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15、鶏肉

スーパーを渡り歩くのは、もはや日常だった。


この店は卵が安い、あっちは冷凍食品が半額、向こうは見切り品が充実。町内どころか、市内全域のスーパーを把握していた。


しかし知識だけでは生きていけない。先立つものが必要だった。


「米はあるから、給料日までもつけど……」


贅沢は言わないのでオカズが欲しい。漬物や海苔は高い部類だ。安価で満足度を得られるものは、そうそう転がっていない。


おもむろに特売広告を開く。


「またパンの耳ライスでも食うかな……ッ!」


その時、スマホ画面に目が吸い寄せられた。鶏肉が異様に安い。一日限りとはいえ普段の半額だ。


「肉だ、肉が食えるぞ!」


足に羽が生えたかのような心地だった。特売日まで待ち遠しい――。それ以来は布団の中でも、バイトの接客中も、店長に叱られる最中でさえ、そわそわと落ち着けなかった。


そうして迎えた決戦の日、意気揚々と出発するはずだった。開店前から作られるだろう行列の、その先頭を取る――予定ではいた。


「ぅぎぎ……。腹が!」


不運がオレの内臓を蹂躙して、尻から溢れ続けた。追求しようにも心当たりしか無い。そして今は犯人探しのシーンではない。


「出遅れた、致命的に……!」


すでに開店時間を過ぎている。歴戦の猛者たちは特売品に群がるはずだ。救ってやらねば。お肉たちが欲望の手に攫われる中、せめて1つだけでも、我が家に迎え入れなくては。


機を見計らって家を出た――まだ腹に不安は残る。今も猛獣のうなり声にも似た音を撒き散らした。


「なめるなよ。トイレをハシゴすれば行けるんだよ――戦場に!」


脳内には全スーパーが記憶されている。途中でいくつものトイレを経由して、どうにか目的地に辿り着く。開店から小一時間が過ぎていた。店内で激戦が繰り広げられたらしい。


――死屍累々という言葉が浮かんだ。


古強者が駆けたあとに、スカーフなどの私物が散乱。将棋倒しでも起きたか、陳列棚も激しく乱されていた。


「これはもう、生存者なんて……」


よろよろと生鮮食品売り場に向かうと、そこには一パックだけあった。ファミリーサイズの鶏むね肉。思わず飛びつこうとして、手が止まる。


その肉は包装ビニールが破けていた。さらに靴底の跡がいくつも刻まれていた。


「客に踏まれてしまったのか」


唯一の成果、もちろん安い、だから欲しい。喉から手が出るほどに。しかしさすがに土足で踏まれた物は躊躇する。


本当に、この鶏肉は取りにくい――。



ー完ー

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