65 ヒール
別館に行く通路の騒がしさがこちらに向かってきた。すると、血だらけの男が担がれてきた。
「ギルマス、大変だラザロフがやられた。居合わせたヒール持ちに応急でかけてもらってなんとか一命はとり止めたが、この有り様だ。」
連れてこられた男は右肩が無くなっていた。
「何が有ったんだ。」
チカノーヴァが冷静に聞いた。
「それがさな、みんなで魔獣の回収に行ったんはいいんだが、ちょっと横道にそれちまって、そうしたらキラーマンティスに出会っちまって、出会い頭に右肩をバッサリだ。その後は頭数が居たから倒せたけどラザロフが、」
その男は気を失っているラザロフにしがみついて泣きながら
「こいつは小さい頃からのダチなんだ。金は無いが何でもするからギルマスなんとかなんねえか。腕をこいつの腕をなんとかしてくれ。頼むギルマス。今回の報酬なんていいから、」
男はじっとギルマスを見ていた。チカノーヴァは重い口を開いた。
「すまん。ヨルド。ワシでは無理だアカムスタムの教会に行けばなんとかなるかも知れんが、」
「でも、俺たちにはそんな金は無い、」
なんだか長くなりそうなので、俺が割って入った。
「取り合えず、腕を治したらいいんですよね。」
そう言うと魔力多目のヒールをかけた。ラザロフの全身が光り肩に集まり腕を形成していった。光が消えると綺麗な腕が出来上がっていた。
「はい、終わりです。」
俺の一言に我に還ったヨルドが
「あんちゃん、ありがとう。大神官様だったか。ありがとう。」
ヨルドは俺の手を両手で握り何度も頭を下げてきた。涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔はいい笑顔だったけど厳ついおっちゃんにいつまでも手を握られて居るのも正直キツイ。
「チカノーヴァさん、こういう事って意外と有るんですか?」
俺はヨルドの手を話しチカノーヴァに聞いてみた。
「有る。今回は応急のヒールが間に合ったから生きていたから良いが、これほどの致命傷ならほぼ死ぬな。これがこの世界の現実だ。」
そう言うとチカノーヴァは悲しそうな顔をした。
「そうなんですか。大変ですね。」
俺はそう言うと、一つ閃いた事があった。
俺はおもむろに木材ブロックで名刺大の木の板を創りだした。そしてそれに【魔法具作成】でヒールを付与した。このままでは魔力量が足らないので大きめの魔石が欲しかったので、オークキングを取り出し、【解体】のスキルのおかげで何処に魔石が有るのか一発で分かるので死骸の胸に手を差し入れ魔石を抜き取った。バスケットボール大の魔石だった。でっかいわ。予定変更、木の板は失敗、とりあえず、魔石に直接ヒールを付与して、大気から魔力を吸収する魔法陣も貼り付けた。これでは魔力の充填量がわかりにくいので充填完了したら薄っすらと発光するように【光魔法】も貼り付けた。魔石に充填が終わってオーバーフローした魔力が【光魔法】に行くようにしてみた。
「よし、出来上がり。」
俺は頑張った。結構良い物できたと思い、
「チカノーヴァさん、部位欠損治すヒールの出る魔法具作ってみました。」
ジャジャーンとバスケットボール大の魔石を見せた。周りの反応は無かった。何ていうか。唖然としてる?多分出しっぱなしにしているオークキングに驚いているのだと思い、オークキングはしまった。しかし反応はない、
「チカノーヴァさん、魔法具できましたよ。」
その言葉にやっと我を取り戻したチカノーヴァが
「ヒロタカ、それはなんだ?」
その問いに素に
「魔石?オークロードの魔石」
「いや、そうじゃない。お主はその魔石に何をしたんだ。」
チカノーヴァは凄い剣幕で聞いてきたので
「魔力量確保のための魔石に【回復魔法】のヒールの魔法陣を貼り付けてから大気から魔力を吸収する魔法陣を貼り付けただけ。」
「ヒロタカ、ワシはさっきからお主が言っている事が全くわからん。まず回復魔法とは何じゃ、」
思わぬ質問におどろいて、
「結構使える人いるじゃないですか?ラザロフさんを応急のヒールをした人とか。」
チカノーヴァは難しい顔をして、
「ヒロタカ、皆が使っているヒールは回復魔術だ。回復魔法などではない。」
おっと、意外な事実、
「それに、魔法などと言うものはとうの昔に無くなっておる。それとお主は部位欠損を治すヒールは普通のヒールとどう違うのじゃ、」
「えっと、魔力量の違いぐらいですか?」
「お主の回復魔法ではその程度の違いなのか、回復魔術ではヒールに使われる魔力量は一定だ。それ以上に魔力を込める事も出来ない。それはヒールに使われる術式にそう書かれているからじゃ、もし、それ以上に魔力を込めたかったらその術式を解析し魔力量の所の数値を変えるしか無理なのじゃ。わしらは回復魔術のスキルを手に入れた時に使える魔術は決まって居る。それ以外に使いたければ修練し発現するのを待つか、術式を解析し変更し成功するまで変更を繰り返すのじゃ。言うなれば、魔術は決まった術式を行使するだけじゃ。お主の魔法と違いすごく応用性の低いものじゃ。だからスキル取得時に部位欠損を治すヒールが入っていたらそやつは一生安泰だな。」
なんだかすごく申し訳ない気がしてきた。それが顔に出たのか
「いや、ヒロタカが悪い訳とかそんなんじゃない、その魔導具、いや、魔法具だったかの、それは凄いものだと言うことはよくわかった。で、それをどうするのだ?」
何を言っているのか分からない、
「どうするも、こうするも。ここで使ってもらうんですよ。」
「いや、その気持はありがたいが部位欠損を治す魔法具を使わしてもらうだけのお金は皆の懐からは出んので。」
微妙にズレている。
「なに言っているんですか、無料に決まってるじゃないですか。こんなもの創る苦労も無いのにお金を取るなんてこっちこそバチが当たりますよ。どうしてもと言うならば大銅貨一枚で良いんじゃ無いですか?それで何処かに寄付でもしてあげて下さい。」
そう言って、魔法具をチカノーヴァに手渡した。手渡した魔法具はうっすらと光っていた。満タンです。




