11-14 白龍王妃の怒り③
《獣人族軍司令部、獣人族軍司令部、こちらはホワイトドラゴン偵察隊第5班のニムロ!》
《ニムロ少尉、こちら獣人族軍司令部です。どうぞ!》
《魔海峡上空に、信じられないほど大群のディアボニクスを発見。信じられないほど大群のディアボニクスを発見。獣人族国へ向かっています。獣人族国へ向かっています!》
《ニムロ少尉、信じられないほど大群とはどれくらいの数ですか?具体的な数を伝えられたし!》
《星空が見えないくらい飛んでいます。これは数十万はいると思います!》
《星が見えないくらい... りょ、了解!引き続きどの方向に向かっているか偵察を続けてください》
獣人族軍司令部の通信担当者もおどろいている。
連絡しながら、エルフのニムロ少尉は身震いをした。
ニムロ自身、ディアボニクスという魔獣は見たことがない。
イーストランジアのヤマト国のクシャミガ原というところで行われた戦いで、
魔軍は千匹ものディアボニクスを投入したと聞いている。
だが、新しいエルフの女王となったアイミさまが、またたく間に電撃魔法で殲滅させたと聞く。
“だけど、クシャミガ原では千匹だったと聞いた。これは数万か数十万だ。
またアイミさまを呼んでやっつけてもらうんだろうか...?”
ニムロがエルフ軍でディアボニクスについて習ったことは、
【ディアボニクス】:〈魔獣種〉全長2.5~3mほどの小型竜。それほど早くないが
飛行能力を持ち、地上を時速40キロで走る。高い知能をもち、集団で襲う危険な魔獣。鋭い爪が武器。
という、極めて危険な魔獣だった。
「アマリエ兵長、このまましばらくディアボニクスの大群のあとを追うぞ!」
ニムロ少尉がホワイトドラゴンを操縦しているエルフ女兵士に伝える。
「はい。わかりました!」
「ディアボニクスから、こちらは見えないんだな?」
ギャギャギャギャ―――――!…
ギャギャギャギャギャ―――――!…
「ステルス魔法をかけていますし、魔獣の群れより上空を飛んでいるのでだいじょうぶです!」
はるか下方では、ディアボニクスの大群が上空にも聞こえるほどけたましい鳴き声をあげながら獣人族国を目指して飛んでいる。
午前零時過ぎ、首都ゾオル。
獣人族軍司令部の将官用休憩室で休んでいたジャバリュー将軍は、突然、当直の将校に起こされた。
「どうした?」
ベッドから半身を起こした豹顔将軍が当直将校である犬族の大尉に聞く。
「はっ!ホワイトドラゴン偵察隊が、魔海峡をわが国に向かって飛んでいるディアボニクスとかいう魔獣の大群を発見したと連絡して来ました」
「なに、ディアボニクスの大群? して、その数は?」
「数万、数十万と明確ではありませんが、とにかく星空が見えないほどの大群だそうです」
「ナーガラジャ司令官には、もう知らせたのか?」
「はい。もうお知らせしていますので、作戦会議室に向かわれていると思います」
「わかった。私も着替えてすぐに行く!」
「はっ! 作戦会議室でお待ちしております」
3年前に中央大陸の同盟国軍‐人族連合軍、鬼人族軍、それに獣人族国軍が開始した『ミィテラの暁作戦』。
当初は同盟国諸国の軍の快進撃が続いたが、魔軍がそれぞれ戦略的後退をし、戦車壕などを張り巡らした強固な地下陣地を構築したことから、戦いは膠着状態に陥った。
しかし、勇者王国が戦いに参加したことから、状況は一変しはじめた。
勇者王国軍が立案した『芒星作戦』により、あっけないほどの短期間で魔軍第5軍を制圧してしまった。
半年前に、あらたに獣人族国軍総司令官に任命されたナーガラジャ司令官以下、総司令部の将軍たちは勇者王国軍参謀部の優秀さに唖然としたのだった。
獣人族国軍では、それまで各将軍の出す案や作戦をゼリアンスロゥプ大王が将軍たちの意見を聞きながら評価し、最終的な決定を下していたのだが、その昔、“偉大な戦士であった”ゼリアンスロゥプ大王は、必ずしも“名参謀”ではなかったため、大王の作戦ミスで獣人族軍はときたま大きな損失を出すことがあった。
ゼリアンスロゥプ大王もそのことを知っていたため、半年前にジャバリュー将軍やほかの将軍たちと相談した上で、リザードマン将軍であるナーガラジャを総司令官にしたのだった。
そして、その時、それまでは大王の側近将軍であったジャバリュー将軍を参謀長に任命したのだった。
獣人族国軍では、『芒星作戦』での大勝利についで、オムルカル湖南部の魔軍第五軍を包囲殲滅する『扇星 作戦』の発動の準備にとりかかっていたため、ジャバリュー将軍は家に帰るひまもなかった‐帰ってもネコ族の年寄りのお手伝いさんがいるだけなのだが。
