36、ツラ
大神殿の入口に立ちはだかる男は、決して通さない門番と有名だった。
彼は極めて厳格だった。有資格者はもちろん通す。しかし、他の手段では絶対に攻略不可能であると、王国中に知れ渡っている。
それでも大神殿の中――特にステンドグラスホールは、この世で最も美しいと囁かれており、人々はどうにか潜り込めないかと思案した。
「しょせんは門番も小市民だ。金を積めば良い」
とある貴族が金銀財宝を何両も牽いて、門番に交渉をもちかけた。しかし、貴族の身体が埋もれかねないほどの金品を積み上げても、門番は眉ひとつ動かさない。「資格なき者は帰れ」
それをキッカケに、国内では悪ふざけ的に伝播した。どうすれば落とせるかと、誰もが躍起になったのだ。
たとえば絶世の美女が色香を振りまく。歴戦の猛者が名誉を賭けた勝負を挑む。それでも門番は全てを冷たくあしらった。「資格なき者は通さん」
あまりの人間離れした厳格さに、皆は疑うようになった。実は人ではなく、合成人形の類なのではと。
実際、驚かせようとしても全く動じないとか、乙女がスカートの裾をまくられても微動だにしないなど、確かに人間らしくはない。
「なんか気味悪いよな、あいつ」
それまでのブームから一転して、人々は大神殿に近寄らなくなった。陰で「人を魔術で生み出している」などと、不確かな噂を流すようになった。
公務で神殿へ赴く人たちも不安げになる。人ならざるもの――そんな視線を門番に向けた。門番はただ静かに一行を通した。
そんなある日のこと。付近の村で少年たちが喧嘩を始めた。火種は些細なもので、誰が度胸あるか、という話題で揉めた。
1人の大柄な少年が言った。「じゃあオレの度胸を見せてやるよ」
そして少年は皆を引き連れて、大神殿へと向かった。そして門番に石を投げつけて、こう叫んだ。
「消えちまえバケモノ! お前なんて国中の嫌われ者だぞ!」
門番は盾を掲げて石を弾いた。怒鳴り散らす必要もなかった。子どもたちは、自分の度胸さえ示せたら良く、早々に引き揚げていった。
その日の夕暮れ――。門を閉じた後、門番は神殿の中へ戻った。兵士詰め所まで行く足が重たい、特に今日は。
すると回廊で女司祭と鉢合わせた。脇に避ける門番を、司祭は手を挙げて制した。そして尋ねる。
「大丈夫ですか?」
門番は戸惑いつつも無言を貫いた。司祭は、心の奥を覗くような視線を向け続ける。
門番のツラが、辛そうに見えたので――。
ー完ー




