5話 起動コード
ゴゴゴゴゴ……。
地鳴りが森を震わせる。
木々の隙間。
そこに埋まっていた巨大な人型兵器が、ゆっくりと上半身を起こしていた。
あまりにも巨大だった。
山が動いているみたいだった。
黒い装甲。
崩れた外殻。
全身を覆う赤いライン。
その片目だけが、不気味に発光している。
「……なんだよ、あれ」
ユウの喉が引きつる。
逃げなきゃいけない。
本能がそう叫んでいた。
だが身体が動かない。
圧倒的すぎる。
存在感だけで呼吸が苦しくなる。
少女が呟く。
「機神級……」
その声には、初めて恐怖が混じっていた。
「こんな辺境領域に、まだ残ってたなんて……」
機神。
その単語を聞いた瞬間。
ユウの視界に文字が走る。
【識別完了】
【機神兵 AA-01《アーク・ゼロ》】
【旧文明最終決戦兵器】
【状態:半壊】
【稼働率:12%】
【操縦者認証 待機中】
「……操縦者?」
ユウが呟いた瞬間だった。
巨大兵器の赤い瞳が強く発光する。
次の瞬間。
森全体へ、重低音のような声が響いた。
『――認証信号を確認』
ユウの身体が震える。
頭の奥へ直接響く声。
『旧人類コード保有者』
『神代ユウ』
『接続を開始します』
「え――」
突然。
激痛。
ユウは頭を押さえて膝をついた。
「がぁっ……!?」
脳が焼ける。
視界が白く点滅する。
その瞬間。
大量の映像が流れ込んできた。
炎。
崩壊する都市。
空を埋め尽くす黒い艦隊。
巨大兵器同士の戦争。
泣き叫ぶ人々。
そして。
赤い空。
滅びる世界。
『第六文明圏、崩壊を確認』
『人類生存率、0.003%』
『最終防衛機構、起動失敗』
『文明保存プロトコルへ移行』
「っ……ぁ……!」
ユウは息を荒げる。
なんだ、これ。
記憶じゃない。
誰かの記録だ。
少女がユウを支える。
「しっかりして!」
その顔を見た瞬間。
ユウの視界に、また文字が浮かぶ。
【個体識別】
【管理補助端末 E-01】
【名称:エル】
【状態:記憶封鎖中】
「……え?」
ユウは目を見開いた。
今、なんて。
管理補助端末?
記憶封鎖?
エル――銀髪の少女は、息を呑む。
「……今、私を見て何を感じたの」
「いや……その……」
言うべきか迷う。
だが。
エルの赤い瞳が、真っ直ぐユウを見つめていた。
「隠さないで」
静かな声だった。
ユウは唾を飲み込む。
「……お前、人間じゃないのか?」
空気が止まった。
森が静まり返る。
エルは、何も言わない。
だがその表情が、
わずかに揺れた。
悲しそうにも見えた。
「……やっぱり」
彼女は小さく呟く。
「あなたは、本当に“見える”んだね」
その瞬間だった。
森の奥で、爆音が響いた。
ズドォォォン!!
木々が吹き飛ぶ。
ユウとエルは反射的に振り返る。
そこにいたのは――。
さっきの執行機兵。
だが、一体じゃない。
十体。
黒い機兵群が森を包囲していた。
赤い単眼が、一斉にユウを捉える。
【最優先対象を確認】
【旧人類コード保有者】
【確保、または排除を開始します】
エルがユウの前へ立つ。
その横顔から感情が消えていた。
冷たい。
まるで機械みたいに。
彼女は静かに呟く。
「……戦闘モード、移行」
その瞬間。
白い外套が弾け飛んだ。
現れたのは――。
銀色の機械装甲だった。
そして背中から、
青白い光の翼が展開される。
ユウは息を呑む。
エルの瞳が、完全な赤へ変わった。
「ユウ」
感情の薄い声。
だが、その奥に微かな熱があった。
「絶対に、死なせない」




