11-19 ゾオルSOS①
「ディアボニクスの大群の行き先がほぼ確定しました。ゾオル南東の港湾都市ラガルです!」
通信担当の犬族将校がモモに伝える。
レオがイザベルやアナたちと“慰安デート”をしている間も、勇者国軍の司令部作戦室は休み間もなく、情報の収集を続け、獣人族国、人族連合、鬼人族国、ドワーフ国など同盟国と緊密な連絡をとっていた。
ホワイトドラゴン偵察隊第5班のニムロ少尉》に加えて、獣人族国軍司令部のナーガラジャ司令官の要請に応えて、モモが急遽エルフ国から呼んだ2班のホワイトドラゴン偵察隊の情報を分析した結果、数十万匹と思われるディアボニクスの大群が目指しているのは、獣人族国の南東に位置するラガルの町だと判明した。
「すぐにナーガラジャ司令官に伝えて。ディアボニクスの数はたぶん百万以上だということを!」
「えっ、百万以上? モモ参謀室長、その情報はどこから入ったのですか?」
「さきほど、ヤマト国のノブノブ将軍から、ゾルビデ大臣の情報として魔軍はイーストランジア戦用に百万匹のディアボニクスを用意する計画をもっていたから、おそらく百万匹でしょうという情報が司令部直通通信がはいったのよ!」
「ひぇーっ!ひゃ、百万匹!」
犬族将校はしっぽを足の間に巻いて、通信室に飛んで行った。
「ところで、エルフ国から呼んだ偵察隊の残りは、どうなっているの?」
「はい。4班が獣人族国と魔海の間を重点的に偵察しています。そして4班が鬼人国周辺の偵察に加わりました」
「じゃあ、獣人族国にはエルフ国から来たのを含めて、8班が偵察任務についているということね?」
「はい。当参謀部での予想を獣人族軍のナーガラジャ司令官と鬼人族軍の平等王司令官に伝えましたところ、ゾンド参謀長から、「鬼人族国も魔軍が何かを画策しているかも知れないから、ホワイトドラゴン隊による偵察を強化してほしいとの要請に応えて、8班に増やしました!」
「オムルカル湖南部の魔軍との方のオムルガラ川上流の魔軍の状況はどうなっている?」
「はい。どちらもめだった変化はないようです」
「わかったわ。引き続き、両魔軍軍団の状況に注意するように、偵察隊に伝えて!」
「了解しました!」
第五軍の残存兵力‐オムルカル湖南部および南ゾオル海に近いガイオウラル川周辺に残った魔軍を獣人族と勇者王国軍の共同で行う掃討作戦‐『扇星作戦』の延長だが、それとエディアカル川とオムルガラ川に挟まれたデルタ地帯に防衛ラインを構築している魔軍第五軍を人族連合軍と勇者王国とで前後から攻撃する『簪星作戦』の準備が着々と進められていた。
「ナーガラジャ司令官、勇者王国軍司令部から、ディアボニクスの数はたぶん百万以上であり、目的地は港湾都市ラガルと思われる。現在の飛行速度では、ラガルに到着するのは明朝マルゴマルマル時間5時の予測、との連絡がはいりました!」
「なに、ラガル?!」
「はい。モモ参謀室長は、《これは魔軍が首都ゾオルを攻撃するための陽動作戦の色が濃いので、首都防衛にも十分注意されたし!》、との追加メッセージが加えられております!」
ナーガラジャ司令官の顔つきが変わる。
「百万匹のディアボニクスとは... ブラックドラゴンでさえ、あの凶暴さでわが軍はかなり手こずったというのに... マスティフ将軍、セレンゲティ将軍、明朝までにラガルに送れるあらゆる対空武器を総動員してラガルの防衛に専念してくれ!」
「はっ!」
「ただちに!」
ジャバリュー参謀長の命令で、猛犬将軍のあだ名があるモロシアン・マスティフ将軍とメコンダ・ラガマ・セレンゲティネコ将軍がすぐに席を立ち、麾下の師団に命令を伝えるために作戦司令部を出て行く。
