11-12 白龍王妃の怒り①
ジーマラ・ゴカラ演習場。
その演習場から、それほど離れてない荒れた平野の真っただ中。
そこに怒涛の如く押し寄せる魔軍防衛隊の戦車隊と騎兵隊と『踊り子星作戦』チームの生き残り、イザベル、ミユ、エマ、それにアレクとミルラたち、|リョースアールヴ《光のエルフが壮絶な戦いをしていた。いや、絶望的な戦いと言った方がいい。
ターブとロベオは、すでに倒されていた。
防御バリアーを張っているミルラの魔素残量が残り少なくなり、バリアーの効果に強弱が出はじめ、弱くなったとき魔軍騎兵隊の銃で撃たれたのだ。
イザベルもすでに右足を撃たれ、エマも肩に銃弾がかすって出血しており、アレクとミルラもあちこちに傷を負っていた。
ただ、ミユだけが四つ足になって高速で移動しながら、爆裂弾や煙幕弾を敵に投げながら、死に物狂いで戦っていたが、爆裂弾も煙幕弾ももう底をついている。
(マリステラ――!レオ――!)
(ジオ――ン!マユラ――!助けにいけなくてごめ――ん!)
(シーノちゃ――ん!お母さま――!)
イザベルが娘の名前を叫び、レオの名前を呼ぶ。
ミユが二人の子どもの名前を叫び、助けに行けないことを謝る。
エマが仲の良かったシーノの名前を呼び、母親の名前を呼ぶ。
(カティア――!幸せに―――――!)
(お母さ―ん、お父さ――ん!)
アレクが愛する新婚の妻の名前を呼び、ミルラが両親の名前を呼ぶ。
三台の魔軍戦車が、イザベルたちを踏み潰そうと迫って来た。
「もう、魔素がありません!ごめんなさーい!」
ミルラが泣きながらみんなに謝る。
イザベルも観念して横座りで座り込む。
そしてエマとミルラがイザベルに抱き合い、三人の前にミユとアレクがそれぞれ、
剣とメイスを構えてイザベルたちをかばうように立つ。
ガラガラガラ…
キャタピラの音が大きくなり、銃眼から魔軍兵士の赤い目が見えるよまでに戦車が迫った。
ガ――ッ!
戦車の下敷きになる!
メイもアレクも目をつぶった。
ゴ――ン!
ゴゴ――ン!
金属が激しくぶっつかる音がした…
“?... 私の体、そんなに硬かった?”
“この音は、僕の鎧...? いや、僕は鎧なんか着てないけど?”
ミユとアレクがそっと目を開くと、目の前には金色に輝くホタル、いや、シーノがいた。
三台の魔軍戦車は、シーノのバリアーに突進を阻まれて、ガラガラとキャタピラーを空回りさせている。
次の瞬間、戦車の装甲は切り裂かれ、切断の衝撃で魔軍戦車はふっ飛んで行った。
二台目、三台目も同じように切り裂かれて横転してしまった。
(おそくなってスマン!)
念話の声にふり返ると、フラガラッハの剣をもってにっこりと白い歯を見せて笑うがいた。
「レオー! おっそ――い!」
「レオお兄ちゃ――ん! ワ――ン!」
「レオさま――!」
ひしっとレオに抱き着く赤髪の美女イザベル。
抱き着いて泣きだす茶髪の美少女エマ。
レオの胸にすがりついて泣く豹族の戦士ミユ。
エルフのミルラも後からゆたかな胸を押しつけてワンワン泣いている。
アレクも同じようにレオに抱きつきたかったが止めた。
彼は男なので。
「ベンケイさんも来てくれたのですか?」
「私も来ました!」
オリヴィアが聖剣シグルズを手にもって言う。
「アレク...」
感動的なシーンを見ていたベンケイがアレクに呼びかける。
「な、なんですか、ベンケイさん?」
「お、おまえ... 抱きつきたかったら、わたしに抱きついてもいいんだぞ?」
「いえ、遠慮しておきます。どこで誰がマソキで映しているかわからないので...」
「そ、そうか。残念だな...」
「えっ?」
「いや、こちらの話だ。さあ、レオ、いつまでもイザベルやミユとイチャイチャやってないで、暴れようぜ!」
「お、おう!」
そのレオの周囲にいくつかのゲートが開き、リョースアールヴたちが、次々と現われた。防御バリアーを張るリョースアールヴを先頭にして現われた彼らは、 まず最初にザパータの者たちが張っていたバリアーを中和魔法で無効化した。
敵のバリアーが無効化されると、次の瞬間、後ろにいた強力な攻撃魔法を使える者たちが、大火球、大竜巻、大氷雨などを発動させて魔軍部隊を蹴散らしはじめた。
ひときわ大きなゲートがレオたちの上に開き、なんとホワイトドラゴンが10匹飛んで来た。
「おーい、レオ!遅れてすまん!仙人隊参上じゃ!」
「レオさん、アイミたちはどこだい?」
ホワイトドラゴンの上に乗ったオジロンじいさんやアイホおばあちゃんが大声を出している。
「仙人隊のみなさん、来てくれたんですか?ここは、もうリョースアールヴたちだけで十分だと思いますけど...」
そう言いながら、レオはニューエルフであるミッチェラやアルウェンやイドリルたちの、凄まじい魔法攻撃を横目で見ていた。
