リリーの旅の準備
「マリー。王都永久追放ってなんの意味があるの?」
またリリーが変なことを言い出した。
「あのねリリー。そんなステータスが付いてる人が罪人じゃないわけないでしょう?」
「でもさ、村から出なければ影響ないし、他の町には入れるし」
旅用の服を試着したリリーは特別個室の大きな鏡の前でくるりと回る。
私のお古のベージュの膝丈ワンピと白のケープに茶色のブーツ。
リリーは気に入ったみたいでふふんと笑う。
みんながこれだけ苦労したのに気楽なものよね。
呆れたけれど、事実そうなので反論する言葉は見つからなかった。
「と、とにかく、せっかく釈放されるのだから二度と罪は犯さないでね」
「ちょっとー。私だって好きでこんな事した訳じゃないし、極悪人みたいに言わないでよ」
「いや、前科あるし」
私がボソリと言うと、リリーが子供みたいにイーって顔をする。
そこへハートさんがやって来た。
「マリー。ボルドーが来たぞ」
そうだ。ボルドーさんを呼んでいたのだ。
口が堅くて信頼のおける人はそう多くない。
「ハート!」
リリーが飛びつこうとして聖騎士に取り押さえられる。
毎回毎回、ほんっと学習しない。まったく、何をやっているのだか。
「マリー様。訳アリという事でしたが、これはいったい……」
ボルドーさんがリリーを見て、目を見開いて驚いている。
それもそうよね。私の服を着た同じ顔のリリーがいるのだもの。
「極秘ですが、こちら、私の双子の妹のリリーです。リリーちゃんと挨拶して。そのドレスとアクセサリーを買い取る為に来て頂いたのだから」
リリーは聖騎士から逃れようと暴れていた手を止めてぺこりと頭を下げた。
私は聖騎士にリリーを解放するように目配せする。
「すみません。これ全部です」
そう言って私は籠に入れたドレスとアクセサリーをボルドーさんに手渡した。
ボルドーさんはそれを両手で受け取りチラリと中を覗くと片眉を上げる。
「しばらくお待ちください」
それ以上は何も言わずにドレスを広げてみたり、アクセサリーの宝石をルーペで確認し始めた。
王族が使うようなかなりの高級品だ。訳アリの意味は察してくれたみたい。
「ねぇ、ハート。私、ハートと結婚したいの」
はぁ?
急に何を言いだすのよ。今、それどころじゃないでしょう。
私は頭が痛くなってきた。
このお気楽娘が!
王都の永久追放になったのに、なんでそんなに普通でいられるのよ。
私の心の叫びなど届くはずもなく、リリーはうっとりとハートさんを見つめている。
「迷惑だ。俺はマリー以外を愛せない」
すました顔でハートさんが言い切った。
ハートさんまで何を言ってるのー!
どうやらハートさんにも私の心の叫びは届かなかったらしい。
ボルドーさんがギョッとして振り返り、ハートさんから私の方に視線を移す。
私と目が合うと慌てて手元に視線を戻した。
やめて。
気を使われると余計に恥ずかしいから。
「マリー! これどういう事?」
私は反射的に目を逸らす。
少しは空気を読んでよリリーさん!
「おい。マリーは関係ない。これは俺の意思だ」
「なんで? なんで私じゃダメなの?」
それ聞けるんだ。どんなメンタルしてるのよ。
こういうところは本当に尊敬するわ。
「それよりキリカはどうした? お前の為に移住までしたのに。失ってもいいのか?」
「キリカはいなくならないもん」
それを聞いたハートさんは『話にならない』という顔でげんなりしている。
私の心臓はそれどころじゃないのですけどね!
「マリー。遅くなって悪かったな」
「おじいさま!」
おじいさまが顔を覗かせ師匠と一緒に入って来た。
危ない、危ない。聞かれなくて助かった。
「リリー。先にシドさんにお礼を言って」
私はリリーの腕を引いて師匠の前に連れ出した。
リリーは師匠に叩かれた事をずっと引きずっている。
諜報部隊に喋らされたのと自ら情報提供したのとじゃ、結果に雲泥の差があったのに。
「あの時は分からなかったけど、おかげで命拾いしたって聞いた。……ありがとう」
「『ありがとうございました』」
なんで練習通りに言わないのよ。
「ありがとうございました」
リリーがぶっきらぼうに私の言葉を繰り返した。
師匠は照れたように頭をかいてリリーの頭をポンポンすると「気を付けて帰れよ」と優しく笑う。
師匠は私に選択肢を残してくれた。
それがどれ程ありがたい事か。おそらくリリーには分かるまい。
「リリー。元気でな」
おじいさまが師匠の横で少し身を屈めでそう言うと、リリーは緊張で顔を強張らせる。
「……手紙書く。私、字も書けるし読めるから」
そうなのだ。それだけで魔法が無くてもリリーはどこででも生きて行ける。
リリーに字を教えてくれた人達に感謝したい。大きな街なら字の読み書きの方が魔法より重宝される。
そんなリリーをおじいさまは愛おしそうにそっと抱きしめた。
「リリーは凄い子だな」
「……うん」
リリーは両手を下げたまま拳を握り、身を硬くして眉間にしわを寄せている。
リリーは何故かおじいさまに人見知りをしていた。
「マリー様」
ボルドーさんが買い取りの計算を済ませ、トレーにお金を載せてテーブルに置く。そのあまりの金貨の多さに目を見張った。
散財しなければ一生遊んで暮らしていける金額だ。
「こんなに、ですか?」
「ええ、こちらの宝石はわが国では手に入りにくく、さらにこちらの宝石など上級貴族がいくらお金を積んでも手に入らない貴重なもので……」
ボルドーさんは目を輝かせ、綺麗な手で一つ一つ宝石を指しながら丁寧に説明をしてくれる。
リリーって強運の持ち主だよね。隣国は宝石の原産国だ。
貴重な宝石が安く手に入る上に王族御用達の品質ともなれば、それは確かにボルドーさんの目も輝く。
私は「ありがとうございます」とお金を受け取り袋に入れた。
そして私は顎に手を当てて考えた。リリーに全部渡したらおかしなことに使いそうだし……。
一部だけ渡して残りは少しずつ送金しようかな。
うん、そうしよう。
旅の資金分だけを別の袋に入れるとリリーに渡す。
「これで旅支度をして、冒険者を雇って村に帰ろう」
リリーは袋の中を覗いて目を丸くした。
「こんなに沢山?! 何か買い物したい!」
「買い物ならわしが代わりに行ってやるぞ」
おじいさまが目尻を下げて優しい顔でリリーを見下ろす。
リリーは恥ずかしそうにモジモジしていた。
「おじいさま。リリーを甘やかさないでください。これは冒険者を雇うお金と旅の資金ですよ。リリーも無駄遣いしないでね」
私に叱られたふたりは共犯者の様に顔を見合わせる。
リリーの緊張が少し解けて来たみたい。おじいさまと一緒に照れくさそうに笑っていた。
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