「ディアドコイ将軍(象族将軍)、 ガドゥンガン将軍(人虎将軍)、ガヴァーロ将軍(馬頭将軍)、カーマデーヌ将軍(牛頭将軍)たちは、首都防衛のための師団配置を作戦綱領にしたがって進めてくれたまえ!」
「パォーン!」
「ガウウル!」
「ヒヒーン!」
「ムォーウ!」
猛将たちも、それぞれ麾下の師団へ命令を伝えるために出て行く。
「『扇星 作戦』の方を延期し、部隊をこちらにもどした方がいいのではないかね?」
「いえ、ナーガラジャ司令官、『扇星 作戦』は、続行すべきだと思います。魔軍は大量の飛行輸送船をもっているそうですから、魔軍第五軍の掃討作戦を引き延ばせば、その飛行輸送船を使って北から反撃される可能性があります」
「飛行輸送船とは、魔軍もすごいモノを作ったものだ...」
「それに、勇者王国軍も準備を進めています。いまさら延期などと言ったら、勇者王国側も困るでしょう」
「そうだね。勇者王国軍の参加で第五軍の中枢は、おどろくほど短時間で制圧したのだからね...」
「問題は、魔軍がどれほどの兵力でゾオルを攻撃しようとしているかです」
「首都周辺には、どれくらいの兵力があるのかね?」
「50万ほどです。西部戦線の部隊の一部を呼びもどすことは可能ですが...」
「短時間では無理ということだね?」
「はい。エルフ国と勇者王国が管理しているドコデモゲートを使わせてもらえば、短時間で輸送が可能ですが」
「万一の場合は、その選択肢も考慮しておかなければならんでしょうね。その場合、どれくらいもって来れますか?」
「短期間であれば、200万くらいはできるでしょう」
「問題は、ラガルでどの程度のディアボニクスを退治できるかですね... 退治し損ねたディアボニクスは、すべてこのゾオルに向かって来ると思わなければなりませんね」
「問題はそこです。ブラックドラゴン用の対空弩砲などもありますが、数が限られています。そもそも、ブラックドラゴンは、50匹とか100匹、多くても200匹くらいでしたので、数少ない弩砲でも間に合ったのですが...」
「前代未聞のゾオルの危機ですね... ゼリアンスロゥプ大王と王妃さま、王子さま、王女さまたちには、地下壕に避難していただくしかないですね...」
「一刻も早い方がいいです。それとゾオル市民にも避難勧告をした方がいいですね」
「避難と言っても南はダメですね。残るのは北か西ですか?」
「司令官、西は避けた方がいいです。魔軍が侵攻してくる可能性の高いのは西か南です」
「東は鬼人族国の西の山岳地域に立てこもっている魔軍が、南ゾオル海を渡って来るということはありませんか?」
「それはないでしょう。南ゾオル海は、わが獣人族海軍の精鋭艦隊が警戒していますから、南ゾオル海を渡ろうとする魔軍の艦船は、たとえ丸木舟であろうと見逃されることはありません!」
「では、東海岸も避難エリアにいれましょう」
「早速、伝えさせます」
「そうしてください」
午前4時。
獣人族国の最南端に近い魔海上空。
暗雲が立ち込めた空を一匹のホワイトドラゴンが飛んでいる。
「ラドリエル少尉、空が真っ暗になって来ました。嵐が来るかも知れません!」
「ローリア兵長、任務は重要だから、もう少し続行するわ」
「わかりました」
「一応、このことを司令部に伝えておいた方がいいわね...」
ラドリエル少尉のホワイトドラゴン偵察隊第20班は、勇者王国の要請に応じてエルフ国からゲート魔法で移動し、偵察任務に加わったものだ。
「モモ参謀室長、ホワイトドラゴン偵察隊第20班、および第18班より、獣人族国最南端の東方に雨雲が発生しており、視界が極端に悪くなったと連絡が来ています」
「雨雲が発生?」
「はい。」
「偵察隊第20班と第18班のマソキ‐魔法陣式映像音声送受信器‐の映像をこちらの画面に映すように通信室に言って!」
