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3、豚

殴られずに今日という日が終わること――それが僕の願いだった。


預けられた先は親戚の叔父さんで、とにかく怖い人だ。ひっきりなしに怒鳴り声が聞こえて、そのたびに僕は駆け回る。


「いつまでチンタラしてんだ、さっさと庭を片付けやがれ!」


端が見えない広大な農園を、西へ東へと走らされるのだ。


毎日クタクタになるまで働くと、屋根裏部屋に押し込まれる。出歩くとか、談笑するような機会なんてない。独りきりで、擦り切れた毛布にくるまるしかない。自然と涙があふれてくる。


「いつまでこんな生活が続くんだろう」


胸のアザをそっとなでた。青く腫れたところは微かに痛んだ。左目に出来ていたアザは最近小さくなった。殴られた時を思い出すだけで、今この瞬間も、背筋に冷たいものが落ちていく。


明日なんて来なければ良い――。そう思っていても朝日は昇る。そして怒声から1日が始まるのだ。


「藁をかえとけ、エサやりも忘れんなよ!」


今日の仕事は豚小屋の世話だった。小屋そのものは広いけど、豚の数は多く、ひしめき合うほどだ。彼らはまともに走り回ることもできない。ただ与えられた水とエサを食らうだけだった。


「僕も君たちと同じだろうさ。不自由で、窮屈なまま、ただ生かされるだけ……」


胸に込み上げてくるもの――それが何か分からないまま、手を動かした。これ以上アザを増やしたくはない。


古くなった藁を手早く集めて、外に持ち出そうとした。まさにその時だ。叔父さんの怒鳴り声が聞こえた。それは僕に向けたものじゃなかった。


「この畜生め、さっさと小屋に戻れ!」


物陰からそっと様子を窺う。叔父さんはトラックの傍で、出荷する豚をまとめようとしていた。そこに一頭の豚が躍り出たようだ。


巨漢の男に向き合う小さな体。勝ち目のない相手を前にしても、豚は毅然と睨み合っていた。


その勇姿を、僕は震えて眺めるばかりだった。自然と目頭が熱くなる。それでも次に目にした光景を、僕は生涯にわたって忘れることはないだろう――。


いきりたった豚が、叔父さんの足をぶった。



ー豚 完ー 



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