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第十六話 『買い出しに下りたのに、自販機の前でもなんだかそのまま通り過ぎられませんでした!』

神社暮らし、村の昼は飲み物ひとつまでなかなか夏らしいです!

一巻 鐘が鳴る前の夏


第十六話 『買い出しに下りたのに、自販機の前でもなんだかそのまま通り過ぎられませんでした!』


——


沢良木村の昼は、神社の上から見ていたときと、下へ降りてきたときとで少し違っていた。


白雲神社にいるときの夏は、風と木の匂いが先に来るのに、村の中の夏はそこへアスファルトの熱気や、冷蔵庫のモーター音みたいなものが混じっていた。日差しは同じように明るいのに、人が暮らす場所の夏は少しだけ忙しくて、少しだけ生活の匂いがした。月夜は籠を持って木乃葉と一緒に細い道を下りながら、その違いをゆっくり感じていた。


木乃葉は今日も尻尾を隠していなかった。狐耳は引っ込めていたけれど、三本の尻尾は何でもないみたいに後ろで揺れていた。初めて見たときは少し慣れなかったけれど、最近はむしろそれが普通の姿みたいに思えてきた。問題は、普通の姿みたいになったからといって、つい目が行ってしまうのが止まるわけではないということだった。


「また見てる。」


隣で木乃葉が言った。


月夜はすぐに視線を前へ戻した。


「見てませんけど。」


「今、二本目の尻尾の先に目が行った。」


「それは木乃葉が堂々と揺らしてるからですよ。」


「だからって、隠せとは言ってないでしょ。」


月夜はなんとなく口を閉じて、前だけを見た。籠の中には味噌と蝋燭、それから結が別に書いてくれた小さな買い物メモが入っていた。


***


あかね商店は、今日も外より少し暗くて、だから余計に涼しく感じられた。ガラス戸を開けると、聞き慣れてきた冷蔵庫の振動音と、菓子袋のこすれる音が先に耳へ入ってきた。棚の上には菓子、洗剤、蚊取り線香、サイダー、缶詰、輪ゴムみたいなものが、相変わらず落ち着きなく混ざって並んでいた。


「あら、また来たね。」


レジの奥のあかねのおばあちゃんが先に笑った。そして月夜が挨拶しようとするより早く、おばあちゃんの視線は木乃葉のほうへ移った。


「今日は尻尾もちゃんとしてるねえ。」


月夜は一瞬まばたきをした。その言い方があまりにも自然で、まるで「今日は髪がきちんとしてるね」くらいの挨拶に聞こえたからだ。木乃葉は何でもないみたいにレジのほうへ身を預けて笑った。


「ちゃんとしてなかった日なんてあった?」


「あったよ。何年か前は欲張りで、毎日ふくらませて歩いてたじゃないか。」


「あれはサービス精神だよ。」


「余計なほうにだけあふれてたね。」


あかねのおばあちゃんの言葉に、木乃葉が肩をすくめた。月夜は二人のやり取りを聞きながら、この村では本当にこういうことが自然なんだなと思った。最初は木乃葉だけが変わった存在みたいに感じていたのに、今では村のほうがずっと大らかに見えた。


味噌、蝋燭、砂糖、小さな醤油瓶、それから結が書いておいた紙石鹸まで。木乃葉は必要なものより菓子棚の前に長く立っていたけれど、あかねのおばあちゃんが「たくさん買うと、あとで白雲神社の巫女さんに小言を言われるよ」と切ったので、結局ひとつだけ取った。


会計のときになると、木乃葉がぼやいた。


「神霊をずいぶん雑に扱うね。」


「神霊だって間食は減らさないとね。」


月夜はそれを聞いて、思わず笑ってしまった。あかねのおばあちゃんはその笑いを見て、そっと月夜のほうへ小さな飴をひとつ押し出した。


「あんたはこれ、持っていきな。」


「大丈夫です。」


「大丈夫じゃないよ。こういうところでは、黙ってもらうのが礼儀だよ。」


結局、月夜は飴を手に握ることになった。透明な包みの中に、薄桃色が透けていた。桃味らしい。木乃葉はすぐにそれを見て、口元を上げた。


「似合うね。」


「飴にもそういうこと言うんですか?」


「甘そうだから。」


返事があまりにも早くて、月夜はまたなんとなく首の後ろが熱くなった。あかねのおばあちゃんは聞こえなかったふりなのか、わざと聞こえないふりをしたのかわからない顔で、袋を整えていた。


