6話 機械の天使
白い外套が宙を舞う。
その下から現れた銀色の装甲は、
月光みたいな淡い光を放っていた。
細い四肢を覆う機械外骨格。
背中から展開された光の翼。
そして赤く変化した瞳。
エルは静かに浮遊していた。
まるで、人間じゃない。
いや。
人の形をした“兵器”だった。
「……すげぇ……」
ユウは思わず呟く。
だが次の瞬間。
執行機兵の群れが一斉に動いた。
【戦闘行動開始】
赤い光線が放たれる。
十数本。
逃げ場なんてない。
だが。
エルは消えた。
「――え?」
残像だけが残る。
次の瞬間には、
一体目の執行機兵の背後にいた。
「遅い」
機械みたいに平坦な声。
エルの腕が閃く。
青白い光の刃。
それが執行機兵の胴体を斜めに切り裂いた。
ズバァァァッ!!
黒い装甲が真っ二つになる。
さらに。
エルは空中を滑るように加速した。
二体。
三体。
一瞬で切断される。
その動きは、美しかった。
まるで戦うためだけに作られた舞。
ユウは息を呑む。
強い。
圧倒的だった。
だが――。
「っ! エル、後ろ!」
ユウが叫ぶ。
死角。
森の上空から別の機兵が降下していた。
だがエルは振り返らない。
代わりに。
「分かってる」
冷静な声。
次の瞬間。
彼女の背中の翼が分離した。
羽だと思っていた光が、
無数の浮遊砲台へ変形する。
【高機動支援兵装 展開】
ユウの視界に文字が流れる。
砲台が一斉に火を吹いた。
閃光。
轟音。
上空の機兵が爆散する。
「……マジかよ」
完全にSFだった。
だが周囲は森。
遠くには中世みたいな街。
そのアンバランスさが、
逆に現実感を狂わせる。
そのとき。
エルの動きが止まった。
「……?」
赤い瞳が空を見上げる。
ユウもつられて見上げた。
割れた月。
その奥。
黒い雲みたいなものが広がっている。
いや、違う。
機械だった。
大量。
数え切れない。
【軌道兵器群を確認】
【危険度:測定不能】
ユウの背筋が凍る。
空が埋まっていた。
黒い機械の群れで。
エルが小さく呟く。
「もう追跡が始まってる……」
その声には、
初めて焦りがあった。
次の瞬間。
森全体へ、巨大な影が落ちる。
ゴォォォォ……。
低い駆動音。
そして。
空から、“戦艦”が降りてきた。
あまりにも巨大だった。
雲を割りながら現れた黒い艦体。
側面には赤いラインが走り、
無数の砲門が並んでいる。
まるで空飛ぶ要塞。
ユウの視界に文字が浮かぶ。
【管理艦隊所属】
【星系制圧艦】
【対文明殲滅兵器】
「……対文明?」
その瞬間。
戦艦の中央が赤く発光した。
エルの表情が変わる。
「伏せて!!」
直後。
空が、消えた。
閃光が森を飲み込む。
世界が真っ白になる。
轟音。
衝撃。
熱風。
木々が蒸発していく。
ユウは反射的に腕で顔を庇った。
死ぬ。
そう思った瞬間だった。
――ゴォン。
重い音。
ユウはゆっくり目を開ける。
そこには。
巨大な黒い腕があった。
ユウとエルを庇うように。
森に埋まっていた機神――《アーク・ゼロ》が、
片腕だけを持ち上げていた。
赤い単眼が輝く。
そして。
重低音のような声が響いた。
『……操縦者を、保護します』




