4話 偽りの空
肺が焼ける。
ユウは必死に草原を駆けていた。
背後では爆発音が何度も響いている。
黒い機兵――“執行機兵”が放つ赤い光線が、大地を抉っていた。
「っ、はぁ……!」
「止まらないで」
銀髪の少女は淡々と言う。
息一つ乱れていない。
細い身体なのに、異常なくらい速かった。
「もう少しで遮断領域に入る」
「しゃ、だん……!?」
その瞬間。
ズガァァァン!!
二人のすぐ横へ光線が着弾した。
土が吹き飛ぶ。
ユウは思わず転がった。
熱い。
顔に砂が当たる。
「うわっ……!」
執行機兵が空中から降下してくる。
赤い単眼。
黒い装甲。
その姿はまるで、“人を殺すためだけに作られた機械”だった。
【対象確認】
【旧人類反応を検出】
【排除を開始します】
機械音声が響く。
次の瞬間。
少女が振り返り、杖を構えた。
いや。
ユウの目には、別のものが見えていた。
【荷電粒子収束砲 Type-7】
青白い光が砲身へ集まる。
少女が静かに呟いた。
「――撃ち抜け」
閃光。
世界が白く染まる。
直後。
空中の執行機兵が真っ二つになった。
「……え」
ユウは息を呑む。
強い。
レベルが違う。
だが。
機兵の残骸が、空中で止まった。
「なっ……!?」
砕けたはずの装甲が、赤い光を散らしながら再生していく。
【自己修復機能 起動】
【戦闘継続】
「……嘘だろ」
少女が小さく舌打ちした。
「面倒」
その言葉と同時。
彼女はユウの腕を掴む。
「飛ぶ」
「は?」
直後。
地面が消えた。
ユウの身体が宙へ投げ出される。
「うわぁぁぁぁっ!?」
叫び声が響く。
二人の足元に、巨大な魔法陣が展開されていた。
だがユウには違うものに見えていた。
【転送フィールド展開】
【短距離空間跳躍】
「これ、魔法じゃないのかよ!?」
視界が歪む。
胃が浮く。
世界が引き伸ばされる。
そして次の瞬間。
二人は森の中へ出ていた。
「げほっ……!」
ユウは地面へ膝をつく。
吐き気が酷い。
頭がガンガンする。
一方で、少女は平然としていた。
「ここなら、しばらく見つからない」
「なんなんだよ……全部……」
ユウは息を切らしながら顔を上げる。
少女は少しだけ沈黙した。
風が木々を揺らす。
その奥で、虫の声が聞こえた。
どこにでもありそうな森。
なのに。
ユウには見えてしまう。
木々の奥に走る光のライン。
空中へ浮かぶ謎の文字列。
森の景色に混じる、崩壊した機械施設。
現実が二重に見えていた。
少女が、ユウを見つめる。
「……本当に見えてるんだ」
「だから、何が」
「“現実層”」
彼女は静かに言った。
「この世界は、本当の姿を隠されてる」
ユウの心臓が跳ねる。
少女は空を見上げた。
割れた月。
その奥で、一瞬だけ赤い光が瞬く。
「人類は、ずっと騙されてる」
風が止んだ。
森が静まり返る。
少女はゆっくりユウへ視線を戻す。
そして。
「あなたは、“鍵”かもしれない」
「鍵?」
「この世界を終わらせるための」
その言葉に、ユウは凍りついた。
だが次の瞬間。
頭の中へ、突然ノイズが走る。
『――警告』
機械音声。
今までより、遥かに低い声。
『管理者権限を持つ個体を確認』
『対象コード照合』
『――適合』
ユウの視界に、赤い文字が浮かぶ。
【アクセス権限 一部解放】
その瞬間だった。
森の奥。
巨大な“何か”が起動する音が響いた。
ゴゴゴゴゴ……。
地面が震える。
鳥たちが一斉に飛び立つ。
ユウは息を呑みながら振り返った。
木々の隙間。
その奥に見えたのは――。
土に埋もれた、超巨大の黒い機械。
人型。
都市ほどの大きさがある。
閉じていた片目が、
ゆっくりと赤く点灯する。
少女が、初めて明確な動揺を見せた。
「……あり得ない」
そして。
巨大兵器の視線が、
真っ直ぐユウへ向けられた。




