11-10 死闘②
ミユは、演習場の管理棟でようやく魔軍将校を捕えた。
プーラが催眠魔法で演習場にあった飛行輸送船がどこに運ばれたのかを訊いていた。
エマとアレクたちリョースアールヴ第一班はあたりを警戒している。
イザベルは、第二班のターブたちと走って演習場に近づいて行った。
ステルス魔法で全員姿を隠しているが、イザベルはもっと近くに行って確認したいと言ったのでさらに接近したのだ。第二班には飛行魔法を使えないエルフもいるため、走っての移動だ。
(周囲から脅威が迫っています!)
ペタラが叫ぶような念話を放ったのを、ミユとエマの第一班は聴いた。
(敵が急速に接近中...)
ドロレスが悲鳴を上げるようにアラートを発したのをイザベルの第二班は聴いた。
(リョースアールヴ隊、至急散開して!このままだと危険!)
アウロラの凛とした念話が聞こえた。
(ラン、だいじょうぶ!?)
(ランさん、だいじょうぶですか!?)
予備選力として待機していて、ペタラとドロレスの“敵接近”のアラートに空中に飛び上がった第三班のアエリたちが念話で状況を確かめる。
(タンヤ、スージ、だいじょうぶか!?)
しかし、ランもペタラもドロレスもタンヤもスージも応答しなかった。
(アエリさん、ランたちに何があったの!?)
(イザベルさん... うううっ... ランさんもアナさんも...
タンヤ、スージもペタラもドロレスもやられちゃいました...)
((えーっ、ランたちがやられた?!))
イザベルとミユが同時に叫ぶように聞く。
(誰が... 誰がランたちを襲ったの?)
(私たちは“危険が迫っている”とペタラとドロレスが警報を出したので、
迎え撃とうと飛行に移った直後に、何者か... たぶん魔族の魔術師に急襲されたようです...)
(こちらからは、第二班で飛行魔法を使える者をすぐに、そちらに向かわせるわ!
ミユ、そちらの班からもアエリさんの第三班に至急、支援を出して!)
(了解です、イザベルさん... あ、こちらからは、 ロベオ、ロッキラ、セルジの三人が今出発しました!)
(こちらは、ジョノン、ツーモル、ロザリンの三名が飛んで行ったわ!)
アエリたち第三班の五名は、ステルス魔法で姿を消して高速飛行しながら警戒していた。
(こちらはイザベル。ミユ、これから演習場にある飛行船の攻撃を開始するから、
そちらも目的を達成したら、私たちに合流して!)
(はい。すぐ、そちらに向かいます!)
イザベルはガンデーヴァの弓を引き絞ると、演習場の敷地にずらっと並んでいる飛行船の斜め前方めがけて目にも止まらない速さで次々と大流星矢を放つ。
その目からは涙がとめどもなく流れていた。
ランはイザベルがレオ、カイオとミィテラの世界に来てから、アイミの次に出会った仲間だった。 ヤマトナデシコ教育を受けているランは、おしとやかな面もある一方、情熱的で奔放さももっていて、イザベルとは気があう仲間だった。
そしてアナ。
突然、アヌッタラ宮に連れて行かれ、そこで勇者グループに入ると言い出した白龍王の孫娘。
甘やかされて育ったせいか、したい事をするという、少々わがままなところもある娘だったが、レオと結婚するために3年間も精霊界で戦って、満身創痍になって帰って来るくらい“根性”のあるいい娘だった。
大事な仲間を二人も失った悲しみは大きかった。
中天まで上った矢は、次第に炎を巨大化させ、直径30メートルもの大火球となって、演習場に並んでいる単胴の大型飛行輸送船と護衛用飛行船を木っ端みじんにする…
「?......」
大流星矢が破裂すると、10隻ほどの単胴の大型飛行輸送船は爆発も起こさずに、布らしいものがヒラヒラと舞い散り、骨組みであったと思われる細い木材らしいものが四散しただけだった。
「やっぱりね... どうもおかしいと思ったわ!」
そこにミユとエマと アレク、ロベオが合流した。
「イザベルさん、あの飛行船、張りぼて?!」
エマがイザベルが大流星矢で攻撃した演習場を見ながら聞く。
「魔軍は、私たちをここにおびき寄せるために、罠を仕組んだのよ!」
イザベルはそう言うと、今度は演習場の建物めがけて大流星矢を放ちはじめた。
さすがに建物は張りぼてにはできなかったらしく、次々と爆発し炎上する。
燃える建物から、魔軍の兵士たちや魔族たちが逃げ出してくるのが見える。
ターブやミルラ、それに合流したアレク、ロベオもいっしょに攻撃をする。
みんな仲間を失くした悲しみで涙を流しながら攻撃している。
(イザベルさん、私たち、なんだか周囲の空間が壁みたいになって、閉じ込められました!)
