12、格下
お前たちは死ぬ為の兵だ――。
その第一声に、付近から集められた若者たちはザワめいた。そこに紛れた小柄な少年も、肩を震わせた。
「我らが赴くのは殺し合いの戦場だ。覚悟なき者は去れ」
歴戦の団長が放つ気迫に、ひとり、ふたりと腰を抜かした。少年も膝を屈しそうになる。だが、脳裏を過ぎる父の姿が、それを阻んだ。
年貢に苦しめられ、畑を捨てて酒に溺れた父親――あぁはなりたくない。絶対に成功者になると決意を固くする。彼は小さな拳を握りしめて、団長を睨み返した。
すると団長はきびすを返した。「へたり込んだ者は置いていく」行軍を開始した。
この騎士8名に民兵17名の小部隊は、死地という死地に現れた。魔族と見れば、すかさず襲いかかる。
「全軍かかれ!」
戦法は定石通り。大盾を携える騎士と共に、民兵が正面で戦う。押し合いで膠着した瞬間、背後に回った騎兵たちが魔族を掃討する。
激しい戦いが続いた――いつしか民兵は半数に減った。それでも少年は生き延びている。必ず父親を見返してやる、という一心だった。
彼らは目覚ましい戦果を重ねたが、窮地に陥った――。月夜の行軍中、予期せず魔族の大群に襲われた。
「散り散りになって退け!」
号令で全員が逃げ出した。その背中を襲われて何人も食われた。民兵も、騎士も区別がなかった。
少年も一目散に逃げた。気づけば森の奥深く、皆とはぐれてしまった。やがて暗闇で、不気味な瞳がいくつも煌めいた。
――美味そうなガキだぞ。
――あの腹を食っちまいたい。
――アタシは足を1本もらうね。
響く哄笑、向けられた殺意、少年は理性を失いそうだった。
「嫌だ! 助けて父さん!」
泣き喚いた刹那、少年の身体が浮いた。颯爽と現れた白馬の背に乗せられたのだ。
騎乗の人は団長だった。
「生き残りだと思えば、貴様か小僧。これは戦力にならん」
少年は団長に抱えられる間も、震えが止まらなかった。その姿に目を向けた団長は、打ち捨てられた廃村に駆け込んだ。古びた蔵を開き、少年を中に押し込める。
「団長、なにを!?」
「聞け小僧。これに懲りたら戦争ごっこはやめろ。だがもし、一握りでも悔しさがあるのなら――」
団長は真っ直ぐな瞳を向けながら、蔵の戸を閉じた。
「いつかオレの仇を討て」
彼は馬にまたがり、駆け出した。そして闇夜を切り裂くほどに吼えた。
「かかってこい、この首は安くないぞ!」
たった一騎で、有象無象の魔族に突貫した。
格下を蔵に隠したままで――。
ー完ー




