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優しさへの清算

ミカが果胡を掴む手は今度こそ力が抜け、さらに固まってしまった。驚きに目を見開き、その瞳の中で松明の火が揺れている。乾燥して涙が出そうだが大丈夫だろうか。息はしているだろうか。リアクションが大きな人だとは思ったが、ここまで大袈裟にしてくれると少し心配になってくる。


「あ…あの…、ミカ?」


何度か呼びかけても、目の前で手を振っても反応しないので、伸ばしたままの手をギュッと掴んでやった。見えぬ箱の中身に触った時のように飛び上がった。やっと起動してくれたようだ。


「ししししししししししんりょ、神力って、カカカカカコ、お前…!?」

「しっ!ミカ、静かに!まだあなたにしか言っていないんだから大きな声出さないで下さい!」

「おおおお俺、だけ…」


あなたにだけ、君にしか、お前だから、限定品、○個限定。人間はそんな言葉に弱い。バートから託された話術の一つを披露する時が来た。本当に面白い様にミカは反応してくれる。嘘は言っていないからこちらの罪悪感もない。これから少し動いてもらうことになるのは申し訳ない。若しくはこの枷を外して牢から出してくれれば自分でやるが、それは無理だろう。


「実は、私、後天的で神力が芽生えまして。その時にはもう神子様は決まっておりましたので神子として選ばれることはなかったのですが、これが割と力がツヨクッテ」

「ほほほ本当かそれは!」

「何なら、今ここで証拠見せましょうか?この牢、吹っ飛ぶかもしれませんけど」

「!?」


さすがに嘘だ。神力は静の力。そんな暴力的な事象は起こせない。だが、詳細に知っているのは魔力や神力に長けたもの。ミカは見たところ魔力も然程強くなく、知識も薄い。笑顔で小首を傾げる果胡から急いで距離を取ったのが何よりもの証拠だ。


「ややややめろ!分かった、信じるから!」

「ありがとうございます。でもミカ、あなたちょっと気を付けた方がいいですよ。そんな簡単に人を信じるなんて、いつか詐欺に遭いそうで心配です」

「俺はどうすれば」


今は果胡にとってミカは都合良く反応してくれるからいいが、状況が違えばミカとはいい友達になれていたはずだ。友達には出来れば幸せになってほしい。

ふと、ミカの腕に擦り傷を見つけて、鉄格子越しにそこにチョン、と指を触れさせる。当然ミカは驚いて腕を引っ込めようとしたが、それよりも早く傷を青白い光が包む。彼の驚きの目の色が怪訝なものに変わっていった。


「な…、に、を…」


光が空気に馴染むように消えていくと、同時に傷も跡形もなくなくなっていた。えっ、という声も発せぬまま、ミカは今目の前で起きた現象に再び固まってしまう。


「これが、神力です。治癒というのは神力で行える代表的な技術です。…一応、これが証拠になります」

「……な、ん……っ、…し、証拠なんてなくても、信じるって言っただろ…!」


自分の傷と果胡を交互に見て、未だ信じられていない顔をしているが、果胡自身を疑っているわけではなさそうだ。ただ今起きた現象が奇想天外すぎて理解できていないだけで。

治癒という力は神託を受ける時と同じくらい力を消費する。自然に治るような傷には本来使わないようにしているのだが、今回は念押しの為にやむを得なかった。数センチのこのくらいの傷であれば、支障が出るほどの神力の消費はしない。それでも運動場一周したくらいの疲労感は肩にのしかかり、バレないように一度深く息を吸って吐いた。

その間に、何故かミカの表情は何だか納得いかないものになる。本当に表情だけで心の中が読めてしまう人である。


「ミカ?」

「……何で言ったんだよ…」

「はい?」

「神力のこと、何で俺に言ったんだよ!」

「何でって…」


それは任務を遂行しないといけないからだよ、とは言えない。まさか何か不審がられたのかと思ったが、彼の表情を見るに、そうではないらしい。


「当主は神力を持つ者を探しているって言っただろ!」

「まぁ、はい。言ってましたね」

「なのに何故神力を持っていることをばらした?お陰で俺はこのことを上に報告しなければならない!」

「ああ、それが面倒だと」

「違う!」


面倒事に巻き込まれたくないと言っていたから、てっきり巻き込まれたことを怒っているのかと思ったが、ミカは即座に否定した。顔で感情は分かるけど、考えていることまでは分からない。

ミカは一度言うか言うまいか迷ったように逡巡したが、喧嘩の謝罪をするときのように、悔しさを抑えた声で続けた。


「…うちの当主はお世辞にも()()()()だとは言い難い。今玩具だと言われる奴も、人間として扱われているかどうかも分からない。なのに、神力を持つ人間が現れたなんて聞いたら、何されるか分からないんだぞ!」

「……ミカ」

「俺は聞いた以上、どうしたってカコのことを上に報告しなければならない。俺にしか言っていないんなら、俺にも黙っておけばお前は助かったかもしれないのに…!」


彼は、見張りには向いていないと心から思う。

門番にも、兵にも、全然向いていないと思う。

戦いに赴いたとしても、今から攻撃しますと顔が言ってしまう。ちょっと奇襲を受けたら、パニックになって失神しそうだ。バレバレの嘘を信じ、ちょっとしことで欺かれ、囚人だって取り逃しそうだし、牢の鍵だってすぐに奪われそう。


何より、彼は優しすぎるのだ。


何故こんなところで働いているのだろうと不思議なくらいに。







「…ミカ、ごめんなさい」

「……何で謝っ…」







揶揄ったわけでも何でもなく、果胡は無意識にミカの手を握りしめていた。





「巻き込んでしまってごめんなさい。関わりたくなかったですよね」

「……そういうわけじゃ…」

「でも、このことをミカが上に報せてくれれば、私はきっとこの牢から出れます」

「そりゃそうだろうけど、その後何が待ち受けているか…」


ミカも恐らくベルクマン当主が何をしているのか、詳しくは知らないのだろう。知りたくもなかったのだ。人間の尊厳が踏みにじられるようなことを、もしかしたら仕えている家でしているかもしれないとは、思いたくなかったのだ。

だが、彼もベルクマンに仕える身。このままこの生活を続けていくなら、いつかは知らねばならない。そんなこと、きっと彼も頭では分かっているはずだった。


「大丈夫、上手くやりますよ。少なくとも明日は、ここよりもいい環境で寝たいと思いますから」


ミカの貸してくれた布団は持って行こうと思う。彼の温かさが勇気をくれる。

そして、ふっかふかの布団を代わりに彼に貸してやればいい。この家に仕えてから、そんな贅沢な布団で寝たことなどないのだろうから。








「美味しい食事が出たら、ミカのところに持ってきますね」








ミカの優しさに、まだ応えられてなどいない。









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