アエリから不安そうな念話が届く。
(えっ、閉じ込められたって、どういうこと? 飛行して脱出できないの?)
(いえ、ロベオ、セルジや ジョノン、ツーモルなどが試しましたけど、はね返されてしまいました...)
(イザベルさん、こちらは ロッキラです。注意してください、魔軍の部隊が12時と3時の方向から出現しました。かなりの大部隊です!)
アエリたちに合流したロッキラから警報が発せられた。
見ると、突如、魔軍の戦車部隊と馬に乗った騎兵隊が現われ、土煙をあげてイザベルたちに迫って来る。
「ペタラ が“周囲から脅威が迫っている”って言ったのは、たぶん、今、アエリたちが遭遇している敵ね!」
(アエリさん、ムリしないでちょうだい!今、レオたちに救援をたのんでいるから!)
(空間がどんどん狭くなっています!もう100メートルもありません!)
アエリから悲痛な念話が届く。
(それに、この閉じられた空間、どんどん落下しています!)
ロザリンからも叫び声のような念話が発せられる。
(落ちる―!)
(キャ―――――ァアアア!)
(うわ――――!)
(お母さ――――ん!)
(死にたくな――い!)
イザベルたちの見ている前で、10メートル四方くらいの中に折り重なって、かたまりとなったアエリたちリョースアールヴたちが地上に激突した。
バッと上がる土煙と四散する手足が肉眼でも見える。
「!」
「キャっ!落ちた!」
「アエリ―――!」
「ロザリン、ロベオ... ロッキラ...」
「ウソ... みんな死んじゃったの?」
イザベル、ミユ、エマ、それにターブ、ミルラ、アレク、ロベオたちも呆然としている。
魔都の魔軍総司令部。
魔都ルーパダトゥは、ジーマラ・ゴカラ演習場から千数百キロ西方にある。
そこでは、魔王とアサグ参謀長以下、ベイアリア統括長、グロスヴェル参謀副長、ベテランの参謀などといっしょに ハイバデイッカとボウデイッカもいる。
「『飛んで火にいる虫作戦』の第一目標は、ほぼ達成されつつあります」
グロスヴェルが、連絡将校がもって来た通信文書を見ながら言う。
「エルフの魔術師たちは、ほぼ全員殺しました。地上で指揮をとっていた部隊もアニュイパランさまとザパータのズァライラが全員殺すか石化したようです」
ほ―――ぅ…
という声にならない驚きが魔軍の参謀たちや上級将軍たちの口から出る。
「演習場を攻撃した別動隊も、現在、魔軍親衛隊の戦車部隊と髑髏部隊が攻撃をはじめており、制圧は時間の問題です」
「それで『炎の地獄作戦』の進捗状況はどうなっている?」
「はっ、すでに第一段階のゴルゴーン軍団長指揮下の新設第六軍の第一陣60万の軍が飛行輸送部隊でゾオルに向かっています。
第二陣はおよそ100時間後に60万送りこみ、ゾオルを西部からと南部から包囲し、制圧する作戦です、魔王さま」
「第五軍が、あのように短期間に制圧されたのは予想以外だったが、『飛んで火にいる虫作戦』で、たのみの綱のエルフ魔術師たちを壊滅され、また獣人族国の首都ゾオルを大軍で急襲し、占領できれば所期の目的は達せられる!」
「はっ、その通りです」
「して、勇者王国の方はどうなっている?」
「ハイバデイッカとボウデイッカ。魔王さまにご説明しなさい」
アサグが『炎の地獄作戦』ならびに『飛んで火にいる虫作戦』の原案者であるふたごの参謀に説明をさせる。
