第3話 迎えに来たもの
「それで、本題は?」
ここまで、ずっと黙ってメニューを見ていた弓丸が口を挟んだ。
「何か共有しておきたいことがあったんだろう。早い方がいい」
弓丸の表情をちらりと窺ってみたものの、その様子は冷静そのものだ。さっきの話にも、弓丸は何も言ってこなかった。思うところは気になるが、確かに今は急いだ方が良さそうだ。
「これ、とりあえず見て」
メッセージアプリ〈マイン〉の画面。やり取りの相手は、四年近く連絡を取っていなかった中学校時代のクラスメイトであり、かつ旧五年一組のメンバーだった女の子。
「昨日の夜、急にメッセージが来たの。内容は、旧五年一組のメンバーが次々といなくなってるらしいってこと。この子も昨日の昼頃、別の子からこういう連絡もらってたんだって」
それで私も、昔のグループマインやチャットをできるだけ辿ってみて、旧五年一組の数人に連絡してみたのだが。残念ながら、誰からも既読はつかなかった。
「へぇ……確かに気になりますね。その失踪ブームっていうのはいつから始まってたんですか」
アヤの口から、ラテを吸っていたストローが離れる。中身はすでに空っぽだ。
「それがね、よく分からないの。なにしろ七年前のことだから……進級とか進学のタイミングでどんどんバラバラになっちゃって」
「つまり、情報共有の即時性に問題があったがゆえ、詳細で正確な情報はこれ以上期待できないってことですね」
「そういうこと」
「藍果」
弓丸がアヤと私の会話を遮り、サッと周りを見渡した。而葉さんが白玉の最後の一つを飲み込んで、怪訝そうにスプーンを置く。
「どうかしました? 芳帖の君」
「人が消えた。あるいは、僕らが」
いつの間にか、他の客は皆いなくなっていた。客だけじゃない。弥永のおばちゃんも、アルバイトの人もいない。この店内にいるのは、私たち四人だけだった。
「……わらび餅はおあずけか」
弓丸はほんの少し口をとがらせ、残念そうに呟く。
「え、食べたかったの」
「そりゃそうさ、だって……いや、今はいい。それよりも」
「藍果さん、あれを!」
突如、店内に大きな鏡が出現する。その向こうから聞こえてきたのは、妙に音程の外れたピアノの音。
「さっきから何なんですかこれ、どういう」
アヤが席から立ち上がり、その拍子にガラスのコップが落ちて割れた。おそらく、元々は心を優しく包み込む長調の和音。そこから、半音ずれて音も抜け落ち、ゾンビのように様変わりしたメロディが鍵盤の上を転がっている。
「この、曲は……!」
思い出した瞬間、曲の音量が一段と大きくなった。がくん、と引っ張られるような感覚が全身を襲う。私は隣にいた弓丸の手を握り、通路に一歩踏み出して而葉さんの手も握った。アヤの位置は私の斜め前、私にある手は二つだけ。
「而葉さん、アヤと手を繋いで! 早く!」
「あっ、く……っ!」
鏡の中に、吸い込まれる。流れていたピアノの曲は、私が卒業した小学校の校歌だった。