奥さんのフィラさんは勇者王国で保育園の園長なので、ジャバリュー将軍は週末通い夫なのだ。
というわけで、ジャバリュー将軍は、ずっと総司令部に泊まり込みだった。
作戦指令室には、すでにナーガラジャ司令官やほかの将軍も来ていた。
みんな魔軍第五軍との戦いが迫っているので、司令部に泊まり込んでいるのだ。
「おう、ジャバリュー将軍、お休みのところ申し訳ない」
豹顔将軍より五つほど年上の司令官が、懇ろに声をかける。
ナーガラジャが総司令官に推挙された理由の一つが、彼の性格の円満さにあった。
もちろん、実戦の経験が豊富なことも選ばれた理由だが。
「いえ、とんでもありません。 ディアボニクスの大群が獣人族国に向かって来ているそうですね?」
「うむ。正確な数はわからないが、かなりの大群らしい...」
「それで、どこへ向かっているか、正確な進路はわかっているのですか?」
「そこまではまだわかってない。ただ、ゾオルの方向ではないか、と推測している」
「司令官、早く勇者王国と連絡をとって、ホワイトドラゴン偵察隊をせめて2班ほど出してもらって、どこへ向かっているのかをコンパスを使って調べさせなければ!」
「...? そうか。進路がはっきりわかれば防衛体制も組めるからな!」
獣人族国軍総司令部からの要請に応えて、モモ参謀室長は、すぐに鬼人族国西部が担当のホワイトドラゴン偵察隊とゾオル周辺偵察中のホワイトドラゴンに、ニムロ少尉の偵察隊第5班と連絡をとり、位置を確認した後に全速で魔海峡に飛んでディアボニクスの大群の針路を調べるように指示をした。
それと同時に、エルフ国に連絡して、エルフ国にいる15匹のホワイトドラゴンのうち、10匹を至急、中央大陸に送るように依頼した。
モモは、これから中央大陸で魔軍と同盟国軍の、おたがいが、おたがいの裏をかくような戦略や作戦がくり広げられると確信していたのだ。
“情報を制する者は、戦いを制する”とレオからいつか聞いた格言にしたがって、ホワイトドラゴン偵察隊の数を増やして、魔軍の戦略・作戦の機先を制するつもりだった。
「魔軍がディアボニクスの大群を獣人族国に向けて送り出した...?
モモ参謀室長、これはたぶん魔軍の陽動作戦の匂いがしますね」
「私もそう思います」
バルキュス司令官とイーデルが口々に言う。
「そうね。ジーマラ・ゴカラ演習場にあった、数百もの飛行輸送船が一隻もないという事実を見ても、これはかなり大がかりな作戦を隠蔽するための陽動よね!」
「とにかく、姉ソフィアから聞いた話では、ディアボニクスというのは、たいへん残虐で知能の高い魔獣だということです。それが数万、数十万も襲って来るとなると、これは軍だけでなく、民間人にもかなりの被害がでることが予想されます」
「すでに獣人族国軍との共同作戦『扇星 作戦』も発動直前で、わが軍も獣人族国軍も部隊の展開に備えているし、人族連合軍との共同作戦『簪星作戦』の準備も進んでいるわ。これは、たいへんになるわよ...」
* * *
レオたちは魔軍防衛軍が送りこんだ新たな部隊を制圧しつつあった。
アナが白龍化して快速飛行戦闘船『ラーヴァ』の編隊に向かって飛んで行った時、『ラーヴァ』の編隊は二つに分かれて、一編隊の10機はアナに機関銃を撃ち始めた。
アナは身体を左右上下にひねって銃弾をかわす。しかし、白龍化したアナの体の鱗は鋼に優る硬さをもっているため、銃弾が当たっても何ともないのだが、素早く動き回れると言うことを魔軍の飛行士たちに見せつけているのだ。
アナは『ラーヴァ』とすれ違いざま、そのカミソリのような羽でその機体を切り裂いた。
墜落していく『ラーヴァ』の搭乗員が驚愕した顔を見せながら機体は落ちていく。
真正面から銃口から火を噴きながら迫ってくる『ラーヴァ』に対しては、身軽に右旋回でかわすと、凄まじい高温のヒートブレスを口から吐き出して『ラーヴァ』を火だるまにする。
『ラーヴァ』は燃料タンクに引火して爆発して四散する。
アナが『ラーヴァ』の編隊と戦っているころ、別の編隊はレオたちめがけて小型飛翔弾を一斉に発射した。
『ラーヴァ』一機あたり20発の小型飛翔弾を積んでおり、各機が10発ずつ発射したので合計100発の小型飛翔弾が白い煙を引きながらレオたちに襲いかかる。
ババババババ――――――――ン……
しかし、シーノのバリアーですべてレオたちに当たる前に爆発。
即座にイザベルとエマがガーンデーヴァの弓とシェキナーの弓で反撃する。
爆発の火炎と煙がおさまったとき、『ラーヴァ』の編隊は全機撃墜されていた。
アナが戦っていた『ラーヴァ』変態も全機すべて撃墜されてしまった。