「はい。ザパータのウライザが、白龍王の宮殿にとじこめていた600体以上の精霊の巨人たちを解放し、先日惜しくも戦死したジヴィボルムさまが、倒される直前に送ってくれた位置情報にしたがって精霊の巨人たち送りこみました」
「じきに勇者王国の正確な位置を確認して知らせてくると思います」
ハイバデイッカとボウデイッカが報告する。
「うむ。この際、勇者王国をつぶしてしまった方が無難だな」
「はい。 グァロイギィ、マモッド、それにオジィオの力をもってすれば、大量の兵を瞬間移動できます」
「ただ、これらザパータの者の瞬間移動は、移動距離が短いというのが玉に瑕だな...」
「はい。こればかりはどうしようもありません」
「それにしても、ハイバデイッカとボウデイッカの作戦は見事だ!」
「はっ、恐れ入ります」
「恐れ入ります。これも経験豊かな先輩参謀のみなさまのご理解あってのことです」
作戦室のベテラン参謀たちや上級将軍たちは顔を見合わせた。
彼らは自分たちが魔王の賞賛をうけるものとばかり思っていたのだ。
だが、アサグはとっくに誰が原案を作ったかを魔王に伝えていたのだ。
それに グロスヴェル参謀副長も、ふたご参謀が鬼人族国で劣勢だった魔軍部隊をして、優勢だった獣人族軍のリザードマン師団を壊滅寸前にまで追い込んだ手腕を高く買っていた。
『炎の地獄作戦』ステップ1
『炎の地獄作戦』ステップ2
『炎の地獄作戦』ステップ3
イザベル、ミユ、それに残ったリョースアールヴたち‐ターブ、ミルラ、アレク、ロベオは、必死に応戦していた。
北と東から突如出現し、攻撃してきた魔軍の戦車部隊と騎馬隊。
イザベルがガンデーヴァの弓でいくら攻撃をしても、魔軍部隊に届かない。
「敵はアイミやカクさんみたいな魔術師がバリアーを張っているのに違いないわ!」
わずかに利くのは、エマの電光矢だが、これは攻撃力がまだイザベルのガンデーヴァの弓ほど大きくないので、倒せる敵の数も限られる。
ミルラ は必死になってバリアーを張っているが、これもあとどれだけもつか。魔素が底をついたら、誰も守ってくれるものはいなくなる。
“カティアがいれば...”
アレクは、新婚の妻 カティアを想った。
カティアは前回、ランたちの応援に来たとき、強力なバリアーでみんなを守ってくれたのだ。
しかし、今回の作戦でカティアが妊娠一ヵ月と判明したことで、アレクだけが作戦に参加することになった。カティアは「私も行かせてください!」とアイミとアウロラに頼んだが、二人とも頭を縦にふらなかったのだ。
「妊娠したばかりの時期は、流産をしやすいのよ。とくに大きなショックやストレスは厳禁。
だから、あなたはここで、みんなが無事に任務を完了して帰ってくるのを祈っていなさい!」
アイミは半べそをかいているカティアの髪をなでながら優しく言った。
ターブとロベオは、竜巻攻撃や氷剣攻撃を絶え間なくしているが、多少、魔軍の接近を遅らせる程度にしかなってない。アレクの電撃魔法も魔素が切れてきて、威力も発生数も極端に落ちている。
“アウロラは... アウロラは、どこ行っちゃったの?”
イザベルは、先ほど、魔軍の魔術師の閉鎖空間魔法で墜死した者たちの中に、アウロラの姿が見えなかったことを思い出した。
“あの時、アウロラは(リョースアールヴ隊に危険だから、散開して逃げるよううに命令をした... そのあとでやられちゃったの?”