店を出ると、外の空気がもう一度肌にまとわりついてきた。店の中が涼しかったせいで、余計にそう感じられた。道路脇に置かれた自販機は日差しを正面から受けていて、金属の外装は少しまぶしいくらいに光っていた。缶コーヒー、サイダー、メロンソーダ、スポーツドリンク、お茶、炭酸水。透明な窓の向こうに、色とりどりの缶が並んでいた。


木乃葉が先に立ち止まった。


「一本飲んでいく?」


「今ですか?」


「こういうときじゃないと、自販機ってなんとなく通り過ぎちゃうでしょ。」


月夜は自販機の前に立って、飲み物を一列ずつ見ていった。指先にはまだ、あかねのおばあちゃんにもらった飴が握られていて、隣では木乃葉の尻尾がゆっくり揺れていた。何でもない昼だった。けれど、どうしてか、こういう日が少しずつ好きになっていた。


自販機の横の電柱の向こうには、村の外側へ続く緩やかな上り坂が少し見えていた。その先のどこかに丘があることを、月夜はもう聞いたことがあった。ただ日当たりのいい丘くらいに思っていた。風がよくて、夕方がきれいそうで、誰かと一度くらい上ってみたい場所。そのくらいで十分だった。


「何飲むの?」


木乃葉が聞いた。


月夜はしばらく迷ってから、いちばん右下の段にある桃味の炭酸水を指差した。


「これです。」


「またすごく君らしいのを選ぶね。」


「それが褒め言葉なのか、まだよくわからないんですけど。」


自販機の投入口へ硬貨が落ちる音が、夏の真ん中で妙に軽やかに響いた。


自販機から落ちてきた桃味の炭酸水の缶は、手に触れた瞬間びっくりするくらい冷たくて、月夜は反射的に缶を両手で持ち替えた。さっきまで日差しで熱くなっていた手のひらが、すぐに冷えていく気がした。木乃葉はメロンソーダを選んで、缶の上を開ける手つきまで妙に慣れていて、のんびりしていた。プルタブを開ける短い音のあと、炭酸がかすかに息をするような音がした。


「それ、好きなの?」


木乃葉が聞いた。


「まだわかりません。」


月夜は缶を見下ろしながら言った。


「桃は好きそうな気がするんですけど、炭酸は飲んだことがあるのか覚えてなくて。」


「じゃあ今日わかるね。」


木乃葉はそう言って、先に一口飲んだ。缶の口に触れる唇と、そのあとほんの少し動く喉の線みたいなものがどうして目に入るんだろうと思って、月夜は慌てて自分の缶を開けた。ちいっ、と気持ちのいい音がした。


初めて飲んだ桃味の炭酸水は、思っていたより甘くて、思っていたより冷たかった。舌先を軽く弾いて通り過ぎたあと、果物の香りが薄く残った。月夜は思わず少し目を丸くした。


「……これ、おいしいですね。」


「そうだと思った。」


月夜がもう一口飲むあいだ、木乃葉の尻尾の一本がゆっくり揺れた。日差しの下の尻尾は、日陰で見るときより色があたたかく見えた。金色というより、よく乾いた草の先に夕焼けが薄くかかった色に近かった。


「また見てる。」


「今回は隠しません。」


月夜は言った。


「尻尾が揺れたら、見えますから。」


木乃葉は少しまばたきをして、それから笑った。


「素直になったね。」


「ずっと違うって言ってても、どうせばれますから。」


「でも、あんまり堂々とされると、それはそれで少し危ないんだけど。」


その言葉がどういう意味なのか聞こうかと思ったけれど、月夜はそのまま缶をもう一度傾けた。下手に聞けば、また変な方向へ話が行きそうだった。隣で木乃葉もメロンソーダを飲んだ。夏の日の自販機の前で、二人が缶を持って立っている光景は普通だった。狐の神霊が尻尾を堂々と出している点を除けば。


「あの向こうの丘、行ったことはまだないよね?」


木乃葉がふいに聞いた。


月夜は自販機の横の向こうへ続く坂をちらりと見た。


「まだです。あっちですよね?」


「うん。花火手(はなびて)の丘ってところで、あそこから少し上れば着くよ。」


「綺麗なんですか?」


木乃葉はすぐには答えなかった。缶を指先でゆっくり転がすように持ったまま、坂道の先の向こうを一度見た。その視線があまりにも何気なく見えたので、月夜もかえって気楽にその先を見られた。


