた。

 今までにない素振りにベルは困惑する。


「は? どうしてそんなこ――」

「大丈夫です」


 食い気味に言うリアにベルは言葉を失ってしまった。


 沈黙が流れた。


 あの日あの夜見た光景が、デトの強さの証明となる。しかしそれはリアにしかわからない。


「……あっそ。ま、二人とも気をつけることね」


 ベルはそう吐き捨てると、壁際の明かりに手を伸ばした。

 カチリ、と小さな音が鳴り、魔石への供給が断たれる。ふっと部屋が闇に沈んだ。


「おやすみ」

「……おやすみなさい」


 もう一度ベッドに体重を乗せるベルの横で、リアは暗闇の中、虚空を見つめていた。


――そう。デトさんなら大丈夫


 確信を胸に、リアはゆっくりと瞳を閉じた。

 長く、濃密な一日が終わろうとしていた。


 ***


 第四話 密談 完



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