流星矢は利かないと知りながらも、少しでも時間を稼ごうと無我夢中でガンデーヴァの弓で攻撃し続けるイザベル。
エマもそばを離れえずに、こちらは確実に魔軍の騎兵隊を倒している。
そのころ、アウロラは『ジーマラ・ゴカラ演習場』から数百キロ離れた山麓の上空にいた。
リョースアールヴを閉鎖空間に閉じこめ、墜死させたザパータの者たちのひとり、ヴァシラを追って来たのだ。
高速飛行で逃げようとするヴァシラを追いながら、アウロラは1万度の熱線の束を何度も何度も放った。
しかし、ヴァシラは高齢の女魔術師と思えないような身軽さと予測不能なアクロバット飛行で、アウロラの熱線攻撃をかわしつつ逃げ続けた。
追跡すること10分以上、演習場からかなりの距離がある山麓にまで来ていた。
「おまえもしつこい娘だね... おまえの師匠だった ダイモヴァンの仇をとってやったんだよ。感謝されこそすれ、追われる筋はないんだがねェ... 」
ヴァシラが追いかけっこは、もう疲れたよと言いたそうな顔で言う。
「だまりなさい!ダイモヴァン師匠を殺したのは、エルフたちじゃないのよ!それなのに、罪もないエルフたちを... 私がアイミさんからあずかった大事なリョースアールヴを大勢殺して...」
「なにがリョースアールヴだい? 魔族の敵であることに変わりはないじゃろうが? それになんだい、その体は? 肌の色を白くして、おまえもエルフになったつもりかえ?」
「許さないわ... 大事なリョースアールヴを殺したお前を... そしてランさんとアナさんを殺したおまえたちザパータの者たちを...」
「ひひひ... 許さなかったらどうしようと言うんだね?」
ヴァシラから、じわ~っと目に見えないオーラのようなものが発せられるのをアウロラは感じた。
「そんな魔術はもう利かないわ...」
そう言うと、アウロラはローブの胸を開いて見せた。
胸の中心には、ブラジャーにつつまれた両の乳房の中心より上に5センチほどの円形のタトゥーがあり、それには魔法陣が描かれていた。
「おや... それは...?」
「そう。心を支配されないための魔法陣よ」
「そんな馬鹿な... そんな魔法陣は古代魔術書にしか...」
「それをわたしは研究したのよ」
「ひひひひ... そんなことをしても無駄だね。おまえが、その白くきれいになった胸をみせているうちに、私は空間閉鎖魔術をはじめたからね...」
「そんなこと、空間を閉じてしまう前に、あなたを殺せば解けてしまうわ!」
「私を殺す? ひひひひ... それは面白い。言っておくけど、そこんじょらの低級魔術師が使う魔術では私を倒せないよ... 知っていたかい? 私も古代魔術書を長年勉強して来たから、ちっとやそっとの魔術は利かないようになっているのさ...」
「ふふふ...」
「なにがおかしい? 閉鎖空間に閉じこめられて死ぬとわかって気がふれたか?」
「私の親友、アイミはね。わたしを“天才魔術師”って呼ぶのよ。ううん、彼女だけじゃないわ。なくなった師匠も、わたしを“魔術の天才”って呼んでいたのよ」
「ひひ... その話は、私もダイモヴァンから聞いたよ。それはたんなるダイモヴァンの生徒にたいするおだて言葉さ」
「じゃあ、冥途の土産に見せてあげるわ」
「?...」
「絶対零度っ!」
「なにっ?!」
アウロラがヴァシラに向けた両手から、すべてを一瞬にして、原子を静止させ、極小にまで体積を縮めてしまう究極の絶対魔法が放たれた。
ザパータの者ヴァシラは、5ミリほどのゴミになって上空を吹く風に飛ばされていった。
“アイミさん... これでリョースアールヴの仇はとりました...”
絶対零度魔法で、すべての魔素を使いつくしたアウロラは地上めがけて落ちていった。




