第10話 ⑨ お兄ちゃんの国土改造計画 インフラ整備編
王都の上水道の整備と同時に、サトルは王都の下水道の復旧・再整備にも着手していた。
「上水道の整備に合わせて下水道の再整備も同時に行う。この二つが揃ってようやく改善できるんだ」
王都の下水道はかつての世界帝国時代に建設されていたが、それは生活排水も屎尿も雨水も一まとめに、何の処理もせずに暗渠から下流に廃棄して流す方式だった。しかし現在はというと、その暗渠さえ大半は忘れられるか埋められるかで放棄されていたのだ。
「当然、下水道の暗渠の復旧と再整備ですね」
「もちろん。使えるものは遠慮なく使うよ」
国王たちが健在の時から行われていた調査で、王都に敷設されていた下水道網の全容はおおよそ判明していた。その結果、改めて世界帝国時代の都市計画は驚嘆するほど合理的に整っていたことが確認されたので、大きな暗渠を復旧させることで主要な箇所は対応可能と思われた。
「下水と上水は絶対に混ざらないように敷設する位置と深さには十分してくれ。折角の上水が汚染されて感染源になるようなことは絶対に防ぐように」
上水の管と下水の管は法で色分けが義務付けされ、上水が汚染されないように注意が払われる。
「あとはトイレとの直結をどうするか、だな」
「それに雨水も一緒に流すかどうかも決めておかないといけないわ」
サトルが本腰を入れたので、現在の王都では衛生活動が徹底されたことで何とか路上への放棄は取り締まり、汲み取り式がようやく定着してきたところだった。
「今の王都の総人口は二万人程度だから十分間に合う。今のうちに法律も設備も整えて、発展に合わせて順次拡張していけばいい」
かくして下水道の復旧・整備にあわせて五年以内にトイレを全て下水道への直結を義務化することに。
さらに雨水と汚水を明確に分離し、雨水は側溝から城外に排出し、汚水は下水道に流すことで対応した。
「下水処理場の設置はどうなんでしょうか?」
マナの問いに言葉を濁すサトル。
「下水処理場の仕組みは調べてみたけど、どうしても浄水場みたいにこっちで導入するのは厳しかったんだ。だから現状は塊は沈めてから除去して、上澄みは希釈してからなるだけ王都から離れた下流に放流することにしたよ……」
下水路はいきなりクルクゴ川に繋げるのではなく、できるだけ王都から距離を取ってから試験的に処理を行いつつ放流する事に。
「浄水場はともかく、下水処理場はどうしても外部から動力使わないと厳しいんだ……」
「活性汚泥そのものの利用は当然可能でしょうけど、空気を送り込むのがネックなんですね」
地球において本格的な下水処理場は二十世紀の、第一次世界大戦勃発の年に完成したものが嚆矢とされている人類史ではかなり新しい部類の技術・設備である。そしてその処理方法は活性汚泥法と呼ばれるものだった。
活性汚泥とは大量の微生物が住み着いている汚泥を差し、これを汚水に投入をすることで、微生物が汚れを分解・浄化する方式である。
原理的にはかなり単純で、例えば自然界では岩場のぬめりや干潟などがその役目を果たしており、下水処理場は人為的にその環境を整え、よりスピーディーに分解・浄化を促す場とも言える。
しかし本格的な下水処理場には汚水のくみ上げはともかく水中に空気を大量に送り込む巨大なエアポンプなどが必要になるので、安定した動力源の確保が難しい今のイトナでは本格的な導入は困難だったのだ。
現状では一度下水を王都から一段下の沈殿池に貯めて汚泥を沈殿させて上澄みと分離。上澄みの大半はそのまま勾配を下らせてから、用水路の水で希釈させて下流に放流した。
しかし上澄みの一部は試験的に作らせた下水処理場に送られていた。サトルはマナたちを連れて施設を見学する。とはいえ退屈だろうからとカツミは辞退したが。
「匂いがするのは我慢してくれ」
「それは承知です」
暗渠を潜っている間は外気に匂いは漏れないが、出れば当然外気に匂いが散っている。一行はマスクを装着して施設を見学していた。
施設にきた汚水は勾配を下らせてつつ複数の水車を回させ空気に触れさせながら池に導かれる。この池には活性汚泥を投入しておき、さらに水車を動力にふいごを動かしてエアレーションを行わせた。その上で上澄みを引いて再度沈殿させ、その上澄みは川から引いてきた水で希釈してから放流する事に。
「王都は丘の上の都市だから汚水は勾配を下らせたり、水車を動かしたりしてして工夫はしてみたけど、やっぱり目標には届かなかったんだ」
しかしそれでも汚水の分解・浄化処理が行われている分、こちらを経由した排水の水質は改善はされていた。
「でも落差使ってる方法だから、この王都以外では使えないんじゃないかな?」
マドカの指摘は最も。エアレーションやポンプを恒常的に利用できないと、やはり機能的な下水処理場は無理なのだ。
「だから今後は平地でも使える方法を開発しないと……」
なお、現代の下水処理場では放流前に塩素などで殺菌処理が行われているが、塩素が大量に製造できないイトナでは現状では残念ながら見送りに。また汚泥は焼却処分されるわけだが、こちらは経済的な理由だけでなく、別の目的に使うためにも見送られていた。
「汚泥は他に使い道があるからね」
サトルは回収した汚泥を他の場所に移送するよう指示をしていた。汚泥は別の活用方法があるというが、それについては後ほど触れることになる。
「いずれにせよ王都の下水がきちんと処理されるようになれば、井戸水もいずれ浄化されて使えるようになるわね」
下水道の再整備が行われた事で、汚染源が無くなった王都の井戸水の水質改善も徐々に進むことになる。そうすればいざ篭城となった時の飲料水としても活用できるのだ。
「とにかく何が起きるかわかんないんだから、水はきちんと確保して長期間の篭城にも備えないといけないもんね」
騎士としての見解を語るマドカに同意する一同。上下水道の整備は水不足や篭城への備えにも繋がるのだ。