リョースアールヴたちより遅れてやって来た勇猛隊の戦車隊は、ヤンガー少佐の率いるDY-3号戦車隊が装甲の厚さを生かして、装甲の薄い魔軍の突撃戦車『ヴャガラ』を次々と破壊していた。
仙人隊もリョースアールヴたちに負けまいと、ニューエルフたちがポカンと口を開けてみているような凄技の魔法を使って魔軍部隊をやっつけている。
シーノのバリアーに守られて、ようやくランやイザベルたちもレオといっしょにアイミたちと合流することができた。
「よし、みんな無事だな? 敵の部隊も殲滅できたようだし、厭忌の者もみんな倒したようだ。じゃあ、そろそろ引き上げるぞ!」
レオが引き時だと思って声をかけた。
しかし、その時、白龍王妃が片手をあげて“待った”をかけた。
「レオさんたちは引き上げてもよろしいですけど、私は魔王ルゾードに、孫娘キュリアナを可愛がってくれた“お礼”をして帰らないと気がすまないのよ!」
「は... はぁ... そうですか?」
「白龍族に危害を加えたことを後悔させてあげるわ!相手がだれであれ、白龍族は、決してそのような仕打ちに対して黙ってはないということを思い知らせてあげるのです!」
「............」
レオも何も言えない。
「キュリアナは、いずれプラキルスタの跡を継ぎ、ゴッドリュー158世となる者です。大事な跡継ぎをこんな目に遭わせてくれたのですから、こちらもちゃんとそれ相応のことを返さなければならないのです!」
「は... はぁ... わかりました」
アナもランも、石化したスケさんもカクさんも、アレクやロッキラ、ロレス、ペタラたちリョースアールヴももとにもどった。
“アシュマナーダさんは、アーナンダさんみたいに過去の時間からみんなを現在にもって来たのだろうな...” と考えていた。
アーナンダは、アズマ山麓を消し飛ばすほどの大激戦が│靉靆の者たちと行われ、アズマ山麓の一部が消滅した時、アーナンダは過去からアズマ山麓を切り取ってもって来て復元したのだ。それと同じことを白龍妃はやったに違いない。
ふつうであれば、アナもランも生き返り‐実際には生き返ったわけではないのだが‐、ボディーガード龍王たちももとにもどったのだから、これでいいと思うのだが、しかし、白龍妃は、魔王が最愛の孫であり、次の白龍族の長になるアナを“殺した”ことが許せないらしい。
“待てよ... アナが次期白龍王ということは... ゲゲゲのキタロウ、オレとの子どもが次の次の期白龍王になるのか?!”
レオの心を読んだのだろう、白龍妃はレオを見てニンマリと笑った。
ババア――――ッ!
バ――ッ!
ババ――――アっ!
バババ――――アっ!
白龍妃は、全長50メートルほどの巨大な白龍となって空に舞い上がった。
ついで10メートルほどのアナが羽ばたいて舞い上がる。
ズミレンママは、30メートルほどの白龍になって飛んだ。
そしてアズリンパパは、10メートルほどの麒人になって三人(匹?)の白龍族のあとを追う。
スケさんとカクさんがついで飛び立つ。
ボディーガード龍王たちは、それぞれ40メートルを超す大きさだ。
こちらはアヌッタラ宮の白龍王。
広間でスクリーン投影のようなもので、魔大陸で起こっていることを見ていた白龍王は、白龍王妃たちが、魔王の宮殿アヴァダータ・プラサーダ城を目指して飛んで行ったのを見て
「アーナンダ!」
もっとも信頼できる部下を呼んだ。
すぐにアーナンダが現われる。
「はい。白龍王さま。白龍妃さまたちをお守りせよと言われるのでしょう?」
「そうだ。女どもは、頭に血がのぼったら何をしでかすかわからん。行って、守ってやってほしい!」
「かしこまりました」
返事とともにアーナンダの姿は消えていた。
前方を飛ぶ白龍族5匹(人?)と麒人のあとをアールで追っているのは、レオとアイミとアウロラとシーノ。ランたちにはすでに勇者王国へ帰らせた。リョースアールヴたちも勇猛隊もすでにゲートで引き上げている。
演習場だったところには、おびただしい数の戦車の残骸と、魔軍兵士たちの残した武器や軍服、ヘルメットなどとともに、数千の魔石が散らばっていた。
すべて消滅した親衛隊髑髏部隊や魔軍防衛隊の兵士たちが残した魔石だ。
「白龍の飛ぶ速度は、それほど早くないな。せいぜい時速7、800キロというところだ」
ホワイトドラゴンは、高速飛行能力があり、魔法飛行スキルを使うと超音速で飛べるので白龍たちのあとを追うのにまったく問題はない。
レオが白龍妃たちを追うことを決めたのは、魔王にどんな“お礼”をするのかを見るためだ。
「たいへんです!親衛隊の髑髏部隊も魔軍防衛隊も全滅させられました!