「ブロクとマルラがお風呂でイチャイチャしとってな。みんなが揃うのにひまどってしもうたんじゃ!」
「なにを言っているんだい、オジロン? おまえさんこそ、首にまくスカーフを選ぶのに30分もかかったとアイホが言っとたよ!」
「そんなにかかっとらん!28分かかっただけじゃ。アイホこそ、アイミに“おばあちゃん、最近、流行おくれのリップスティックばかり使っているわね”と言われたもんじゃから、リップスティックを選ぶのに20分もかかったくせに...」
「おや、オジロンは自分の恋人が美しくお化粧をするのがイヤなのかい?」
「いや、それは大歓迎じゃ!」
「おノロケ話はそれくらいにしないと、敵が残らないよ!」
「よっしゃー! では、皆のもの、かかれー!」
「「「「「「「「「おおーーーう!」」」」」」」」
* * *
一方、イザベルたちがレオとイチャイチャしている場所から、3キロほど離れたところにある小高い丘。ここはつい1時間ほど前、ランたちが魔軍の演習場を偵察していて、アニュイパランとザパータの者ズァライラの奇襲でアナとランが殺され、アナのボディーガード龍王‐スケさんとカクさん、それにタンヤ、スージ、ドロレス、ペタラたちリョースアールヴが石化されたところだ。
そこに現れたのは、ブルーの、裾に華麗な刺繍がはいったロングドレスを着た白龍妃アシュマナーダとズミレンママとアズリンパパ。
「おお、キリュアナ!可哀そうに、こんな姿になって!...」
「キリュアナ!」
「キュ...キュリアナ... なんという姿に!」
地面に転がっている血だらけのアナの頭を抱きしめてズミレンママが嘆く。
アズリンパパも、アナの頭をなでながら涙を流している。
「わたしの大事なキリュアナをこんな目にして...」
白龍王妃アシュマナーダがキッと魔軍基地の方を睨んで言う。
「ズミレン、アズリューズ、 キリュアナの頭をそこに置きなさい!」
「はい、お母さま」
「はい」
白龍王妃は少し息を整えると、両手を前に出して広げ、何かを招き寄せるようなしぐさをした。
アシュマナーダの全身から、凄まじいオーラが出はじめた。
オーラの輝きがひときわ強くなったと思った直後、異変が起きた。
ザパータの者ズァライラによって、分断されたアナとランの頭や四肢とその周囲にあった血に染まった草や土、そして驚愕の顔とポーズのままで石化したスケさん、カクさんとタンヤたちリョースアールヴの“石像”が消滅した。
血に染まった草や地面も消え、以前通りの乾燥した草と地面が広がっていた。
そして―
そこにいた者たちが元通りの姿でいた。
スケさんとカクさんは、それぞれ攻撃と防御バリアーを張ろうとして直前でやめた。
「?」
「!」
「カクさん、スケさん!」
アナが叫び、やはり「?!」とやはり驚いた顔で立ち止まった。
「アナちゃん?...」
ランが“何か異常が起こった”と感じてふり返った。
「キャ――…?」
「いや――!…?」
ペタラとドロレスが悲鳴をあげかけてやめた。
タンヤとスージが呆然として、電波探知機レーダーと熱源探知機の前にいる。
「は、白龍王妃さま?!」
「白龍王妃さま?」
二人のボディーガード龍王は、アシュマナーダとその後にいるズミレンママとアズリンパパを見て何が起こったか理解したようだ。
「おばあちゃん?ママ、パパ? どうしたの?」
アナが突然現れた三人の姿を見てビックリしている。
「ヴァースキ。オクタゴン・ハウスに飛んで、やっかい者を始末しなさい」
「はっ、ただちに!」
スケさんは、白龍王妃の命令を聞いて、即座に消えた。
「 白龍王妃さま、申し訳ありません。私たちがついていながら...」
カクさんが土下座してアシュマナーダに謝っている。
「タクシャカ、何も謝ることはありません。魔族にもしたたかな者がいるということです」
「ママ、パパ、どうしたの?どうして、おばあちゃんが来たの?私の結婚式にも来てくれなかったのに...」
状況がよくわからないアナが少々ふくれて言う。
「アナ... あなたは、魔族の魔術師に殺されたのよ」
「えっ、私が殺された... 冗談はやめて、ママ!」
しかし、アナはズミレンママとアズリンパパとおばあちゃんが、真剣な顔をしているのを見て、彼らが冗談を言っているのではないということを知った。
ズミレンママが、アナやランたちに、何が起こったかを説明していると、彼らの近くの空間に揺らぎが生じ、開いた通路の向こうに見えるオクタゴン・ハウスのアイミの部屋からアイミとアウロラがやって来た。
「アシュマナーダさま、ズミレンさまにアズリンさま!」
「アシュマナーダさま。さきほどは、スケさんを寄こしていただき、ありがとうございました!」
* * *
「出でよ... 精霊の世界の者どもよ... 出でて、この宮殿を燃えつくすがいい...」
