33、プライド
同居人がとんでもない偏食家だと言うことに、彼は驚いた。出したものは一応、何でも食べてくれるし、嫌いな野菜もないようだ。
ただし、何でも揚げて食うという特殊な食性を持っていた。唐揚げという定番はもちろん、揚げご飯、揚げきんぴらゴボウ。プリンまで揚げた時は腰を抜かしそうになった。
「さすがにヤバいだろ。あれじゃすぐ病気になるぞ」
どんなに若くても、危険な悪癖だと思う。加えて部屋中が油でぬめるし、使用済み油の処理も面倒だ。百害あって一利なし、そうとしか思えなかった。
「よし。こうなったら飛び切り美味いもの食わせて、フライの誘惑から断ち切ってやるか」
彼は料理学校に通う学生で、腕に覚えがある。友人に振る舞う事もあり、その評判も上々だ。きっと成功させると誓った――己のプライドを賭けて。
相手の好みはおおよそ把握している。濃い味つけで、さらに肉料理なら大抵は喜ぶ。それらは全てフライにされてしまうが。
「味もそうだけど、見た目もこだわんないとな。揚げ物のこだわりを少しでも軽くしないと」
そうして半日が過ぎた頃、食卓はかなり豪勢になった。カレードリアにビーフシチュー、主食はバケット。花を飾るだけの余裕はなかったが、料理は会心の出来栄えと言えた。
「あっ、早速帰ってきた」
出迎えて、テーブルを見せると、同居人は目を見開いて立ち尽くした。それを尻目に彼は、風呂場へと向かった。「ひと汗流したらメシにしようぜ」
彼は湯船に浸かりながらほくそ笑んだ。同居人の驚き顔が愉快でたまらない。
「見た目だけじゃない。味も格別なんだぞ」
風呂からあがり、身体を拭う。だがその時、彼は遠くから聞いてはいけない音を聞いてしまった。
パチパチと弾ける音、それとコンロがフル稼働する音。彼は下着姿のままでダイニングへ飛び出した。
「おまえ、何してんだ!?」
腕を振るった料理は、すでに手がつけられていた。先に食べたのではない。スプーンですくっては、煮えたぎる油の中に投じていたのだ。
ドリアも、シチューの肉も、こんがりとしたフライに変貌していた。
「どうだ。思い知ったか」
同居人が振り向く。その顔に薄ら笑いが貼り付いていて、見ていると怖気が走った。
「何の事だよオイ」
「お前のそういう所、前から気に食わなかった。自慢たらしく料理を並べやがる」
同居人は、一枚の皿を差し出した。そこには湯気を放つフライが転がる。
揚げてやったぜ。お前の料理をプライドごと――。
ー完ー