敵はあらたな増援部隊を送りこんで来たようで、最後に送って来られた連絡では、大きな白い竜が6匹、ルーパダトゥに向かっているとのことでした!」
魔軍総司令部では、連絡将校が先ほどもたらした報告で動揺が走っていた。
「そんなバカな... 一個連隊が全滅したと?」
グヴァシル将軍― 防衛軍司令官― が唖然としている。
「親衛隊髑髏部隊も戦車隊も全滅か... それに大きな白い竜がこちらに向かっている? それはなんだ、エルフ魔術師の擬態魔法か?」
グロスヴェル参謀副長が誰にともなく聞く。
「それは白龍だ...」
魔王が突然、作戦司令部にあらわれて言った。
ガタガタガタガタッ
全員が椅子から立ち上がる。
「白龍...?」
「ミィテラの世界の守護者と呼ばれる種族だ。
我々とは対極の存在ともいえるものだ」
「対極の存在?!」
「では、かなりの能力をもっている種族ですね...?」
「しかし、なぜ、その白龍が魔都へ向かっているのでしょうか?」
参謀たちや将軍たちが魔王に聞く。
「たぶん、アニュイパランさまか厭忌の者が、ジーマラ・ゴカラ演習場での戦いで、白龍族の重要な誰かを殺したのでしょう...」
アサグが深刻な顔で言う。
「おそらくアサグの言っている通りだ。白龍族が、なんの理由もなしに魔都に来るわけはない」
「グヴァシル将軍、至急、白龍たちを迎え撃つ準備を!
そして、ジーマラ・ゴカラ演習場からルーパダトゥにいたるまでの町に連絡して、通過時間や針路の確認をするように!」
「わかりました。どれだけ防げるかわかりませんが、『ラーヴァ』― 快速飛行戦闘船―にも迎撃させます」
2時間後、白龍たちはルーパダトゥの上空に姿を現した。
しかし、『ラーヴァ』も対空機銃も、飛翔弾もまったく通用しなかった。
白龍たちは、全長50メートルほどの巨大な白龍を先頭に、すぐ後ろに10メートルほどの小さな白龍、その両横に40メートルを超す大きさの白龍が並び、その後ろに30メートルの白龍と、明らかに白龍ではない別種の龍が飛んでいた。
上空で待機していた『ラーヴァ』が機銃で攻撃をしようとした瞬間、突然、それらの白龍の上に全長が100メートル近い巨大な白龍が現われ、下を飛ぶ白龍たちの群れを守るバリアーを張ったのだ。
6匹の巨大な白い竜が現われたとき、ルーパダトゥの魔族たちはパニックになったが、それらの白い竜の倍の大きさの竜が突然現れたとき、魔族市民たちは大混乱に陥った。
魔族市民たちは、我先に魔都から逃げ出そうとし、魔族の子どもたちは泣き叫んだ。
7匹の白龍たちは悠々とルーパダトゥの上を飛んで、魔王の宮殿アヴァダータ・プラサーダ城の真上に来ると、先頭を飛んでいた白龍が大魔王殿めがけてブレーズボールを連続して口から吐き出した。
白龍王妃がブレーズボールを大魔王殿めがけて吐き出したのを見て、アナも高温のヒートブレスを吐き出した。ズミレンママは、凄まじいワールウィンドを巻き散らかす。
大魔王殿は数回、大爆発を起こし、ついで火災に見舞われ、そして 破壊風で破壊されつくした。
そして、すべてが焼きつくされ、
吹き飛ばされた大魔王殿の跡地には...
一体の石像が残こされていた。
いや、正しくは置かれていたと言うべきだろう。
その恐怖に歪んだ表情の石像は、魔王の恋人
アニュイパランのものだった。