ザパータの者、ウライザが詠唱をはじめた時に突然、一人の長身の男が出現した。
「おっと、それは危ないですね」
黄色いコスチュームに、同じ色のプレート、とっぺんの尖ったヘルム、腰には美しい装飾がほどこされている長剣をさげたヴァースキこと、スケさんだった。
「あ、あなたはスケさん?」
アイフィママが叫んだ。
「おや、アイフィさま。ご自分のお孫さんだけでなく、ほかの王妃さまのお孫さんのお守りまでしなければならないとは大変ですね...」
ニッコリと爽やかに笑って言うスケさん。
「キサマは...」
「九頭龍王ヴァースキです」
言い終わるや、スケさんはパッとザパータの者ウライザを払うような仕草をした。
次の瞬間、ウライザは霧散してしまった。
コロンと床に黒い魔石が落ちて転がった。
その直後、部屋の空間に揺らぎが生じ、
開いた通路の向こうに見える夕焼けの空から、
アイミとアウロラが飛行魔法で部屋に飛びこんで来た。
「ママ――!」
「ママ――! こわい まほうつかいがいたんだよー!」
「バブバブ ママ! きけん おわり あぶない もう いないヨ」
アイとミオンがアイミに抱きついて、口々に今起こったことを話す。
ミアはアイフィおばあちゃんに抱かれたままでママに報告をしている。
「アイミおばちゃん、スケさんが助けに来てくれたのよ!」
マリステラがスケさんに抱きつきながら言う。
「アイミ、ロラさん、よく来てくれたわね!スケさんが来なかったら、どうなっていたかわからないわ」アイフィママがほっとしたように言う。
「アイミさま、レンちゃんとミオンちゃんとマリステラちゃんが、一生懸命にみんなを守ったんですよ!」ネコ族メイドのミコさんが、子どもたちの活躍を報告する。
「それにアイがね、金縛り魔法を使って魔術師を動けなくしてね!」
「えっ、金縛り魔法を使ったの?私でさえ使えないのに?!」
アイミが目を丸くしている。
「お話し中、すみませんけど、アイミさんとアウロラさんは早く魔大陸に行かれた方がいいですよ。白龍王妃さまがお待ちです」
スケさんがマリステラに肩車をしてやりながら言った。
* * *
オクタゴン・ハウスから魔大陸にゲート魔法でもどって来たアイミとアウロラ。
「アシュマナーダさま。先ほどはスケさんを子どもたちを守るために寄こしていただき、ありがとうございました!」
アイミが白龍王妃にお礼を言う。
「いえいえ、お礼なんていりませんよ。あなたたちには、いつも キリュアナがお世話になっていますからね。ここに来るのを急がせたのは、キリュアナとランさんを切り刻んだザパータの者ズァライラとヴァースキやタクシャカ、それにエルフ魔術師たちを石に変えたメデューサの盾を使うアニュイパランに“お礼”をさせてあげようと思ったのですよ」
「わかりました。本来であれば、アナさんとランさんにザパータの者への“お礼”をしていただきたいのですが、アナさんはともかく、ランさんにはちょと手に負えないようですので、私が...」
「アイミさん、それは私にさせてください!」
アウロラがアイミの言葉を遮った。
「えっ、ロラちゃんが?」
「私は│靉靆の者でしたので、ザパータの者が、どれだけ残酷で恐ろしいかを知っています。そのザパータの者が、わたしが勇者グループの仲間になるのを全面的に支援してくれたお友だちであるランさんとアナさんに酷いことをしたのです。
私はザパータの者を許すことはできません。ですから、ここはわたしに“お礼”をする役目をください!」
「......... いいわ。ロラちゃん、では、しっかりと“友情”に応えて!支援は私にまかせて!」
「ありがとう!」
アウロラは浮遊すると増幅魔法をかけ加速をつけて小高い丘から急速に離れて行った。
みんなを戦いに巻きこまないように遠いところで戦うつもりなのだ。
そのアウロラを追う黒い影があった。
端が擦り切れた黒いローブをなびかせてアウロラに追いつくべく
高速で飛行しているのはズァライラだ。
「あの小娘... アタシの接近に気づくとは...」
老婆魔術師の飛行魔法の方がすぐれているのか、次第にアウロラに追いついていく。
それを感じたのかアウロラは上昇をやめて、急降下しはじめた。
アウロラはさらに増幅魔法をかけて速度を上げる。
「小娘め、追いつかれると思って逃げはじめたね。でも無駄だよ。
アタシの魔法の届く範囲にはいったら、ナマスのように切り刻んでやるわ!」
アウロラはアイミたちから10キロほど離れた場所で、地上50メートルほどのところに空中停止した。
「イッヒッヒヒ... どうした? 魔素切れかね?」
「いいえ。あなたが来るのを待っていたのよ。わたしのお友だちへしたことの“おとしまえ”をキッチリとつけてもらうわ!」