「はっ!」
すぐに司令部作戦室のモニターに、偵察隊第20班と第18班からの映像が映し出される。
たしかに空一面に真っ黒い雲がたちこめている。
月齢21日なので、雲さえなければけっこう明るいはずだが、月も星も見えないので、どこからが空でどこからが海なのかさえわからないほどだ。
ただ、雨が降ってないので、雨雲の範囲外で雲に覆われてところの水平線がわずかに明るく見えているので、ようやく平行感覚がわかるくらいだ。
「偵察隊第5班のニムロ少尉の方は、夜空でもディアボニクスの大群が見えるほどなのに、第20班と第18班の方はほぼ視界ゼロ?」
「参謀室長、西鬼海に近い、南ゾオル海南部周辺を偵察中の偵察隊第12班からは雲一つない星空と報告が来ていました。」
「ラドリエル少尉の偵察隊第20班と第18班のレゴル少尉に、雲の中に突っ込んで、高度を変えながらよく偵察されるように指示して!」
「えっ、雲の中を?だいじょうぶですか?」
「だいじょうぶよ。羅針儀、水平器と高度計を装備しているから問題はないはずよ」
「わかりました。すぐ伝えます!」
「ラドリエル少尉、司令部から雲の中に突っ込んで調べてくれと言って来ています!」
「了解! ローリア兵長、周囲に注意しながら、雲の中を上昇して!」
「わかりました!」
「レゴル少尉、司令部のモモ参謀長から、雲の中の様子を調べるようにとの指示が来ています!」
「わかった。マブルン兵長、雲の中に突っ込もう。それからゆるやかに上昇だ!」
「了解!」
ものの20分もしないうちに、ラドリエル少尉の偵察隊第20班は、雨雲の中を飛ぶおびただしい魔軍の飛行輸送船団を発見した!
魔軍飛行巡洋艦艦隊
ゴゴゴゴゴゴゴ...…
と腹に響くような低いエンジン音をたてて飛ぶ無数の巨大な飛行輸送船。
その巨大な黒い陰は、暗闇の中でお互いの位置を確認するためか、赤色のランプを船の中ほどと後部につけており、先頭にはひときわ明るい青白いランプをつけている。
それらの巨大な飛行船が隊列を組んでランプを点灯して飛行するさまは華麗でさえあった。
ラドリエル少尉は一瞬、その美しさに見とれてしまったほどだった。
ハッと我に返り、“自分はこれを探していたのだ!”と思い出した。
「こ、これはなに? これが魔軍の飛行輸送船団?!」
ラドリエル少尉が叫ぶのと、魔軍の飛行輸送船を護衛していた飛行高速戦闘船が数機、ホワイトドラゴンの方に向かって来るのがほぼ同時だった。
「ローリア兵長、ステルス魔法を張って、加速、急上昇させて!」
「了解!」
操縦士のローリアがステルス魔法でホワイトドラゴンの姿を消し、加速するとともに急上昇をはじめた。
たった今、ホワイトドラゴンが飛んでいたところを、数条の機銃弾が通り過ぎる。
間一髪だった。
「モモ参謀室長、ラドリエル少尉の偵察隊第20班から魔軍の飛行輸送船団発見の連絡がありました!魔軍飛行船団は北北東に向かっているとのことです!」
「しばらく注意しながら追跡するように伝えて!すぐにこのことを獣人族国軍のナーガラジャ司令官に連絡!」
「はっ!」
「ナーガラジャ司令官、モモ参謀室長からの緊急連絡です!《魔軍飛行輸送船団確認さるる。針路はゾオル。飛行輸送船の数は500隻以上》です!」
「来たか!モモ参謀室長に、もう少し正確な針路を割り出すようにたのんでくれたまえ!」
「それと、ラガルの警備部隊からの連絡では、ディアボニクスの大群が視認できたとのことです!」
「マソテレビに映せないか?」
「はっ、すぐにこちらのマソテレビにラガルの警備部隊からの映像を送ります!」
夜が白々と開けはじめたラガルの南東の空に、雲霞のように空を暗くして迫りつつあるディアボニクスの大群がモニターに映った。




