マリーの帰還
「緊張するなぁ。ガインさん心配で泣いてますかね?」
「フフ。大丈夫だ。無事だって手紙出したんだろ」
手綱を握ったハートさんに後ろから笑われた。
「お待ちしておりました! 聖女様!」
王都の外壁門の門衛達がビシッと敬礼して迎えてくれる。
こっちの入り口はずらーっと並んだ王都に入る人達の行列とは別の、教会関係者用の裏口なのだ。
「ご心配をおかけしました」
「今後は確認を絶対に怠りません!」
私達のステータスを偽装防止の魔道具を使って確認した門衛は、ガラガラと奥の格子門を開けて通してくれた。
「神の託宣は使わないのですか」
私が笑って振り向くとハートさんが破顔する。
「国境で見ただろ?」
「さっと開くと気持ちいいよな」
笑顔のテッドさんがパカパカとゆっくり横に並んでそう言った。
「ふふふ。神様は凄いですよね.みんなの動きが違います」
「ははは。聖女に仕事ぶりを見せたいだけだよ」
「はははは」
今日のハートさんはいつもより沢山笑う。
無事に王都に戻って来れたから肩の荷が下りたのかな。
色々あって長く感じたけれど、たった数日の出来事なんだよね。
救出が早くて驚いたな。教会が本気になると凄いという事だけは実感したよ。
「聖女様! いい肉が手に入ったよ! 後でおいで」
「はい!」
街の人は、この騒動を何も知らずにいつものように声をかけてくる。
いつものように挨拶をしながら教会に向かうと徐々に正門が見えてきた。
「ハートさん!」
興奮して前を見たまま呼びかけると、私を支えるハートさんの手に力がこもる。
「落ち着けマリー。逃げやしないよ」
焦れる気持ちで教会の正門をくぐるとガインさん達が待っていた。
「マリー!」「無事か!」「待ってたよ!」「元気そうだな」
ガインさん、おじいさま、フェルネットさん、師匠。
顔が崩れて涙がこぼれ落ちる。
誰かが私の帰還を連絡してくれたんだ。
「ご心配をおかけしました」
私はハートさんに馬から降ろして貰うと、急いでみんなに駆け寄った。
「心配したぞ」「顔を見せろ」「元気でよかった」「安心した」
おじいさまが昔のように私を抱き上げぐるぐるすると、いつものようにみんなが笑う。
そんな中、テッドさんとハートさんが馬を神官に預けてビシッと敬礼をした。
「聖女を無事救出し、ただいま戻りました!」
「ご苦労だった。中で教皇様がお待ちだ。行くぞ」
ガインさんがそう言って先頭を切って歩いていく。
みんなでぞろぞろと後ろに続くけれど、おじいさまは私の手を握ったまま放さなかった。
「マリー。わしは本当に……、本当に……」
おじいさまは壊れ物を触るように、そっと優しく私の頬を撫でる。
「おじいさま……」
私もおじいさまのその大きな手をぎゅっと握った。
教皇様の執務室の前まで来ると『聖女救出作戦本部』とドアに書かれていて恥ずかしい。
「ただいま戻りました!」
私の声に、教皇様も司祭様も片付けの途中の神官達も、みんな一斉に笑顔を向けてくれた。
「聖女様!」「おかえりなさいませ!」「よくぞご無事で!」
「マリー! 無事で何よりじゃ!」
「教皇様!」
急いで教皇様に駆け寄ると、モーラス司教様も駆け寄ってきてくれる。
「マリー様、心配しましたよ」
「モーラス司教様。ご心配おかけしました」
ハートさんとテッドさん、それにガインさんとフェルネットさんまでもが私の後ろで膝を突いて頭を下げた。
「顔を上げよ。ハート、テッド。此度の活躍は見事だった」
「「はっ!」」
「失礼します」とハートさんが懐からぼんやり光る “神の託宣” を取り出して立ち上がる。
そこにいるみんなが息を飲んだ。
「神の託宣のおかげですべてを穏便に済ませる事が出来ました」
「役に立ったようで何よりじゃ」
満足そうな笑顔で教皇様はそれを受け取ると、小さな何かに魔力を流した。
目の前で “神の託宣” がみるみるうちに光の塵となる。
「わぁ、綺麗……」
「役目を果たした託宣は綺麗に消えていくのじゃよ。ふぉふぉふぉ」
私の呟きを聞いた教皇様は楽しそうに笑った。
「ほれほれ、疲れているじゃろう。かしこまっていないで皆そこへ座りなさい」
そう言って教皇様は私達をソファーに促し正面に座る。
お茶やお茶菓子が並べられ、なんだか昨日までの事が夢みたいに思えて来た。
「マリー。疲れているところすまないが、我々に何があったのか詳しく話してくれないかの。報告書が必要じゃ」
私は教皇様や白神官さん達に、ハートさんに話したようにリリーと対面した時の事や隣国での話をする。
教皇様達もガインさん達も目を丸くして聞いていた。
やっぱりここでもスージーは大人気。
「教皇様。一つお願いが。第一王子の使用人達は誰も関与していなかったのです。どうか彼らを守って頂けませんか?」
「うむ。彼らが処分されぬよう連絡しておこう」
教皇様は大きく頷いてくれる。
ああ、良かった。スージーとの約束が果たせたよ。
他に頼まれていた事はないよね……。
考えを巡らせているうちに、大事な事を思い出す。
「あ! この度は妹がご迷惑をおかけしました」
私は慌てて頭を下げた。
もう! 一番先に言わなければならない事を、浮かれて忘れているなんて。
「その件じゃが…。リリーの処分についての会議が後日行われる。おぬしも出席するがよい」
「はい」
教皇様はとても言い辛そうにそう言った。
利用されたとはいえ聖女の誘拐だもの。
神の託宣まで発行されたリリーの立場はかなり危うい。
じっと考え込んでいると、ハートさんがそっと肩を抱いてくれた。
ハートさん……。
「リリーと話をさせて貰えませんか?」
感情を抑えてそう言うと、その場にいた誰もが驚いて私の顔を覗き込む。
「それは構わんが、良いのか? 会いたくないと聞いていたのじゃが」
「私も妹も、もう大人です。逃げずにきちんと話をするべきだと思っています」
お父さん達の事も聞きたいし。
私の肩を抱くハートさんの手に力が入る。
「うむ。おぬしがそう望むのなら構わんぞ。すぐに手配させよう」
教皇様が秘書のイサールさんに目配せをすると、彼は静かに部屋を後にした。
「ありがとうございます」
せっかくお祝いムードだったこの部屋が、いつの間にかお通夜の様にシンと静まり返っている。
この様子だとリリーってば、他にも何かやらかしていたりして。
いや、あの性格なら絶対にありえるよ。聞くのも恐ろしい。
「この場をお借りしてもよろしいでしょうか?」
突然ハートさんが立ち上がると、少し広い場所まで私の手を引いて移動する。
促されるままハートさんの前に立つと、みんなも不思議な顔で私達を見ていた。
ん? なんだろう?
ハートさんが目の前で片膝を突くと私の手の甲にキスをする。
「マリー。俺と結婚してくれないか?」
これで、第五部 隣国編は終了です。
読んでいただきありがとうございました。
※第六部は現在執筆の為、しばらくお休みします。
書き終わり次第更新を開始しますのでしばらくお待ちください。
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