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DK世界に行ったら100倍がんばる!  作者: 独瓈夢
ラストウオー
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11-30 水晶宮譚②

 ブージアおばさんとは―


人魚族なら知らない者のいない、有名な占い師なのです。


歳は百歳を過ぎているとかいう噂で、若いころはさぞ立派であったであろうおっぱいも垂れさがってしまっていますが、それをさりげなく海藻で編んだトップスで隠して貝占いをするのです。


ブージアおばあちゃんの愛称で知られる占いばあさんの占いの的中率は五分五分。

つまり、“当たるも八卦当たらぬも八卦”というものなのですけど、人魚王妃をはじめとする熱烈なファンが多いことでも知られていました。



 セレシア姫さまがブージアおばあちゃんの(ほこら)に行ったのは、12歳になった直後でした。

セレシアは12の誕生日の数日前に生理が来て、“もうオヨメに行ってもいい”体になっていました。


「セレシア、お前も一人前の人魚になったのだ。ワシが婚約者を見つけるから婚約をしてから、15歳になったら結婚しなさい」


ゴリュテイル人魚王である父親は、メリュジーネ王妃とともにセレシア王女に告げました。


「お、お父さま... もう婚約をお決めになるのですか?」

「そうだ。いつまでも冒険をしていては、お前をオヨメにしてくれるものはいなくなる!」

「相手はメツクタイア将軍の息子のラオニよ」


メリュジーネ王妃が、セレシアも顔を見知っている人魚戦士の名前を言いました。

かなりのイケメンで、ナラジャーもイマジャーもよく知っていました。


「ラオニとだったら浮気をしてもいいわ!」


と彼女たちが冗談だか本気だかわからないことを言うほどのイケメンで、若い(人魚)の間ではもすごく人気がある戦士でした。


セレシアも初めて見たときは、ちょっと胸がドキっとしましたが、なぜか心の芯に響くものを感じませんでした。


「お父さま、お母さま、私はブージアおばあちゃんの洞に行きます。そこでおばあちゃんが“ラオニと結婚しなさい”、と言ったらラオニと結婚します」

「ブージア婆さんの洞に?」


とたんにゴリュテイル人魚王が嫌な顔をしました。

人魚王は占いなどあまり信じないタイプでした。


「あなた、いいじゃありませんか。ブージアさまの洞に行って、“ラオニといっしょになりなさい”と言ったら、それでセレシアの結婚問題は解決するのですから...」


メリュジーネ王妃も貝占い婆さんの熱烈なファンなので、セレシアが行くことに賛成します。

人魚王も二人に逆らってまで反対することはしません。

人魚族は平和主義者なので口争いなど好まないのです。



 セレシアは水晶宮からちょっと離れたところにある、ブージアおばあちゃんの洞に行きました。


「おやおや... セレシア王女さまがお一人でいらっしゃるとは。ほほう... なにか深刻なお悩みをお持ちのようですじゃな?」


皺くちゃの顔を笑みでほころばせて、ブージアは岩でできた小さなテーブルのある部屋にセレシアを招き入れ、質素な海綿のクッションの敷かれた古びたサンゴのイスに座らせました。


挿絵(By みてみん)



 ジャラジャラ…


セレシアの前に座ったブージア婆さんは、古びた壺の中に入っていた貝殻を一つかみ取ると、それをテーブルの上に投げました。


岩のテーブルの上には、丸い石板があり、その石板にはさまざまな記号やシルシが刻まれていて、そこにバラまかれた貝の位置によってクライアントが望む占いの結果を見るという方法なのです。


