リリーの処分 前半
こっちに戻ってからの私は報告書の提出や度重なる事情聴取でヘトヘトだった。
あれからも、リリーには何度か会いに行っている。
「マリー。もう出かけるのか?」
「はい、おじいさま。早めに出ようかと思っています」
今日はリリーの処分を決める大事な会議が行われる。
これまでおじいさまは何も言わずにいてくれた。
面会も、今は私だけしか許されていないから気になっているはずなのに。
「マリー。わしはリリーがした事をちゃんと理解している。マリーは後悔の無いようきちんと決着をつけておいで。わしは何があってもマリーの味方だぞ」
「おじいさま……」
おじいさまが両腕で包み込むようにギュッと抱きしめてくれた。
はぁ、安心する。ずっとこのままギュッとしていて欲しいよ。
「俺達も同じ気持ちだからな。それだけは忘れるな」
ガインさんが背中から声をかけてくれる。
フェルネットさんが私の肩に手を置いた。
「ほれほれ。嬢ちゃん遅れるぞ。ハート。しっかり支えてやれ」
師匠がおじいさまから私を引き剥がすと、ハートさんの方へと突き飛ばす。
トトトトと、たたらを踏んでハートさんにぶつかった。
「おっと」
すかさずハートさんが私の肩を支えて微笑んだ。
ひゃー。
「す、すみません」
こっちはこっちで心臓が破裂しそう。
あれ以来ハートさんの眼差しが甘い気がする……ような気がする。
いや、私は昔から妄想が激しいし、自意識過剰かも知れない。うん。きっとそうに違いない。
とりあえずリリーの事に集中する為に心頭滅却、他の事は全て頭の隅に追いやる事にした。
「行ってきます」
迎えの馬車に乗り込むと、ハートさんとテッドさんが乗り込んでくる。
「マリー。昨日はちゃんと寝られたか?」
「体調は問題ない?」
「はい。ぐっすりです。それに、何があっても覚悟は出来ています」
私が精一杯の笑顔を見せると、ふたりは顔を見合わせて呆れたような顔をする。
「ひとりで気負うな。俺達を頼れ」「そうだよ。私達は家族だろ」
「もちろんです。みなさんがいてくれるから私は強くいられるのですよ」
ふたりは「そうか」と安心したように頷き、「俺達が付いている」と何度も私を安心させるように言ってくれた。
「着いたぞ。心の準備はいいか?」
「はい」
馬車を下りると大勢の白神官達が気遣うように出迎えてくれた。
「聖女様。こちらへ」
白神官はいつもの会議室ではなく、中央棟の横にある別棟の渡り廊下をスタスタと速足で歩く。
こちら側はあまり足を踏み入れた事はないけれど、こっちの花壇は別の綺麗なお花が咲いている。
庭師のドーマンさんの弟子の仕事かな? ドーマンさんとは少し雰囲気が違う。
少し歩くとすぐに、大きな扉が見えてきた。
「聖女様。どうぞ」
白神官が私を大きな両開きの扉の中央に立たせると、左右同時に扉を開ける。
突然『わぁー』と大きなざわめきが聞こえてきた。
仰ぎ見ると、顔見知りの上層部の人達や見た事もない白神官や上級職の恰好をした人達が、上に向かってすり鉢状に円を描くように座っている。
ここは一番下で一番狭い。
怖気づきそうな気持を奮い立たせて足を一歩踏み入れた。
「マリー。こっちじゃ」
部屋の中央にいた教皇様とモーラス司教様の間の席に案内される。
ハートさんとテッドさんは私の後ろの護衛席に着いた。
「静粛に! これから聖女様誘拐の罪人の量刑について話し合います!」
進行役の白神官が、私の着席を確認してから大きな声でそう叫ぶ。
立っていた者は席に着き、話していた者は私語を止め、辺りが徐々に静かになっていく。
彼は辺りが完全に静かになった事を確認してから、第一王子やその側近、私を誘拐した実行犯、そしてリリーの名前を滑舌よくはっきりとした声で読み上げた。
次に、事の始まりからの説明が始まる。
第二王子が偶然リリーと出会い隣国に連れて行き、第一王子が帰国するリリーを使って私を誘拐させた。その際リリーが毒を撒いた事も。
上階に座る神官達の表情が硬い。
事の大きさが明らかになるにつれ、私はリリーを救う自信が無くなっていく。
隣国を巻き込んで多少規模が大きいとは思っていたけれど、まさかここまでとは……。
額に手を当ててため息を吐くと、後ろから肩をポンと叩かれた。
振り返るとハートさんが『大丈夫だ』と優しく微笑んでくれる。
不思議だな。昔からこの笑顔を見ると心が落ち着く。
私が微笑み返すとハートさんは少し驚いてから小さく笑った。
そうしている間にも話はどんどん進んでいき、第二王子が私を救った事、隣国の国王様が罪人を教会に引き渡した事、リリーが情報提供者として有益だったと説明されていく。
良かった。
流れとしては悪くない。祈る気持ちで見守った。
「いったん休憩に入ります。次の鐘で再開するので、それまでには席にお戻りください」
長い長い説明が終わり、やっと休憩だ。
各階の大きな扉が開け放たれて外の光が差し込んでくる。
うーんと大きく伸びをすると、教皇様も「くたくたじゃ」と笑っていた。
「マリー。少し外を歩こうか」
テッドさんがそう言うとハートさんが手を取って、座り過ぎて足元がふらつく私を立ち上がらせてくれる。
「長かったですねー」
「ああ。シドさんが言っていた通りに進んでいるな」
私の横を歩きながらハートさんがボソリと言った。
「やっぱり師匠には未来が見えると思います」
確信めいてそう言うとハートさんが楽しげに「フフ」と短く笑う。
師匠は何でもお見通し過ぎる。絶対に何かあるってば。
「師匠はこの先をどう読んでいましたか?」
「第一王子は城のどこかで一生幽閉、実行犯と側近は死刑。リリーは王都から永久追放。争点は聖女暴行のステータスを付けるか付けないか」
流石師匠。絶妙。
でも、私の予想も師匠と同じだ。
「王族を死刑にする判例は少ないですし、その辺で落ち着きそうですよね」
「どうだろうな。国ごと制裁される可能性もあったんだ。あの第二王子がいなければ第一王子の命は無かっただろうし」
ハートさんが苦笑いしている理由は分かる。
だってあのお気楽王子が国を救ったなんて全然イメージと合わないし。
「それにしても教会に盾突くなんて、なんて馬鹿な事をしたのでしょうね」
「それだけ報酬が魅力的だったんだろ」
ハートさんが意味ありげに私のおでこを突いた。
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