救出隊と合流
「マリー……。無事でよかった」
ハートさんは私から目を放さずに馬を降りるとふわっと優しく微笑んだ。
「ハートさん……」
つい、ホッとして言葉を失ってしまう。
いけない、いけない。
「ハートさん。こちらがメイルスデビアス第二王子です。私をここまで連れて来てくれました」
私は気を取り直して王子を紹介すると、ハートさんはほんのり光る “神の託宣” を取り出した。
おおお。光ってる!
「聖女専用警護隊のハートです。聖女を迎えに参りました」
聖女専用警護隊?
「光るんだね!」
「王子! “神の託宣” の前ですよ!」
すかさずスージーがパシンと王子の肩に突っ込みを入れる。
「蛇の……?」
その様子を見ていたハートさんが首を傾げた。
「はい。そうです。『蛇の』です。あの時はお世話になりました。またお会い出来て光栄です」
「すごい偶然ですよね! 私も最初は驚いちゃいました」
ハートさんも見覚えのある王子を見て顔が笑っている。
やっぱり面識のある人だと安心感が違うよね。
「主犯である第一王子は国王が拘束しており、教会に引き渡す手筈は整っています」
それを聞いたハートさんは満足そうに頷いた。
「分かりました。では、後の事は教会とお願いします。我々はこのまま聖女を連れて一刻も早く帰国させて頂きます」
王子とスージーが私の手を取りギュっと握ってくれる。
少しの間だったけれど、とても仲良くなれたので別れが惜しいな。
「手紙書きます。今度は自分の足で遊びに来ます。本当にありがとうございました」
涙を堪えてお別れを言うと、スージーは涙を流して頷いてくれた。
名残惜しいけれど二人と離れてハートさんの元へ行く。
「ガインさん達が待ってるよ」
テッドさんが馬の上から優しい声でそう言った。
「そうでした。早く帰って元気な顔を見せなくちゃ」
ガインさんは泣き虫だから心配して泣いているかも知れないし、おじいさまはきっと大騒ぎをしているはず。
ハートさんは何も言わずに私の手を引き、馬に乗せてくれた。
「マリー。風魔法を頼めるか?」
私はいつもの様に風魔法で二人を浮かせる。
振り返って笑いかけると、私を支えるハートさんの手に力がこもった。
「もう、離さないからな」
「ふふふ。お願いします」
ハートさんは「行くぞ」とテッドさんに小さく声をかけ王子達に背を向ける。
「お気をつけて!」「王子の事は任せてください!」
「はい! おふたりとも、お元気で!」
見えなくなるまで王子とスージーが満面の笑みでブンブン手を振ってくれていた。
ハートさんが第二の団長さんに色々指示を出しながら、城門を抜けて城壁門を通り抜ける。
すると、とんでもない数の聖騎士が城壁門を取り囲んでいた。
「何ですか、この聖騎士の数は……」
思わず口をついて出る。
それを聞いたハートさんもテッドさんも団長さんまでもが苦笑いをした。
「聖女様。実は私達も驚いたのですよ」と、団長さん。
「私が大げさに手紙を書いてしまって……」と珍しくテッドさんが恥ずかしそうに笑う。
なるほどね。
テッドさんがしでかしたのか。
「ここからは聖騎士達と別行動になる。彼らには罪人の引き渡しが終わるまで監視して貰う」
城を包囲していた聖騎士達が次々と道を開けて両端に整列し、胸に手を当て敬礼をしていった。
「マリー。彼らに笑顔を見せてやってくれ」
その間をゆっくり馬で闊歩しながら笑顔を見せる。
沢山の人達に心配をかけちゃったな。
聖騎士達に見送られて外壁門を出ると、ようやくハートさんとテッドさんと三人になれた。
「野営の方が落ち着けるだろ?」
確かに隣国の教会にお世話になるのは気を使うし気を抜く事も出来なかったかも。
「ふふふ。流石ですね。よくお分かりで」
しばらくすると警戒レベルを知らせる松明の火が次々と消えていき、王都はいつもの夜を取り戻していった。
「行くぞ」
そしていつものように野営の準備に取り掛かる。
いつものようにお風呂に入り夕食を取った。
私の中の日常も少しずつ戻って来る。
「心配したよ。白衣を着たマリーを見つけた時はホッとしたよ」
「ご心配をおかけしました」
テッドさんがやっとゆっくり話が出来ると、私の好きなお茶を入れてくれた。
「何があったか聞いてもいい?」
「ああ、俺も知りたい」
ふたりはお茶を持って私の前に並んで座る。
「そっか。みんな何も知らなかったのですね……」
それから私は研究所にリリーが来た時からハートさんと再会するまでを簡潔に話した。
ふたりは興味深そうに頷きながら聞いている。
特に、スージーとの出会いの件は大好評だった。
「リリーも同じ毒を受けたそうだ。彼女は利用されたみたいだな」
「え? リリーもですか? 無事なのですか?」
嫌いだけど流石に死なれたら嫌だ。
「ああ無事らしい。おかげでリリーから情報が取れたと聞いた」
「良かった。あれでも一応妹ですからね」
私が「ご迷惑をおかけしました」とリリーの事を謝ると、ハートさんは「気にするな」と笑ってくれる。
リリーが無事で本当に良かった。
お父さんやお母さんからこれ以上娘を奪うことはしたくない。
出来れば私の代わりに親孝行してくれるといいんだけどね。
「マリー。帰ったらリリーの処分の話になる。おそらくマリーの意向が通るだろう。どうすべきかこの道中でよく考えておいてくれ。俺もテッドもいつでも相談に乗る」
ハートさんがそう言うと、テッドさんも苦々しい顔で頷く。
「はい」
「だが無罪放免っていう訳にはいかないからな」
そうだよね。
ただの姉妹喧嘩にしては規模が大きくなりすぎちゃったよね。
5歳の時の事は、リリーも子供だったから罪は無いと思っている。
でも今回はお互いに大人だし、ちゃんと話を聞いてみよう。
多分聖女暴行のステータスが残ったらリリーは生きていけない。
本音を言うとリリーの為にそんな責任を背負いたくないけど。
「心配するな。いざとなったら俺が決断してやる」
テーブルを挟んだ向こうから、ハートさんが私の髪に手を伸ばしかけて……寝落ちした。
「ははは。珍しい事もあるのですね」
「ふふふ。相当、気を張っていたからね。救出作戦中はストイックすぎて壊れてしまいそうだったんだ」
テッドさんがハートさんを担ぎ上げると個室の方に連れて行く。
私はさっき書き終えた手紙と共にスージーから受け取った紙を綿毛に付けて、夜空に向けて高く飛ばした。
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