「おや... これは!」


「え、どうしたのですか、ブージアさま?」


「ウムムム...」


ブージアは眉間にしわを寄せて考え込んでしまいました。



「まさか、私は一生結婚しないとか、結婚する前に若死にするとか...」


最後の方は“そんな運命を背負っているのかしら...”と消え入りそうな声で聞く王女。


「どうやらワタシの集中が足りんかったようじゃ。もう一度やるからお待ちなさい」


「は、はぃ...」



 丸い石板の上にあった貝を払い落とすと、ブージア婆さんは真剣な顔をして壺の中に手を入れ、もったいぶって持ち上げ、それをガシャガシャ…と振って


ジャラっと再び石板の上に投げました。


「やはり!...」


ブージアばあさんは、テーブルの上に散らばった貝を凝視しています。



「ブージアさま、私は一生を未婚で過ごすのですか?それとも若くして未亡人に...」


「うんにゃあ、セレシア王妃さまは、人族と結婚すると出ておる!」


「え―――――っ、人族―――――――っ?!」


「そうじゃ。若い... それも、かなり(ここで極端に声を落とし)スケベな人族じゃ!」


「若い人族って... あの、二本足で地上を歩き回るケダモノですかァ?」


「ケダモノではないぞ。我ら人魚族に勝るとも劣らない知能と勇気をもつ種族じゃ!」


「で、でも... 私は水の中でしか生きられません。人族は地上でしか生きられないのでしょう?どうやって...」


「それはワタシにもわからん!わかっておるのはエタナール様だけじゃろ」



セレシアは、もう何が何だかわからなくなりました。


それでも、占いの代金を払おうとすると、 ブージア婆さんは手をふって断りました。


「セレシア姫さま。何も払うことはないですぞ。メリュジーネ王妃さまからは、いつもたくさんもらっておりますからの」



 セレシアは、貝占い婆さんにお礼を言って水晶宮に帰り、すぐに宮殿の中にある礼拝堂に行きました。

そこで人魚の形をしたエタナール様の像を見上げて心から祈りました。


「エタナールさま、エタナールさま。私はブージアおばあちゃんの占いがわかりません。どうして私が人族の男性と結婚するのでしょうか?」


しかし、やさしい表情をしたエタナール様の像は何も答えてくれませんでした。




 その後、仲良しのナラジャーとイマジャーに会って、その話をしたのですが、双子の姉妹もビックリ仰天です。


「えーっ、ウッソー!どうやって人族と暮らすのよ?」


「それに人族は私たち人魚族みたいに精力ゼツリンじゃないのよ。セレシアを満足させれないでしょう?!」


ナラジャーは当然とも言える疑問を口にし、イマジャーはあっちの方が気になるようでセレシアの夫婦生活の心配をしています。


「わ、わたしは、そんなコトを心配してないわ!」


「なに言っているの、セレシア? 満足な夫婦生活のない夫婦の離婚率は99パーセントなのよ?!」


「ええ――っ?そんなに高いの?」


セレシアはそっちの方の知識があまりないので、うまいことイマジャーに騙されています。



「そうよ。セレシアだって、こうされるのが好きでしょう? チュゥゥゥゥ...」


「フガフガ... シュキ(好き)!」


イマジャーがセレシアのかわいい口にチューをすると、ナラジャーが早速ビスチェの上から胸をさわります。


「あ... あ... そこダメ。感じちゃう...」


また二人にメロメロにされる人魚姫さまでした。





 オマゾン川。


 それはまさに大河というにふさわしい雄大な川です。


トロール国中央東部を縦に走るコンロンデス山脈から始まるオマゾン川は、ずーっと7千キロほどクネクネと曲がりながら西へ流れ、オグロス海にそそぎます。


巨大なオマゾン盆地の面積は7百万キロ平方メートルにもなります。

オマゾン川には主な支流だけでも20以上を数え、これらの広大な熱帯大盆地に生息する動物は2百万種とも言われています。


そのうち哺乳類は約500種、爬虫類が約400種、両生類も400種以上。魚類だけで3千種近くいると言われています。そのほかに昆虫は20万種近くいると言われ、これらの膨大な種類の生物や動物たちが、2万種近くの植物と1600種もの木が密生する熱帯地域に生息しているのです。



 そんなオマゾンのなかでも特異的なのが、人魚族と半魚人と有尾族でしょう。

この三種は植物連鎖のトップにあり、人魚族は水中、半魚人は水辺、そして有尾族は陸上を、それぞれ生活圏として棲み分けています。


 半魚人はその名の示すとおり、水中でも地上でも生きることができる知能をもつ生物ですが、肌が乾燥すると死んでしまうため、水辺からあまり遠くへは行きません。有尾族は、部族ごとに村などを作って主に狩りをして暮らしています。

 彼らは狩に吹矢を使います。オマゾンに生えている多くの植物の中から、毒やしびれ薬などを抽出できる草を発見し、それを吹矢に塗って動物や鳥を仕留めるのです。


 有尾族には、カインガー族、マクシー族、グアジャジャラ族、アノマミ族、パタチョン族、ポチグァン族、マルボー族、アイモロ族などの主要部族があり、仲のいい部族もあれば、しょっちゅう戦をしている部族もあります。

 中でも最大の人口をもつカインガー族は、かなり狂暴な部族でほかの部族の嫌われ者でしたが、人数が多いこともあって、文句を言う部族はありませでした。


 有尾族の中には人魚たちと仲のいい部族もあり、アイモロ族などは釣りなどで得た魚をよく食べることもあって、人魚たちとは友好的な関係をもっていました。

 ほかにも、鉄製の武器などを作るマルボー族とも交流があり、人魚たちがもっている鉄製もマルボー族が作ったものを物々交換で川底にある金鉱や宝石などと交換したものなのです。


 平和主義者である人魚族は、彼らに危害を加える者以外とは誰とでも仲良くしましたし、狩や農作物が不作のときは、魚をたくさん入れた網を岸辺に置いたり、おぼれる子どもがいれば助けてあげたりしたので有尾族たちからはとても感謝されていました。


 ただ、カインガー族は違っていました。

それというのも、彼らの部族で時には酋長よりも大きな影響力をもつシャーマンが、酋長に「若い女人魚の肉を食べると長生きできる!」と言ったため、カインガー族たちはわれ先にと人魚狩をはじめたのです。

 そのため、それまでは河辺などに遊びに来ていた若い人魚や子ども人魚がよく犠牲になりましたが、カインガー族の支配地域の河川を避けることで人魚たちの犠牲はほとんどなくなりました。



