35、ツタ
(作者コメント:風邪で数日くたばってたけど復帰しました)
あの時の話を聞きたいって? まぁ良いけどさ。メチャクチャしんどかったよ、何度も死ぬかと思ったもん。
あの日、気づいたら砂浜に倒れてたんだ。経緯はあんまり覚えてない。船室で寝酒を飲んでた時、騒がしいなと思ったら、もう船が傾いてたんだよ。そして、あれよあれよと言う間に、無人島に流れ着いたと。
もう本当に、文字通りの無人だった。人工物ゼロだよ、廃屋も電波塔みたいなもの一切なくてさ。
(あっもしかして、これ死んだ?)
マジで覚悟したよ。だって荷物の1つも無いんだもの。ずぶ濡れのシャツとズボンを着てるだけ。
とりあえず脱いだよね。変に気持ちよかったよ、何かに目覚めそうなくらい。
でも問題はそっからよ。何も道具がないから、出来ることはあんまり無くて。ナタがあれば木の枝を集められるし、ライターで火をつけるとか、色々出来るじゃん。家を建てて火を起こしてとか定番だよな。あとはスマホでサバイバル術調べたりね。
でも素手の裸ん坊だから。やりようがなくて。仕方なく食えそうな木の実をかじったよ。なるべくキレイそうな生水も飲んだ。一応、そこらに落ちてたペットボトルでろ過装置は作ったんだ。小石や砂利詰め込んで。
もちろん腹を壊した。木の実と生水のどっちか分からんが、とにかく直撃。しかも夜は寒い。大きな葉っぱを集めて凌ぐしかなかったね。
あの時は痛感したなぁ。家に居たら今頃、蛇口ひねるだけで水が出るし、ボタン一つで風呂が沸く。メシもコンビニとか行けばいくらでも買える。最高だろ。魔法みたいなもんだわ、無人島暮らしに比べたらさ。
そんで3日目くらいかな。空からヘリの音が聞こえんの。見上げると、3機くらいが並んで飛んできてさ。こっちの方に向かってるんだわ。
ここしかない――って、そう思ったよね。
でも何も準備してねぇんだわ。丸太でSOSを作ろうかと思ったけど、全然間に合わないじゃん。そもそも丸太なんて無いし。
だから何か目立つものを探したんだ。長くて、振り回せたら、素手よりは目立つだろ。
そんで森の中を手当たり次第に漁ってから、砂浜に飛び出したんだ。
「助けてくれ! ここに人がいるぞ!」
必死に叫んだよね。まぁ爆音のヘリに聞こえるわけないじゃん。だからなるべく大きく振ったよ、ツタの束を。頭上で何度も、左右に振って、叫んでさ。
でもヘリはのんびりと空を通り過ぎていったんだ。まぁオレも痛感したよね、その時は。
ツタじゃ伝わらないって――。
ー完ー




