地下牢の罪人達
カツン、カツンと父上の王笏が床を突く。
「国王様、足元にお気を付けください」
「うむ」
父上の側近に案内され、私達は薄暗くてジメジメとした階段を下りていた。
「ブリッド。スージーも連れて来て大丈夫だったかな?」
「あら王子。私は気にしませんよ」
スージーはむしろ楽しそうだ。
それを見たブリッドが苦笑いで肩をすぼめる。
女性は強いな。
兄上の方が弱そう。
「こちらです」
地下牢の前に着くと、父上の側近がガチャガチャと腰の高さまでしかない低くて分厚い扉の鍵を開けた。
「どうぞ、こちらから」
腰を屈めて通り抜けると、個室になっている牢が両側に並んでいる。
「なんだか不気味な所だな」
私がそう言うと、ブリッドが露骨に嫌な顔をして頷いた。
「父上!」「国王様!」「メイルス王子!」
兄上とラーセンと私の護衛主任だったダジールが同じ牢に入っている。
「誤解なんです!」「嵌められたんです!」「私は指示に従ったまでです!」
三人はそれぞれ格子を両手で掴みそれぞれの言い分を叫んでいた。
父上は持っていた王笏でカツンと格子を軽く叩く。
「静かにせい」
呆れたようにそう言った。
「既に聞いていると思うが、お前達をこれから教会に引き渡す」
「父上! 誤解です! そ、そこにいるブリッドとスージーが私を嵌めたのです!」
突然、兄上が格子の間から腕を出して私の横の二人に指を向ける。
「滅相もございません」
「そうですよ。失礼な」
二人は平気な顔で兄上を見た。
「ヨルスアージュ。もう諦めろ。調べはとうに終わっている」
父上の言葉に兄上が愕然として、両手で格子を掴んだままズルズルと落ちて膝を突いた。
「そんな……。スージー、助けてくれ。私を愛しているのだろう?」
「あら、あなたの側近から聞きましたよ。私を捨てるおつもりだったと」
スージーは花を摘みに行った話でもするかのように、軽やかにそう話す。
「誤解だ! 私はお前を愛している! 側室に……、いや正妻にしてやってもいい!」
「『騒ぐなら口封じを』と仰ったようですね」
スージーがにっこり笑うと兄上が気まずそうに顔を背けた。
口封じ? スージーを?
「兄上、私の暗殺計画だけではなく、スージーにまでそんな事を?」
よく分からないが、生まれて初めて腹の底から怒りが湧いて来る。
「王子」
ブリッドが窘めるように私の腕を引っ張った。
「ああ、すまん」
今は私情を挟んでいる場合じゃなかったな。
「父上。私は知らなかったのです! ラーセンが勝手に! まさかダジールが本当に攫ってくるとは思わなかったのです!」
兄上は勢いよく立ち上がると格子をガンガン叩く。
「何を仰いますか! ダジールが計画を持ち掛けてきたので私は王子に報告しただけです!」
「違う! 私はラーセン様に情報を流しただけです。ヨルスアージュ王子の指示に従って実行したまでです!」
ラーセンとダジールがそれに反論をし始めた。
もう、三人は王子とか関係なく罵倒しあっている。
ガシャン!!
父上は先ほどより強めに王笏で格子を叩いた。
「静かにせんか!」
父上の怒鳴り声に三人が同時に息を飲む。
「最後に少し話せたらと来てみたら……。お前たちの醜い争いなど見に来たわけではないわ」
「では、私も教会に引き渡すのですか?」
兄上が縋るように父上を見た。
父上も辛そうな目で兄上を見返す。
「ヨルスアージュ。事情はどうあれお前がこの件の責任者だ。聖女様の妹君の暗殺未遂、聖女様への毒による傷害および誘拐の実行。なんて馬鹿なことをしてくれたんだ」
「父上……」
父上の目は国王ではなく息子を失うひとりの父親だった。
「私はお前をとても愛している。だが、お前のやった事は庇いきれん」
「私は……、私は……。ただ、聖女を、彼女を私の妻に出来ればと……」
兄上ががっくり項垂れて、崩れる様にその場に座り込んだ。
兄上も彼女に惚れたのか……。
動機が自分と同じせいなのか、私も居たたまれない気持ちでいっぱいだ。
涙を拭いて隣を見ると、ブリッドの目にも涙が浮かんでいる。
スージーだけがゴミを見るような目で兄上を見ていた。
「父上。どうか、どうか私だけでもどうにかなりませんか?」
涙ぐむ兄上に向かって父上が辛そうな顔で首を振る。
「神の託宣が発行された。それがどういう事か理解できるな?」
「か、神の託宣……」
兄上だけではなく、ラーセンやダジールの顔からも表情が消えた。
三人とも、やっと事の重大さが理解できたようだった。
「国王様。そろそろ時間です」
ずっと黙って控えていた父上の側近の目にも涙が光っている。
父上は息子想いで有名だったからな。
こんな時に母上が生きていてくれたら……。
「彼らを拘束してくれ。教会に引き渡しに行く」
「かしこまりました」
後ろに控えていた兵士がぞろぞろと牢の中に入っていった。
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