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13、馬

動物好きが高じて私が獣医になったのは、自然なことだった。引退馬のお医者さんだった父の跡を継ぐ形だった。


そして、幼馴染のカツヒコは都会に憧れていた事もあり、東京の商社に就職した。それも当然の帰結だった。


私とカツヒコは恋人同士ではなかった、しかし単なる友達とも言えない不思議な間柄――。お互いの距離を詰める前に、こうして遠ざかってしまった。電車で2時間という実質的な距離よりも、離れてしまったように感じられる。


それでもカツヒコは帰省するたび、私に声をかけた。もっぱら駅前のカフェで合流して近況報告。仕事はどうだと、新生活はどうのと、ざっくばらんに話し合えたものだ。


何度目かの帰省の時、ひどく驚かされた。カツヒコが急に大人びて見えたのだ。その姿に、なぜか不穏なものを感じられた。


「社会人になってお酒を覚えたんだ。東京は店が沢山で、うまい飯も多いよ。桜肉ユッケとか、モツ煮も良かった。先輩には、たまにキャバクラに連れてかれるんだけどさ、もうホント美人だらけだよ。こんな綺麗な人がいるとか信じられないくらい――」


そのセリフを聞いて、私の頭は真っ白になった。生返事ばかりになって、お店のコーヒーもほとんど手につけず、逃げるようにして帰ってきた。


それからと言うものの、私は少しずつおかしくなった。仕事もプライベートも全然まわせない。カツヒコの言葉が胸に突きたっているせいだ。何をするにしても、彼のセリフを思い返しては、心がささくれた。


「ちゃんと伝えなきゃ。このままじゃダメなんだ……」


自分の気持ちを誤魔化せない、カツヒコに打ち明けよう。使命感にも似た欲求に突き動かされた。


でもどうやって伝えるのか――実際に会うのは避けたい、本人を前にすれば上手く言えない気がする。電話も違う。チャットやメールは論外。


考えているうち、やがて「手紙」という手段に辿り着いた。対面せず、想いが強く伝わりそうな方法は、悪くないと思う。


「よし、書くか。素直な気持ちで、バカ正直に……」


私はペンを手に取るより先に、自分の親指をかじった。傷口から滲んで滴り落ちる血を、小皿で受けて集めていく。その時の私は笑っていたか、真顔だったかもしれない。


そうやって集めたばかりの血をインク代わりにして、手紙をしたためていく。一言一句、真っ直ぐな想いをこめながら。


――馬はウマかったか? 可愛いお馬ちゃんを食べるなんて、死ぬまで許さんからな。呪われろ。



ー完ー

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