表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/41

37、朝食

 オートファジーなんて簡単だろ、食わなきゃ良いだけじゃん。


 キッカケはそんな軽口だった。しかし妻や娘と話し込んでるうちにヒートアップして、良くない方向に盛り上がった。


「だったらやってみなさいよ、絶対失敗すると思うけどね」


「パパもちょっとくらい痩せたら? ひどいお腹!」


 ここまで言われたら引けなくなった。そしてまだ日も高いうちからベッドに潜り込む。ここから15時間は飲まず食わずだ。水くらいは飲めるので、水筒を枕元に。


「あとはもう、朝までひたすら寝るだけだ」


 ご褒美の朝食はすでに購入済みだ。冷食の濃厚豚骨ラーメンにフルーツヨーグルト、それと2リットルのバニラアイス。2人がせっせと頭を下げる中、至福の朝を味わうのだ。それを思うだけで笑いが込み上げてくる。


 横になる。意外と眠れそうだった。うとうとと、柔らかな睡魔とたわむれる――が、それは不意に破られた。


「この匂い、ビーフカレー!?」


 リビングからそれは押し寄せてきた。とたんに堪らなくなり、奥歯を噛み締めた。よりによってカレー、匂いで腹が減りそうな晩飯を、厭味ったらしく食うだなんて。心なしか、リビングの2人は普段よりも会話を弾ませているようだった。


「あいつら……卑怯だぞ!」


 毛布をかぶって丸くなる。こみあげる食欲は、腹を殴ることで堪えた。


 どれほど脂汗を流したのか。いつしか辺りはとっぷりと暗くなり、リビングも静まりかえっている。夜更けを迎えたらしい。


「まだ23時? 嘘だろ……」


 日付を越えてすらいない。まだ前半戦の渦中だと知り、目眩を覚えた。何か食べたい。なんでも良い、チョコでもアイスでも炭酸ジュースでも良い、とにかく糖分が欲しくて、渇きに苛まれた。


「負けるわけには、父の威厳が!」


 水を飲んでやりすごす。しかし食欲は、脳裏に居座ったままだ。


「ここは寝てしまおう。ひつじが一匹、ひつじが二匹……」


 ひつじ、ラム肉、ジンギスカン。近くに新店舗がオープンしたけど評判はどうだろう。


「違う、そうじゃない! ひつじを数えるんだよオレ!」


 やはり眠れない。冷蔵庫が時々、大きな音を出してうるさい。こんなに鳴っただろうかと不思議に思うほど耳につく。


 23時半、まだ眠れない。目が回りそうだ。何かできないかと、喉をひっかき、転げ回る。そして最終的に辿り着いたのは、自分の二の腕だ。たぷたぷと余る肉を噛んでみる。


 すると衝撃が駆け抜けていった。


「あれ、しょっぱいぞ。オレの腕しょっぱい!」


 天の助けを得た気分だ。腕も、手のひらも、ふくらはぎも、口が届くようなら舐め回した。衛生面なんか知らん。虎も自分の身体を舐めるのだから似たようなもんだ。


 あとは眠ってしまった。そしてついに勝利の朝日――8時を迎えた。


「やぁお二人さん、気分はどうだい?」


 問いかけるも不穏な気配だ。妻も娘も、冷蔵庫の脇でうつむいている。何か腹でも突かれたような違和感を覚えた。


「どうかしたの?」


「おはよう。あのね、冷蔵庫が壊れたみたいで、もう中はドロドロなのよ」


 確かにひどい有様だ。冷食やアイスが溶けて、床まで濡れている。オレのご褒美も当然お預けだ。味気なく食パンをかじるしかなかった。


 こんな朝食でもう、超ショック――。



ー完ー



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