 狂暴で人口が多いカインガー族。

それに目をつけたのが魔軍でした。ボリゾディス軍団長は兵力の不足を彼らを使うことで補おうと考えたのです。


 そこでカインガー族の大酋長ツピナンバに贈り物を贈呈してカインガー族を仲間に引き入れたのです。

ボリゾディスがツピナンバに贈ったのは、魔軍がトロール国を占領したときに王宮から奪った金銀宝石でした。

 カインガー族の人口は150万人。有尾族の中で最大の人数を誇っていました。

その半数以上が戦闘に参加できる“戦士”でしたから、タダ同然の贈り物で80万人もの戦力を手に入れることができたわけで、これほど安い交渉はないというものです。



「ねえねえ、セレシア聞いた? なんでもバカでかいクジラが河口から上がって来て、イリリ川との支流あたりまで来ているそうよ!」

「そうそう、100頭くらいらしいって川ガメのおじいさんが言っていたわよ!」

ナラジャーとイマジャーが口々に言います。


 三人は今日は二頭のカワイルカにロープをつけて引っ張らせて早さを競う遊びをしていました。

最近は大きなスクリーもあまり見ないし、10センチ以上の歯がぎらりと並ぶ猛魚オマゾン・カマスも、三人の姿を見るとかくれてしまうようになったので狩も面白みがなくなったのです。


「お父さまからきいたわ。河口の方に住む川馬さんたちがおどろいて知らせに来たんですって!」


川馬は人魚たちが馬や牛の代わりに遠出するときや荷物を運ぶときに使っている哺乳類の水棲動物なのです。


「ねえねえ、見に行かない?」


「セレシア、行きましょうよ!あなたのウォータートンネルを使えば、すぐに行って帰って来れるわ!」


「そうよ!どんなでっかいクジラなのか、私たちがちゃんとこの目で見て、お父さまや王様に教えてあげれば、『よく見て来てくれた!』ってよろこばれるわよ?」


“お父さまによろこんでもらえる...”

イマジャーのひとことが、セレシアを決心させました。


 姉たちも全員すでに結婚し、16歳にもなって“ああだこうだ”と口実を作って、両親の勧める結婚相手を断って来たセレシアは少々肩身の狭い思いをしていたのです。

 ここでお父さまがよろこばれるようなニュースを持って来たら、セレシアを見るたびに憂鬱そうな顔をするゴリュテイル王を喜ばせることができるかも知れないと考えたのです。


 セレシアが縁談を断って来たのは、もちろん、貝占いのブージア婆さんの“予言”を信じていたからですが、そのことは、ゴリュテイル王にもメリュジーネ王妃にも言っていません。一笑に付されると知っていたからです。知っているのは仲良しのナラジャーとイマジャーだけでした。



「じゃあ、ウオーター・トンネルを開けるわ!」


カワイルカたちをロープから離してあげ、川底近くまで潜ったセレシアは、片手を前に向けてグルグルと回しました。


するとあら不思議、セレシアの前の水の中にゆるい渦がうまれ、それが次第に大きくなったのです。そして渦を巻く真ん中に直径2メートルほどのトンネルができました。

そして、そのトンネルの向こう側には、イリリ川の少し緑色がかった透きとおった水が見えています。


 三人は尾びれをひらめかしてトンネルの中へ泳いで行きました。

イリリ川流域は、人魚たちと仲のいいパタチョン族のテリトリーなので安全です。

イリリ川は深度が深く、底の方は光が届かないため暗くて見えませんが、クジラたちはあまり深いところまで潜らないので三人とも水面近くを泳いでいました。


ナラジャーとイマジャーが交代でときおり水面から顔を出して、クジラの潮吹きが見えないかを見ます。


それを十数回ほどやったときに、ナラジャーが「ピュー!」と甲高い音を出しました。


「どうしたの? クジラ見つかった?」

「何が見つかったの?」


イマジャーとセレシアが口々に聞いて、ナラジャーの横の水面に顔を出しました。

二人はナラジャーが見ている方を見て、同時に「「「ピピュ―――!」」と甲高い音を出しました。

なんと岸辺に見たこともないような巨大な黒いクジラがズラーっと陸地に頭をくっつけて休んいるではありませんか!


「スゴーイ!」

「こんな大きなクジラ見るの初めて!」

「見て、見て!クジラの上に有尾人がいるわよ?!」


たしかに、クジラの背の上には有尾人たちが何人も何人もいて、忙しそうに動いています。


「もっと近くに行って見ましょうよ!」

「そうよ。パタチョン族の人たちなら仲良しだから問題ないわ!」

「そうね... クジラさんたちも背中にあんなに有尾人を乗せておとなしくしているのだから、私たちが近寄ってもだいじょうぶでしょうね!」


三人の人魚たちは、水面から上半身を出したまま巨大な黒いクジラに近寄って行きました。


しかし、巨大な黒いクジラの上から、吹矢の筒を彼女たちに向けている者たちがいることにまったく気がついていませんでした。




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