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88 ワガママ

「まっ、待って下さい。」


 何かと思い下を見ると俺の足に必死にしがみつくノエルと目が合った。ノエルは気づいてもらえたことにホッとしたのか思わず下を向いてしまった。


「キャーーー」


 あまりの高さに大声で叫び始めた。流石に上空30メートルの世界は怖いよね。流石にこのままではまずいと思いノエルをお姫様抱っこした。実はすぐに地上に降りたらいいだけなんだけど、帰ると言った手前なんだか降りずらかった。


 余程怖かったのかノエルは俺の首に手をまわししっかりと抱きついてきた。顔が近すぎてちょっとドキドキしてしまった。その顔をよく見ると恐怖で青ざめてはおらず真っ赤だった。


「ヒロタカ様、すみませんがもう少し高度を下げていただけませんでしょうか?」


 俺は高度を下げるとノエルが大声で


「隊長!、私はこの方に着いていきます。後は頼みます。」


 すると地上に居るモーリスが


「お嬢様、駄目です。お戻りください。旦那様に怒られてしまいます。」


 おいおい、お嬢様ってまたベタな。金髪ドリルはお嬢様決定なのか?それよりモーリスちょっと涙目になってるよ。


「イヤです。」


 おいおい、俺どうしたら良いんだよ。


「分かったノエルさん。一旦地上に降りましょう。」


「いけません、ヒロタカさま。」


 俺はその言葉を無視してゆっくり降下して地上に降りた。

 

 するとモーリスが目の前にやって来た。しかしそれを押しのけ、


「お嬢様、何をなさっているのか分かっておられますか。」


 ヌボローネとネティーニュスが走ってきた。


 ノエルは俺の背中に隠れながら、


「私は騎士です。騎士は主に仕えるもの。そして私はこのヒロタカ様を主に決めました。」


 俺がはぁと項垂れると同時に周りに居た人達も項垂れた。


 そしてモーリスが、


「はいはい、お嬢様、その言葉今月に入って何回目ですか?」


「今度は本当です。それにモーリス、私のことは副隊長と呼んで下さい。」


 俺は心の中でノエルも隊長をモーリスって呼んでるじゃないかとツッコんでおいた。


「それでは隊長命令で、副隊長、今から隊を率いてアカムスタムに撤収。」


 モーリスがきつめに言うと


「イヤです。」


 速攻、却下したよこの子。


「お嬢様、」


 モーリスまたお嬢様になってるし。


 そろそろ飽きてきたので


「じゃ、そろそろ帰りますね。」


 俺がそう言うと


「「待って」」


 モーリスとノエルが同時に止めてきた。


「なんでしょう?」


「申し訳無いのですが、ヒロタカ殿にはアカムスタムに来てもらいたいのですが。」


 困ったな。実際そろそろ美恵も起き出すからアカチーに戻ろうと思っていたのに


「ヒロタカ殿、申し訳ないがこの後のご予定は?」


「アカチーに帰ろうかと」


「そうですか。でも、アカチーは大丈夫ですか?一昨日の晩、大規模なスタンピードが発生したと連絡が有り騎士団の方が応援に行っていたはずなのですが、村は大丈夫でしたか?」


「大丈夫です。スタンピードは終息し村に被害はありませんでした。」


「そうですかそれは何より、アカムスタムの街の近くでアカチーから逃げてきた商人達は村はもう駄目だみたいな話をしていたもので。」


「そうなんですかアカムスタムの方ではそんな話になっていたんですか。昨日騎士団の方が来た頃にはスタンピードは終息していましたからね。騎士団の方は一泊してからアカムスタムに戻るみたいでしたので、今頃アカチーを出ているんじゃないですかね。」


「そうだったんですか。話は変わって、ヒロタカ殿は冒険者なのですか?私たちが手こずっていたオークの大軍を易々と倒し、ランクSの冒険者なのですか?。」


 そんな世間話をしていると、


「隊長、ヒロタカ様はアカチーに帰ると言っております。私が責任持って送り届けてみせましょう。」


 ノエルがいい口実を掴んだと言わんばかりに話に入ってきた。


「お嬢様、本当にヒロタカ殿について行かれるのですか?」


 ネティーニュスがえらい剣幕で聞いてきた。


「そうです。私が考え私が決めました。」


 先程までのおちゃらけた態度と一変してノエルが真剣な眼差しでネティーニュスを見据え答えた。


「あのー、そろそろ帰ろうと」


 俺がそこまで言うとネティーニュスが


「分かりました。モーリス、貴方は隊を率いてアカムスタム帰還しなさい。お嬢様は私とヌボローネが着いてアカチーにいきます。それと、アカムスタムに着いたら旦那様にアカチーに居ると連絡を、」


