第10話 ⑫ お兄ちゃんの国土改造計画 インフラ整備編
農業については全国的に安定した水の供給が行えるようになり、分水についても円筒分水を水争いが激しかったところから優先して設置して紛争を沈静化させることに成功。収穫は目に見えて増え、各作物の収穫期ごとに倍増するほどの勢いとなっていた。
「王都近傍に国立の農業試験場を設置して作物の品種改良や肥料に農機具、そして農法の研究をさせるんだ」
農業については現代日本からいきなり導入して大発展というわけにはいかない。そもそも転移可能な生命は激選されており、サトルたちは発芽可能な種子を持ち込むことができなかったからだ(これは病原体についても同じで、こちらの風土病を日本に持ち込むことも、逆にイトナに持ち込む事もなかった)。
そのため持ち込めるのは知識や道具に限られていたので、それらを活用するための研究を行う場が設けられたのだ。
「だけどこの方法が最善だって断定して、いきなり全土に実施させることをしてはいけないからね……」
「ですね。そんな事をしたらどんな事になるかわかりませんから」
農業試験場はあくまでも研究機関であり、ここで研究・開発された作物や農法がそのまま全土に適用されるわけでも出来るわけでもない。全土が不作に陥っても飢餓を発生させず持ち応えられるだけの作物の栽培と備蓄を義務付けはしたが、特定の作物の栽培のみを強制したりすることは戒めていたのは地球の歴史を鑑みたからだ。
「例えば江戸時代の大飢饉は商業作物ばかり作っていた地域で酷い事になっていたし、プランテーションなんて地元住民の事は無視だからね」
「社会主義体制の国の農業は画一化されたせいで、実態無視で行わされてあまりにも大勢の犠牲者を出したわけですから……」
農業は気候風土や作物、そして耕作者とその文化や技術などに大きく左右されてしまうので、上から画一的に取り決めてしまうと破滅的な結果を出してしまうのは人類史が証明するところである。
とはいえ、農業技術の発展には場当たり的ではない計画的な土地の利用や区画整理など、明らかに個人のみの力では実行不可能な事も求められる。
「用水路の整備は大規模なものは国が、細分化するに従って、領、町村で行うことにする。しかしそれに伴って開発された農地は必ず区画を整える事を義務付ける。既存の土地についても面積と土地の状態を勘案して、十年で整備する」
イトナは統一が果たされてから徐々に農地が広がっていたが、それは個々の農民たちが自力で行うことが多く、どこもいびつな形状になっていた。
しかし今回の治水事業の結果、世界帝国時代の整然とした用水路網が復旧・拡大されたので、これを機に新規に開墾された農地は必ず整然と区画を整えることが義務付けられ、既存の農地も十年間で整理することが求められることになった。
しかし既存の農地の区画整理だけは大きな反発を持って迎えられてしまった。
「この土地はイトナが出来る前から先祖代々守ってきた我が家の土地だ!」
「それを他人と切り盛りしろだなんて!」
整理を行った土地からの租税徴収は費用を勘案して二年は半額、その後も当面の低率減税が布告されたが、先祖代々受け継いできた土地をいじる事への反発は大きかった。
「やっぱりこうなってしまったか……」
ある程度予想はしていた事だったが、ダイキさえ口出ししなかった土地への介入は、それだけで各地で反発を招いてしまったのだ。
「とにかく今は改めて説明することと、モデルになる耕地の設置を予定より拡大しよう……」
ある程度は反発が予想されていたので、王領ではすでにモデルとなる耕地の設置を行わせていた。そこでは農閑期のうちに直線に農地を整理し、既存の品種を一定の間隔で条まき、あるいは点まきさせた。
「最初に手間は掛かるが、これで後が楽になるというが……」
イトナでは種は穀物類は種子を規則性無くばら撒いて栽培していた。そのため雑草の除去が困難で収穫量を下げてしまったり、風通しの問題からの病気の発生に悩まされたりしていたのだ。
しかし耕地を整理した上で、種子を直線上に筋蒔き、あるいは点撒きしたモデル耕地では、ワーウルフ族から借りた家畜を使った耕耘が驚くほど楽に、手早く済むので借り賃は安く済むことに。さらに雑草の除去が驚くほど楽になり、風通しも良いのでそれが原因の病気に作物が掛かる事が周囲の既存の畑より圧倒的に少なくなっていた。
「こりゃ凄い。刈り取りが楽だし、どれも立派に育ってるぞ!」
迎えた収穫では村中の者たちが集まって各々の畑で一斉に刈り取りを行うのだが、その際にモデル耕地での成果を村の全員が実感する事になったのだ。
「オレは早速、耕地整理を届け出てやってみたわけだが、これでこの畑の収穫は倍近くになって、今年と来年はこの畑の分は免除ときた!」
管理のしやすさと収穫の増大。さらに当面の租税免除という条件を鑑みて、耕地整理の効能を実感した農民たちは、次の農閑期のうちに耕地整理を続々と行いはじめた。
「免除期間があるから一時的には税収は減るけど、長期的には絶対に増加に繋がるんだ」
耕地整理は村長の影響力が大きい村や、隣人との関係が良好な村では瞬く間に普及し、目に見えて収穫を増やしていた。それを目の当たりにした近隣の村々も耕地整理が推進されていく。