「綺麗だよ。」


木乃葉が言った。


「風もいいし、夕方の光もよく引っかかるし。ただ座ってるのにちょうどいい場所。」


そのくらいの説明が、不思議と十分だった。月夜は花火手の丘という名前を、心の中で一度転がしてみた。名前だけでも、夏が似合う場所みたいだった。


「今日は行かないんですか?」


「今日は買い物したものを持ってるでしょ。」


木乃葉が月夜の籠を顎で示した。


「味噌を持って丘に上ると、生活感が強すぎる。」


「それはちょっとそうですね。」


二人は同時に笑った。それだけで十分だった。今はただ、いつか一度くらい行く場所としてそこにあってもよかった。


***


自販機の横の日陰で少し休んでから、二人はまた神社のほうへ歩き出した。下りてきたときとは逆に、今度は上り坂だった。夏の昼の上り坂は、短く見えてもそれなりに足を使わせる。月夜は籠の持ち手を握り直して、ゆっくり歩いた。隣の木乃葉は、さっき買ったものよりずっと軽い菓子袋を指に引っかけていたのに、足取りは妙にのんびりして見えた。


「それ、結局買ったんですね。」


「ひとつだけ。」


「あかねのおばあちゃん、すごく厳しく見てましたけど。」


「だからひとつだけ買ったんでしょ。」


それはその通りだったので、月夜は頷いた。少しして、木乃葉が何でもないように手を伸ばした。


「籠、貸して?」


「大丈夫です。」


「重そうだけど。」


「木乃葉の菓子袋よりですか?」


木乃葉がふっと笑った。


「言うようになったね。」


「これくらいは最初からありましたけど。」


それでも結局、籠は木乃葉の手に渡った。あまりに自然に、本当に自然すぎて、断るタイミングを逃してしまった。木乃葉は片手に籠、もう片方の手に菓子袋を持ったまま、何でもない顔で歩いた。三本の尻尾は後ろで軽く揺れていて、そのうち一本がときどき籠の側面をかすめるように通り過ぎた。


「そんなふうに見てたら、また何か言うんでしょう?」


月夜のほうから先に言った。


木乃葉がすぐに笑った。


「今度は先手も打ってくるんだ。」


「ずっとやられてばかりですから。」


木乃葉といると、どうしてかいつも一拍ずつ遅れる。からかうのも、視線を見つかるのも、顔が赤くなるのも。だから、先にひとつくらい投げておきたくなるときがあった。


「じゃあ今度は、あたしがひとつ見てあげようか。」


「何をですか。」


「君がどうしてすぐ暑そうな顔になるのか。」


月夜は言葉に詰まった。木乃葉はやっぱり木乃葉だった。一歩先に出ようと決めた瞬間、その二歩くらい先から回り込んできていた。


「暑いからだって言ったじゃないですか。」


「その言い訳、最近便利すぎるよ。」


「夏ですから。」


「じゃあ冬は何て言うんだろうね。」


本当に何でもない会話なのに、その隙間で心臓が余計に一度ずつ跳ねた。月夜はなんとなく道端へ視線を向けた。草の先が日差しを受けて白く光り、遠くで蝉の声が少しだけ大きく降ってきた。その合間合間に、籠を代わりに持つ木乃葉の指の節や、歩くリズムに合わせて揺れる尻尾の影みたいなものが目に入った。


***


神社へ続く石段の入り口がまた見えてきたとき、月夜はふと思った。


今日したことは、たいしたことではひとつもなかった。買い出しに下りて、商店で物を買って、自販機の前で飲み物を一本飲んで、ただ帰ってくる道だった。なのに不思議なことに、そんな普通の出来事が一日ひとつずつ積み重なっていくだけで、ここでの時間が少しずつ自分のものになっていくような気がした。


記憶はまだ遠く、真実はわからず、一緒に暮らしている人たちはみんな少しずつ普通じゃない。それでも今は、その普通じゃなさまで含めて、ここが好きになっていた。

今日は特に言うこともなく、ただ!女同士とかありえないでしょと言い張る女の子を、百日間で徹底的に落とす百合のお話が面白いことのです! みかみてれん先生は本当にすごい方なものです!

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