 なんかネティーニュスが仕切り始めた。


「はい、分かりました。復唱します。私は隊を率いてアカムスタムに帰還し旦那様に連絡をします。」


 そう言ってモーリスは敬礼した。それを見た俺は本当はモーリスよりネティーニュスの方が立場が上なんだなと思った。


「総員、オーク肉を持てるだけ持って帰還するぞ。」


 モーリスがそう言うと集まっていた隊員は倒したオークの肉を集め始めた。それを見た俺は、


「あー、モーリスさん、これ使って下さい。」


 そう言って俺は【アイテムボックス】からいつものピクニックバスケットを取り出しモーリスに手渡した。


 「ヒロタカ殿、貴殿は【アイテムボックス】のスキル持ちでしたか。うらやましい。」


 何もない空間から物を取り出すと【アイテムボックス】のスキル持ちだとすぐわかるみたいだね。


「そうなんですよ。便利ですね。」


 それから手にとったピクニックバスケットの中ををモーリスはのぞいた。


「これはアイテムポーチ、ありがとうございます。私たちもいくつかアイテムポーチを持っているのですがなにぶんオークの数が多いので全ては持ち帰れないと考えていたところでした。このお借りしたアイテムポーチのおかげでかなり持ち帰ることが出来るようになります。ありがとうございます。」


 そう言ってから、モーリスはピクニックバスケットの中に手を入れると、不思議な顔をした。


「ヒロタカ殿?このアイテムポーチ、普通とは違うような気がするのですけど。」


「そうですね、それはピクニックバスケット型の【アイテムボックス】ですね。容量無制限、時間凍結付きです。結構いいでしょ、私のお手製なんですよ。」


 その言葉を聞いたモーリスはピクニックバスケットを思わず落としそうになった。

 

「ヒ、ヒロタカ殿、このような貴重な品、お借りするわけには、」


 モーリスがそこまで言うと俺は


「大丈夫ですよ。たくさん有りますし、いろいろな人に譲ってます。だからこれもモーリスさんに譲りますから。そしてもうすぐアカチーで店を開きます。その店でも買えるようにするつもりです。」


 モーリスは目をぱちくりしていた。


「それでも、ヒロタカ殿、これは国宝級の魔道具ですぞ。それを売るのですか?」


「いくつでも作れますからね。格安で売りますよ。ほかにもいろいろ売るつもりですから買いに来てくださいね。あっ、ついでにこれもあげますね。」


 そう言って【アイテムボックス】から木の札を取り出しモーリスに渡した。


「これは?」


 モーリスはその木の札をいろいろな角度から見ていた。


「見た感じただの木の札、実は本当に木の札なんです。」


 モーリスはズッコケそうになっていた。


「いや、本当に材料はただの木の札なんですよ。でも、そこに【ヒール】を書き込んであるんですよ。」


 その言葉にモーリスはフリーズした。数秒後復活。


「そんな、そんな、魔道具、王城の宝物庫に保管されているようなものですよ。おいそれと人に譲るものではありません。」


 モーリスがすごく拒否って返そうとしてくる。


「大丈夫ですよ。これも少し前にアカチーの冒険者ギルドに渡してあるくらいですから。みんなのために使ってください。ちなみにこれも店で売るつもりですから」


 俺は頑張って宣伝している。俺にしては凄いぞ。


「ありがたく、使わせていただきます。」


「そろそろ、お話はお済ですか?」


 横からネティーニュスが聞いてきた。


「そうですね。渡すものは渡したつもりですが。」


 そう言って、思い出した。


「これもモーリスさん、どうぞ」


 俺はモーリスさんの前にオークキングの死骸を出した。もちろんオークキングのモスラの幼虫は見えないようにしてある。ノエルがびっくりするといけないからね。


「これはヒロタカ殿、これは貴方の手柄。私達が頂く訳には。」


 そんなモーリスに


「ランクAのオークキングぐらいならどうぞ皆さんで頂いてください。美味しいですよ。」


 俺はこの前食べた。ゴールデンニードルベアの肉の味を思い出していた。


「食べる?自分たちがですか?そんな勿体ない。ランクAの魔獣の素材なら高額になりますので、食べずに売却しますよ。」


 俺はそうなんだと思いながら


「そうですよね、売却したお金で美味しいものを食べるのもありですね。」


「ヒロタカ殿、私達はいま公務中なので手に入れた素材も軍に徴収されてしまいます。と言いたいところですが、私達は駐屯軍なので手に入れたものは駐屯軍管理となります。なので、今年度の予算はウハウハです。ありがとう御座います。」


 モーリスの顔が輝いていた。


「モーリス、仕事に掛れ。」


 業を煮やしたネティーニュスが怒り始めたのでモーリスは走って、オークの回収に向かった。


「ヒロタカ殿、お元気で」


「モーリスさんもお元気で、それと洞窟にもオークの死骸はありますからね。一応全滅させていますがお気をつけて。」


「ありがとう御座います。」


 モーリスが後ろ向きで走りながら手を振っていた。


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