リリーの処分 後半
「静粛に! これから量刑を話し合います。手元の札の確認を」
白神官がそう言うとみんなが白い札を上げ始める。
私の手元にも白い札が用意されていた。
「マリー。意見がある時はそれを上げるのじゃ。神官に指名されたら発言が出来る」
「低い席から優先的に指されるので、マリー様ならすぐですよ」
教皇様とモーラス司教様が両脇から教えてくれる。
へぇ。一番下って事はそれなりに意見が通るのかな……。
「もし、聖女様の妹様が毒殺されて第一王子側のメイドの裏切りがなかった場合、第二王子が誘拐の主犯にされていたのでしょうか?」
上の方から誰かの声が場内に響く。
「この誘拐では関係者の数が非常に少なく、実行犯が第二王子の元護衛主任、第二王子が聖女様の妹様を連れ帰った偶然もあり、そうなっていた可能性は高いでしょう」
急にざわめきが大きくなる。
確かにそうだ。
スージーが教えてくれなければ、私は第一王子に騙されていただろう。
でもリリーの情報提供が無ければ、スージーがフラれた腹いせに嘘を言った事にされたかも知れない。リリーの証言は重要で不可欠だ。
「静粛に! すでにメイドには聖女様を救った功績が称えられ、隣国で特別勲章が授与された!」
その情報に場内のざわめきが更に大きくなった。
勲章なんて凄い。
大活躍だったし当然といえば当然だけど。
私は嬉しくなって自然と顔がほころんだ。
「では同じ情報提供者の聖女様の妹様はどうなるのでしょうか? 利用されたとはいえ聖女様に毒を撒いたのですよ!」
「いや、メイドと同じように褒美が必要だ!」「何を言っている! 暴行は暴行だ!」「聖女様の家族だぞ!」「彼女は利用されただけだわ! 罪はないわよ!」
札の意味が無くなって、みんなが言いたい放題に叫んでいる。
教皇様はそれを黙って眺めていた。
「いいのじゃ。全部吐き出してしまえば彼らもそのうち落ち着く」
モーラス司教様も頷いている。
いつもこうなのかな。
私も黙って成り行きを見守ることにした。
徐々に騒ぎの行方が聖女暴行のステータスを付けるか付けないかの議論で白熱していく。
「聖女様! 聖女様のご意見をお聞かせください!」
誰かが大きな声でそう叫ぶと場内は静まり返り、私は皆の視線を一身に集めた。
「マリー。無理ならわしが……」
教皇様が腰をあげようとしたので腕を押さえて首を振る。
「ありがとうございます。でも、私に話をさせてください」
教皇様は小さく頷くと、手で私に立つように合図をした。
私はゆっくりと立ち上がり、大きく深呼吸をする。
リリーの運命がかかっている。
落ち着け、私。せっかく意見を述べる機会を貰えたのだ。
「まずはお礼を言わせてください。夜通し眠らずに私の救出に尽力してくださった皆様に、心から感謝申し上げます。次に、妹のリリーが大変な事に巻き込まれ、ご迷惑をおかけしました」
静寂に包まれた中で、私は深くお辞儀をした。
「聖女様は妹様が『巻き込まれた』というお考えですか?」
中層階の誰かが沈黙を破り声を上げる。
「はい。私はそう思っております。彼女は愚かな事をしましたが、決して自らの意思ではございません」
「では無罪が妥当だとお考えでしょうか?」
今度は別の白神官が立ち上がった。
普段は聖女に逆らえない白神官達もこの会議では対等だ。
「いえ、無自覚だったとはいえ犯罪に加担した事に変わりません。確かこういったケースでは、王都追放のステータスを付けて釈放するのが一般的だと記憶しています」
場内のざわめきがどんどん大きくなっていく。
それぞれが隣の者や自分の側近と口元を隠して話している。
資料室勤務を舐めないでよね。リリーに悪意は無かったし一番の情報提供者だ。
聖女に毒さえ撒かなければ、無罪どころか褒美があってもおかしくない。
しかしこれは『聖女に毒さえ撒かなければ』の話なのだ。
前例なんてある訳がない。
「静粛に! 意見のある方は札を上げてください!」
みんなこちらをチラチラと見ていたけれど、誰も札を上げようとはしなかった。
「よいのか、それで」
教皇様が掠れた声で確認するように私の目を見る。
私は笑みを深くして、大きく頷いた。
教皇様がスッと立ち上がるとみんな息を飲んで注目をする。
「わしもリリーは王都追放のステータスを付けて釈放するのが妥当だと考えておる」
下で仕切っていた白神官が教皇様に頷くと「決を採ります!」と大きな声で叫んだ。
リリーの量刑が決まった。リリーは王都追放のステータスを付けて釈放に。
第一王子は城の離れの塔で一生幽閉される。実行犯と側近は死罪。
「マリー。よく頑張ったな」「おつかれさん」
背筋を伸ばし毅然と部屋を出ると、後ろからふたりが声をかけてくれる。
怖かった。
リリーが死罪や投獄になるかと思うと怖かった。
今になって足が震えてくる。
これ以上ない結果に心からホッとして、何故だか涙が頬を伝って流れ落ちた。
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