7話 アーク・ゼロ
森は消えていた。
さっきまで木々が生い茂っていた場所は、
巨大な熱線によって一直線に抉り取られている。
地面は赤熱し、
黒い煙が空へ立ち上っていた。
その中心で。
《アーク・ゼロ》は静かに立っていた。
巨大だった。
見上げるだけで首が痛くなる。
黒い装甲は半分以上が崩れ、
全身に無数の亀裂が走っている。
だが、それでも。
その存在感は圧倒的だった。
「……助かった、のか?」
ユウが呟く。
すると。
『肯定』
低い機械音声。
《アーク・ゼロ》の赤い単眼が点滅する。
『操縦者の安全を最優先します』
「操縦者って……俺のことか?」
『認証済み』
『神代ユウ』
『旧人類コード適合率、98.7%』
『搭乗権限を確認』
ユウは言葉を失う。
エルも黙って《アーク・ゼロ》を見上げていた。
その横顔は、どこか緊張して見える。
「……エル?」
「おかしい」
彼女は小さく呟いた。
「機神級は、最終戦争で全部失われたはず」
「最終戦争?」
エルは数秒黙る。
まるで、言うべきか迷っているみたいだった。
そのとき。
《アーク・ゼロ》の胸部装甲がゆっくり開いた。
ゴゴゴゴ……。
内部から青白い光が漏れる。
そして。
『搭乗シークエンスを開始します』
「は?」
ユウが目を丸くする。
だが次の瞬間。
ユウの身体が勝手に浮き上がった。
「うわっ!?」
光に包まれる。
重力が消える。
そのまま、機神の胸部へ吸い込まれていった。
「ユウ!」
エルが手を伸ばす。
だが届かない。
世界が白く染まる。
そして次の瞬間。
ユウは、巨大な空間の中に立っていた。
暗い。
だが無数の光が浮かんでいる。
まるで宇宙空間だった。
『神経接続を開始』
『同期率測定』
『適合率……上昇』
「ちょ、待て待て待て!」
ユウが叫ぶ。
その瞬間。
ブォン、と周囲へ大量のモニターが浮かび上がった。
そこに映っていたのは――。
空。
大地。
森。
そして外に立つエル。
「……え?」
ユウは息を呑む。
これ。
《アーク・ゼロ》の視界だ。
『機体制御権限、一部譲渡』
次の瞬間。
ズシン。
巨大な振動。
ユウは思わずよろめく。
すると。
外の《アーク・ゼロ》も、
同じようによろめいた。
「……まさか」
ユウが右手を上げる。
外の機神も右手を上げる。
巨大な黒い腕が空を覆った。
「うおぉぉ……!」
鳥肌が立つ。
動いた。
自分が。
あの超巨大兵器を。
そのとき。
エルの声が通信みたいに頭へ響く。
『ユウ、聞こえる?』
「エル!? これどうなって――」
『今は説明してる時間ない』
彼女の声が鋭くなる。
『上』
「上?」
ユウは反射的に空を見る。
そこには。
黒い点があった。
一つじゃない。
数百。
無数。
そしてユウの視界へ、
赤い警告表示が浮かぶ。
【敵性軌道兵器 接近】
【迎撃不可能】
【推定生存率 0.8%】
ユウの喉が凍る。
その瞬間。
《アーク・ゼロ》の機械音声が静かに告げた。
『――最終戦闘を開始します』




