2、みかん
もう友達はいらない――と少年は呟いた。
度重なる転校、絆をリセットさせられる運命に翻弄され、負けたのだ。
引っ越したばかりの片田舎に、土地勘も伝手もない。どこへ行くにも独りきり。だだっぴろい公園で、同世代の子どもたちが通り過ぎていく――それを横目にため息をもらす。そんな毎日だ。
とある日の事、見知らぬ女の子が彼を遊びに誘った。赤い生地の艶やかな和装という、珍しい格好をしていた。
なかば強引に引っ張られて、あちこちに連れ回された。足は少女の気ままに向く。美しい沢、広大な湖、無限とも思える丘陵。少年には全てが真新しい。大自然の絶景を楽しむうち、徐々に少女と打ち解けていった。
2人はしょっちゅう遊び回り、年相応のいたずらもした。ミカン農家からこっそり実をとって、怒られることも珍しくなかった。
その友情は、少年が中学にあがるとき、終わりを告げた――。
県外の私立校に通いだしたことで、自ずと少女とも縁遠くなった。学業に部活で忙しくする。だがある時、少年は少女をふと思い出した。
「あの子は元気にしてるかな」
懐かしさから、周りに尋ねてみた。しかし誰も彼女を知らない。両親も、小学校の同級生や先生でさえも首を横に振った。
そんなはずはないと、少年は地元を探し回った。胸は焦りでいっぱいだ。大切な友達だった。孤独から救ってくれた人だったのに、なぜぞんざいにしたのか。自責の念が彼を走らせる。
一日中駆け回った彼は、小さな祠を見つけた。小学校の裏手にひっそりと佇むそれには、石像がひとつ収まっている。
真っ赤な布をまとった像――差し込む夕陽がいっそう赤々とそめていた。
「まさか、君だったの?」
問いかけに答えはない。かすかに吹いた風が梢を揺らすだけだった。
少年は財布を取り出した。近くの自販機で飲み物を、そして無料販売所でミカンを買い、供えた。
「また来るからね」
彼が背を向けて立ち去ろうとした、その時だ。
彼の頬をそよ風がなでた。祠に向かって吹きつける。その時、囁き声が聞こえた気がして、思わず振り向いた。
その視線の先には見えたのは――
アルミ缶の上にあるミカン。
ーみかん 完ー




