3話 銀色の少女
風が草原を吹き抜ける。
狼の死体は、黒い煙のような粒子を散らしながら崩れていった。
まるで最初から存在しなかったみたいに。
「……え?」
ユウは呆然とその光景を見つめた。
死体が消えるなんて、あり得ない。
だがそれ以上に。
目の前の少女だった。
銀色の長い髪。
白い外套。
人形みたいに整った顔。
そして、赤い瞳。
その瞳が、まるで機械のセンサーみたいに冷たかった。
少女はユウから目を逸らさない。
「質問に答えて」
静かな声。
感情がほとんど感じられない。
「あなた、どこの管理区から来たの?」
「……管理区?」
「所属コードは?」
「いや、待ってくれ。何言ってるのか全然……」
その瞬間。
少女の目がわずかに細くなった。
警戒。
ユウにもそれが分かった。
彼女の右手が、杖らしき武器へ伸びる。
するとまた、ユウの視界に文字が浮かぶ。
【対物質粒子砲】
【脅威判定:極大】
「っ!?」
ユウは反射的に後ずさった。
対物質?
粒子砲?
どう見てもファンタジー世界の杖なのに。
だが、ユウには違うものに見えていた。
銀色の筒状兵器。
表面に青白いラインが走っている。
しかも一部が破損していた。
少女が眉をひそめる。
「……今、“見えた”の?」
「え?」
「その反応」
少女の声が、初めて揺れた。
赤い瞳がユウを観察するように細められる。
「あなた、本当に何者?」
そのときだった。
――ビィィィィィィッ!!
突然、空気を裂くような警報音が響いた。
空。
真っ二つに割れた月の方向からだった。
ユウは反射的に見上げる。
すると。
空間に、巨大な赤い輪が浮かび上がっていた。
「なんだ……あれ」
鳥肌が立つ。
リングの中心が歪み、
そこから黒い“何か”が降りてくる。
人型。
だが、人間じゃない。
全身が黒い金属で覆われている。
顔がない。
代わりに、頭部には赤い光点が並んでいた。
【執行機兵】
【旧文明管理ユニット】
【脅威判定:致命的】
「っ……!」
ユウの喉が凍る。
瞬間。
少女がユウの腕を掴んだ。
「走って」
「え?」
「今すぐ!」
直後。
――ドゴォォォン!!
さっきまでユウが立っていた場所が爆発した。
土と草が吹き飛ぶ。
熱風。
遅れて轟音。
ユウは少女に引っ張られるまま走り出した。
「な、なんなんだよあれ!?」
「観測者」
少女は振り返らず答える。
「本来、この時代に存在しないものを検知すると現れる」
「はぁ!?」
意味が分からない。
走りながら、ユウは背後を見る。
黒い機兵が宙に浮いていた。
足がない。
代わりに青白い光を噴射している。
まるでSF映画のドローン兵器。
だが周囲の景色は、
剣と魔法の異世界そのものだった。
その違和感が、逆に恐ろしい。
「なんで俺が追われてるんだよ!」
少女は数秒だけ黙った。
そして。
「……あなたが、“旧人類”だから」
「は?」
その言葉の意味を聞き返す前に。
突然、ユウの脳内へノイズが走った。
激しい頭痛。
視界が乱れる。
その瞬間。
見えてしまった。
世界の“裏側”を。
草原。
青空。
森。
その全部が、一瞬だけ剥がれ落ちた。
まるで映像が途切れるみたいに。
その下にあったのは――。
荒廃した鋼鉄の世界。
崩壊都市。
錆びた高層建造物。
黒い海。
空を埋め尽くす無数の機械。
そして。
地平線の向こうに横たわる、
都市ほど巨大な“人型兵器”。
「……なんだよ、これ」
息が止まる。
すると、少女が振り返った。
初めて。
本当に驚いた顔で。
「嘘……」
彼女の声が震える。
「あなた、“現実層”が見えてるの……?」




