39、本
知識は身を助く――とはよく聞くけども、それも場合によりけりとは思う。知恵も知識も、運命の荒波には逆らえないのだ。
例えば今のようなシーン。
「早くここを開けなさい!」
部屋の向こうで親父が怒鳴る、たまに母も懇願して泣いた。その比率はおおよそ4対1で、怒鳴り声の半数を占める。残りの半数は誰か。知らんオッサンたちのものだ。屈強で荒々しく、声を聞くだけで理解できる――アカンやつらが来たぞと。
「いつまでそうしてるんだ。引きこもってても将来なんてないだろう? さぁ、一緒に外の世界へ飛び出そう!」
などと甘い言葉で誘い出そうとする、オッサンのくせに。
贅沢は言わないので、せめて美少女ならばと思う。そして身長は140センチくらいで小柄で清楚かつ大人しいように見えて毒舌でもありオレの事が大好きすぎてついついキツくでてしまうような女の子――そんな誘いならば無血開城してやってもいい。むしろ土下座してお願いしたいくらいだ、僕のことを連れ去らってと。
だが現実は、汗臭い男どもが3本も集まるので、施錠して立てこもる。早く消えてもろて。
「すみません。ここは強硬手段にでます。ドアを破っても?」
ふとっちょが信じられないことを言う。そして親父も親父で「存分に」だなんてホザく、お前の家だろうが!
掛け声、振動、軋む蝶番――。やばい、やばいなんてもんじゃない。あと数発の体当たりで城門は打ち破られてしまうだろう。
「何かないのか、誰か……!」
1人きりだと分かっていても、助けを探ってしまう。窓からの逃走は不可、3階だ。逃げ場なしの正面は陥落寸前のドアー。
万事休す。脂汗が額を濡らした刹那、視界の端で目が止まる。部屋の片隅に押しやったマンガ本の山が目についたのだ。
これだ――。
ドアーの前にこれでもかと投げ込み、積み上げていく。物量には自信がある。まもなくマンガによる歪な城壁が完成した。侮るなかれ。床が軋むほどの総重量で、ドアーが破られかけても敵の侵入を防ぐだけのポテンシャルを秘めていた。
奏功し、攻撃が弱まってゆく。オッサンたちが攻めあぐねる声を聞いて、ようやく落ち着きを取り戻した。
ぬるくなった茶を飲んで安堵の息を吐く。ここはセーフゾーンと思えば、マンガの1冊でも楽しむ余裕が出てきた。繰り返し読んで飽きた作品だ。それでも手にとると微笑みが込み上げてくる。読んで良し、積み上げても良し。
本は、ホント役に立つんだな――。
ー完ー




